コンビニ店員、お嬢様を見守る。
ーー最悪だ。
譲の感想はこの一言に尽きた。
レジに立つのはお嬢様ひとり。カウンターを挟んで向かいに立つのは……。
只今の時刻は午後八時過ぎ。帰宅ラッシュも終わり、コンビニにとりあえずの平穏が訪れる時間だ。
そこを狙ってお嬢様は今、ひとりでレジに挑戦している。やはりと言うべきかいつまでも譲がつきっきりというわけにはいかず、徐々にお嬢様に慣れさせながら、とうとう独り立ちの日がやってきたのだ。
分からないことや困ったことがあったらすぐに呼ぶようにと念押しして、譲は別の作業をしつつ、お嬢様の様子を見守っていた。
「加納くん、何やってるの?君、すごく怪しいよ?」
棚の陰からレジをしきりに伺う不審な店員を見とがめ、店長が後ろから声をかける。
「店長。静かにしてください。今、久遠寺さんがレジに挑戦してるんです。何かあったら俺がすぐに駆けつけないと」
「なんか、久遠寺さんに対して過保護すぎないかな?久遠寺さんはお嬢様育ちでこういった事には不慣れかもしれないけど、彼女は何も出来ない子供じゃないんだ。もう少し……」
「いらっしゃいませ」
入店を告げるベルが共に店内に可憐な声が響き渡る。お客様がご来店したのだ。
店長が何やら良いことを語ろうとしていたのをぶった斬り、譲はどこぞの家政婦のごとく棚にへばりついてお嬢様の様子を伺う。
そして絶句した。おそらく想像していた中で最悪のパターンだ。
なぜなら、お嬢様がレジで初めて対応するお客様は、バイト初日に説教をかましたあのオタクくんなのだから……。