コンビニ店員、お嬢様にレジを教える。
「……で、最後に現計。どう?出来そう?」
「当然ですわ!わたくしに不可能はありませんことよ!」
お嬢様は自信満々に背を逸らす。譲はそっかと生暖かい目を向けた。
お嬢様は今、レジ打ちにチャレンジしている。正直不安だらけだ。別に、打ち間違えるんじゃないかなどの心配ではない。お嬢様は意外と優秀だ。物覚えはいい方だし、言われた事はきちんと丁寧にこなす。
じゃあ、何が不安かと言えば……。
モップがけとは違い、レジでは確実にお客様と対面する。感じのいいお客様だっているにはいるが、そうでないお客様だって同じくらいいる。
それで思い出すのはバイトの初日だ。おたく君にとったあの対応。不躾だったとしても、それを正すべきは別の誰かであって店員の仕事ではない。店員は笑顔で愛想よく、お客様にまた来たいと思われるような接客を心がけることが大切だ。
その第一歩はお客様に不快な思いをさせないこと。
果たして、このお嬢様はそうでないお客様を許容できるのか?
ある程度教えたら実践に移した方が上達は早いのだが、譲は踏ん切りがつかずに、往生際悪くこう言った。
「……とりあえず、しばらくは俺と練習しようね」
「……っ!!し、仕方ありませんわね。そこまで言うのなら教えられてあげないこともないですわ!」
お嬢様のことがまったく理解出来ない時がある。なぜそこで頬を赤らめるか譲にはまったくもって謎だった。
けれど早い段階で若い子ってそういうものだとその辺りは諦めている。
それとは別に譲の心配は底をつかないのだった。