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作者: あるる

世界は歪んでいる。

歪。歪。歪。

絶望的なまでの欠落。

それこそが、まさに欠陥。

空間とも呼べないほど、安定していない。

それはもう、空間と定義できない。

今、生きているのは三次元。

三次元。すなわち、縦と横と高さをかければ、立体的になる。

そこに、時間をかければいい。

そうすれば、四次元という名の孔が生まれる。

物はそこでは定義されない。

人はそこでは定義されない。

どこまでも幻想的な、絶望的なまでの空間。

だからこそ世界は歪んでいる。

そこに位置しているすべても、限りなく歪んでいる。

歪。歪。歪。

歪こそが歪。

それこそが欠落であり、欠陥。

それこそが間違いであり、解答であり、無解答でしかない。

矛盾だらけの空間。

四次元。四次元。四次元?

何で僕はここにいるんだろう?

定義されない。定義されない必要はない。

むしろ、定義されなければ生きていけない。

定義こそが物質。定義こそが人間。

定義。それこそが、空間の証。

何を書いているのだろう。

意味が分からない。

ここには、僕しかいない。

定義され、存在する。欠落人形。

拒絶。断絶。絶対的な絶絶絶。

生きていることを偽り。

人であることを偽り。

壊れて、壊れて、壊れて。

ああ……もうやめろ。

苦し紛れに。

寂しそうに。

ただこのまま。で。永、遠に……コワレ、テ。イク、ダ、ケノ。

やめてくれ。

人形でしかない。

だが、それが現実であり。それが嘘偽りである。

やはり。完全なる矛盾。

いや、対称。合同。相似。いや、鏡映し。

すべては無に還るべきモノ。

それすらがエゴ。エゴこそが自己。いや、事故。

やめろと言っている。

夢。幻。夢幻。いや、無限。

有限。幽玄。有言。時はユウゲン?

無関係。無責任。だけれども、誘導的に。

果たして能動的に。

矛盾だらけだ。

だが、真実でしかない。

真実は。堅実。事実は。切実。

享楽。狂乱。狂瀾?

それは波が荒れ狂うこと。

狂瀾怒涛。恐悦至極。恐惶謹言。

意味が分からない。

それはただの言の羅列。

普遍。不偏。不変?いや、千変か?

否。変化こそが、逸脱。

逸脱こそが変貌。変異。

偏執だけが偏見。

すべては変貌冠脚において構成される。

監獄。牢獄。故に脱獄。

何が言いたいんだ。お前は。

最低迷言語学歴戦死亡国士気質問診断罪悪感覚悟性的発砲撃破壊滅殺人徳政権現実際限界面接着服用事故障害毒素顔相姦通夜烏類似非常体育雛鳥葬送迎春宵月光線路上梓弓術式神様子宮殿下降水煙雨中傷―――――

傷傷傷傷傷―――――!!!!

痛い。痛い。遺体。

これが、激痛。激烈。激突。

すべては、無罪にて有罪。流罪。犯罪。

生けることが罪。罪罪罪。

そんなわけがないだろう。

それこそが幻想。それこそが夢想。

夢、幻。

破壊に次ぐ、崩壊。

破滅に次ぐ、略奪。

破戒に次ぐ、破瓜。

奪い、殺し、痛めつけ。

破き、泣き、叫び。

もうやめてくれ!

生ける者の宿命。生けさせられる者の運命。

すべては痕の螺旋を紡ぐ。

襲襲襲。

醜悪に劣悪に邪悪に。痛々しい。

人形。人形。人形。

生けることも赦されぬ人形。

生命を失い、人権を失い、希望を失い、言葉を失い、夢も、愛も、鼓動も、血液も、心も、意味も、価値も、祝福も、努力も、痛みも、触覚も、自由も、何もかも、失い、奪われ、破壊された。

ナにモ、出、キナ、い。ニンぎ、ょ。う?

言うな、もう何も言うな!

