私とあなたの恋の始まり
一目見たその時から、恋が始まることもある。
「あの、私……あなたに一目惚れしました!付き合ってください!!」
入学式が終わり、体育館から教室への移動中に、俺はその少女に告白された。
「……あんた、俺のこと知ってんの?俺は、あんたと初対面だけど」
俺がそう言うと、少女はじっと俺を見つめて頬を赤く染めた。
「私もあなたとは初対面です!一目惚れしました、付き合ってください!!」
俺は彼女の答えを聞いて、ため息を吐いた。
俺の顔はどちらかといえば整った顔立ちと言える。中学時代……いや保育園時代から、された告白を数えたら両手足の指では足りないくらいだ。
だから、俺も自分の顔には自信がある。
……だが、『一目惚れ』は一番嫌いな告白理由だった。
なぜなら、告白してきた相手が、人間を顔でしか判断していないと言っているようなものではないか。
「……あんたさ、俺の顔にしか興味ないわけ?」
俺の顔を上気した顔で見つめる少女に、少し意地悪な質問をしてみる。
大体この質問をすると、告白してきた相手は慌てて、俺の顔以外で優れている部分を挙げていくのだが……。
「……え、顔以外?顔以外に良いところ?ありませんが?」
まさかの答えに、俺は少女を問い詰める。
「一個くらいあるだろ!さっき首席合格で入学宣誓書読んだし、身長は高いし、声も良い!陸上で全中に行ってるし、絶対音感もある。その上、両親は会社を経営していて金持ちだ!」
そこまで自分の個人情報を教えた俺に、返されたのは熱い眼差しと笑顔だった。
「え?そんなこと知りませんし、興味もありません。顔に惚れました」
「……これだけハイスペックな俺の、顔にしか興味が無い女……。俺の今までの人生や努力を全否定された気分だ……」
「悩んでる顔もかっこいい……」
付き合うつもりは全くないが、この女に俺の顔以外の素晴らしい部分を認めさせなければ気が済まない。
「あんた、クラスと名前は?」
「1Aの野村さおりです!」
どうやら、同じクラスだったらしい。盛大なため息を吐いた。
「……クラスメイトとして一年よろしく」
「え!?一年間毎日あなたの顔を見放題!?やった!じゃあ取り敢えず、告白の返事は保留でもいいよ!これからよろしくね、……ええと、名前なんだっけ?まあ、いいかー」
「……名前すら興味がないとは……」
ここまで完璧な一目惚れをされるのも、なかなか貴重な体験だと思う。
恋が始まるかどうかはわからないが、とりあえず俺たちは『お友達から』関係を始めることにした。
「……中村誠一だ、改めてよろしく」
「あ、名前は普通だね」
……なんだろう、この嫌な予感は。
俺は胸に生まれたもやもやした気持ちを抱えながら、教室に向かったのだった。
そうして少女は、三年間かけて彼を口説きまくりました。
「私ね、誠一くんの顔は、よだれがたれていても、白目をむいていても、鼻血が出てても格好良いと思うよ」
「……さおり、俺はよだれをたらしたことも、白目をむいたことも、鼻血を出したこともない。人聞きの悪いことを言うんじゃない」
「うん、かっこいい」
「……」
「至近距離で見ても格好良いって、奇跡だね」
「……お前、目を閉じろよ」