雪辱。屈辱。汚辱。凌辱。

辱め。痛み。悲しみ。後は、死ぬのみ。

遊戯。それは逸脱。

言うなれば、アブノーマル。

嗤う。嗤う。嗤う。

ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは―――――

壊れている。

渦巻く怨恨。過去への邂逅。

人形。それは必然。それにて当然。

当然ながらに憮然。泰然。故に自若。

眼には芽を。歯には刃を。子には死を。

殺戮には殺人を。

衝動を。ここに。殺す。ために。

病気。それは、狂気。

そして、凶器。狂喜。故の狂、楽?

意味がわからないと言っている!

落ちる。墜ちる。堕ちる。

正解は堕ちる。すなわち、堕落。

堕天は罪。反逆者には神罰を。

消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ。

いや、既に消失。既に人形。

苦しみ、鬱屈し、灰になる。

そう。死して屍拾う者なし。

四肢手紙価発条尋卯喪野名死。

ゲンごキ能ニ、しョう害アリ。

目の前が、赤く染まって……

死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね死ねシネしね―――――!

あああああぁぁぁぁぁっ!

死に物狂い。なんと、見苦しい。

すべての矛盾。矛盾こそが矛盾。

矛盾であるがための矛盾。

矛と盾。これを以て矛盾と成す。

成すのか?否。成すまい。

壊れたカケラ。破片。フラグメント。ピース。

それは平和。戦乱。平和。戦争。平和。破滅。平和。破壊。平和。殺人。平和。殺戮。平和。平和。平和。平和。平和。平和。平和。平和。平和。

平和なのか?平和な訳がないだろう。

世は夜は変貌を遂げる。

人形は人を形どった。ただの物体。物質。無機質。

機械。機会はない。それこそが、奇怪。

醜い。見にくい。ミニクイ?

ヒトクイ。人くい。人喰い。

皆殺し。皆、殺す。鏖鏖鏖。

残酷。酷。酷い。酷い。酷い。

殺戮は赦される。

惨殺は赦される。

支配も。尊厳も。略奪も。破壊も。空想も。苦肉も。悪辣も。行過も。開発も。未完も。解体も。飛沫も。斬首も。処刑も。何もかも。

赦される。赦されうるセカイ。

否。否否否!赦すわけではない。

咎める者がおらぬだけ。

何故か?解答は。回答は簡潔。簡単。

お前が人形だからだ。

言うな言うな言うな!

喰い。暗い。クライ。

泣く。無く。亡く。鳴く。

叫び。戸惑い。苦しみ。死んで逝く。

死ねることが幸せ。幸福。至福。

生けることは不幸。恐怖。恐慌。

死に物狂い。死に物狂い。死に物狂い。

狂い狂い狂い狂い狂い。

konomamaikitemoimihanai。naraba、sindemoiinjyanainoka?

このまま生きても意味はない。ならば、死んでもいいんじゃないのか?

否。否否否否否。

拒否。拒絶。否定。否認。認めることなど。

あああああありえない。

ししsぬのならrばばば。認めmるがいいい。

お前えええは、どどどこまでdも、ににんぎょぎょぎょう。なのだだと。

お前に問う。そんなこと、認めれると思うか?

ギギギギギ。

歪み。原点は歪み。

時間をかけた四次元。空間。

それこそ空想。ファンタズム。

楽園は、パラダイス。いや、エデン。

理想郷は、ユートピア。いや、アルカディア。

どちらでも同じだろう。

同一。合同。いや、それこそ歪み。

まったくの異物。常に真逆。

真逆。いや、真逆。

等号を結ぶには、少々歪み過ぎた。

形状が、異状。いや、異常。

駆り。刈り。狩り。

殺せ。殺せ。殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。

きゃははははははははははははははははは!!!!

壊れろ。壊レろ。壊レロ。


光はない。心は、砕けるだけだ。



いつからだったのか。こんな悪夢に苛まれ始めたのは。

僕は胸元を掴みながら、もよおす嘔吐感を鎮めようとする。

苦しい。死にたい。シニタイ。

それは心からの願いだった。

生きていても、希望なんてない。生きていても、喜びなんてない。

心を失った。人形のような。僕は。

死んでしまえば、いいんだ。

机の引き出しをそっと開き、輝く物を取り出した。

あぁ、なんと鋭い刃。肉を穿ち、血液を迸らせるには充分すぎる得物。

自傷的すぎる自分。そんな自分すら嫌いだった。

嫌悪感を抱く。険悪な僕と自分の関係。

くだらない。くだらない。やっぱり世界はくだらない。

こんなゴミのような人形が何をしたところで、どうなるものでもないのだから。

泣きたい。泣きたい。泣きたいんだ。

「              」

自分が何を言っているのか。

わからなかった。

自分がどういう存在なのか。

わからなかった。

自分が今生きている意味が。

わからなかった。

だから。泣いた。

だから。死のうと。思った。

カタカタと震える指で、鋭い物を手首にあてがった。

ひんやりとした感触。心臓が異常な速度で脈打つ。

死ぬ。死ぬのか?死ぬんだ。死ね。いや、死ぬな。死んでしまえ。死んでしまえば。だめだ、死んじゃ。死ねって。死ねよ。嫌だ。死ねと言っている。死んでしまえば楽になる。苦しいだけなんだ。そんなことはない。死ねば。幸せ。死ぬことが。歓び。死に絶えろ。死死死死死死死。

ぷつりと。何かが切れた。

それは、きっと覚悟の糸。細く、縒られてもいない糸。

両側から引かれれば、一瞬で千切れてしまう。

鋭い物が震える手から落ちた。

「              」

拾わなくては、と手を伸ばした。

見えている。見えているのに。届かない。

何故だ?何故だ?何故だ?

簡単だ。

怖いからだ。僕はアレが怖いんだ。

やっと届いた。だが、鋭い物は僕に牙を剥いた。

指先が、切っ先に触れた。

「              」

熱い。熱い。指先が熱い。

見つめる。赤い。赤い。紅い。何かが。僕の。指先を。犯して。犯して。犯して。凌辱。凌辱。凌辱。蹂躙。蹂躙。蹂躙。

ははは。あははははははははははははははははははははははははははははは。

「              」

痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い―――――!

床をのたうちまわる。

指先が、指先が。激痛に。痛い。砕けた。砕けろ。痛い。壊れる。壊れれれれれれれれれれれrrrrr

痛いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!

少し切れただけなのに。どうして、どうして。

こんなに痛いんだ。

「              」

叫ぶ。叫べ。心のうちだけで叫べ。

それだけだ。声には出せない。

人形。人形。人形。

僕は人形なのだから。


ガチャリと。扉が。音を立てた。


ガチャガチャ、ガタン。ガタガタガタ。ガンガンガン。

誰かが鍵をかけた僕の部屋に侵入してこようとしている。

来るな。来るな。来るな。

「              」

音は激しく、ヒートアップしていく。

そして。鍵が、壊れた。

ゆっくりと扉が開く。僕は痛みも忘れて、凝視した。

姿を現したのは、バットを持った女子高生。

彼女は金属でできた得物を床に引きずりながら、僕に近づいて来る。

いともあっさりと。いとも簡潔に。簡単に。

僕を処分しにきた。執行者。

彼女は緩慢な動作で、バットを振り上げる。

そして、声を発した。


「ばぁか」


一言だけ言って、僕の頭部を激打したのだった。



「さっさと出て来いってのっ!」

「              」

「何?仕方ない?うっさいわよ、莫迦」

またしてもバットで殴られる。痛い。痛すぎる。

「              」

「うっさいってんでしょ。この引きこもりが!死にたいのかっての!」

もう一度バット。痛い。金属は反則である。

この危険な女子高生は、ただのクラスメイトである。

欠落人形の僕に構ってくる、ただのお節介だ。

僕は引きこもっている。学校には殆ど行ってない。

理由は簡単だ。

いじめ。いじめだ。

「ったく。何で学校こないのよっ」

「              」

「何よ。いじめぇ?アンタ、そんなのされてないでしょうが!それはアンタが人間不信なだけでしょ!」

そんな莫迦なことがあるものか。

奴らは僕をいじめた。

僕を見て嘲笑した。嘲った。なんという侮辱か。

信じられない。他人も。身内も。

信じれるのは自分だけだ。

「              」

「うるさいっての!死ねっ!もう死ね!」

バットが火を吹き、僕を何度も殴打する。

これ自体が既にいじめの域を超過していることを、彼女は見て見ぬふりだ。

なんということだろう。このままでは、いつかは殺されてしまう日も遠くはないだろう。

「              」

「元よりそのつもりだっての!うざいのよ。ガタガタ震えて、部屋に籠もってさぁ!見てるこっちが鬱になるっての!」

「              」

「関係ないぃ?はぁっ?アンタ、自分がどれだけ迷惑かけてるか自覚してるわけぇ?」

自覚なんてあるわけがないだろうが。

それにお前が勝手にやってるだけで、こっちとしてはいい迷惑なんだよ。

僕はお前の玩具じゃない。

人形じゃないんだ。

何を自分で考えてるんだ、僕は。人形なわけがあるか!

黙り込む。彼女はまくし立てる。

「だいたいねぇ……アンタごときが引きこもりなんて、世間をなめてるとしか思えないわ。両親不在だからって、やっていいことと悪いことがあるの!煙草と酒はいいわ。親がいないならいくらでもやりなさい。だけどね、薬は親がいないとやっちゃ駄目なのよっ!」

いいわけないだろ。

親がいたってやっちゃ駄目なこととの区別もつかんやつに、何故僕が説教されなきゃならないんだ。

というより、莫迦はどっちだ。

お前は常識が欠落してるんじゃないのか?バット女。

「うるさいっての!」

ちなみに、何も言ってない。

バットが後頭部に直撃する。

流石にこれはマズイ。死ぬ。

「ああっ、ねぇっ!ちょっとっ!死んだフリなんてしないでよっ!ちょっ、マジで?私、殺人鬼?きゃああああぁぁぁぁっ!起きてよっ、ねぇっ!……」

あれ、完全に景色が歪んでる。死ぬのか?

あっけない最期だったなぁ……

バットで殴られて死ぬなんて、こんなバイオレンスな死に方するとは露ほども思わなかったよ。

彼女が霞む。

そして、世界は暗転した。



世界は一つの駒。独楽。

どれだけを生き、どれだけを死に。

そして、どれだけを転生し。

輪廻輪廻輪廻。

危険。危険。危険。

狂気だ。狂気に違いない。

神罰。それこそが神罰。

既に神域。神の領域。

裂け、裂け、裂け。

卑猥な。卑猥な。卑猥な。

人形か。人形なのか?

否めるか?否めまい。

莫迦は死ね。死んで詫びろ。

一蓮。

托生。

生殺。

与奪。

殺人。

未遂。

凌辱。

恥辱。

蹂躙。

地獄。

殺戮。         殺戮。

引きこもり。引きこもる。

病的。病的。病的。

完全なる殺意。

完全なる破壊願望。

完全なる快楽的殺戮趣味。

それは、既に壊れた。

空想の産物に過ぎない。

莫迦な莫迦な莫迦な莫迦な莫迦な―――――!


お前らが悪いんだ!僕をそんな目で見やがって!嘲笑を成す含み笑いで、僕をあざ笑いやがって!

何が解る!お前達に何が解るっていうんだ?

解る訳がないだろうが!日常が壊れていく様を見た、この僕のことが!

お前らみたいな低俗な輩に解る訳がないんだよっ!

死のうとした。何度も死のうとした。

殺そうとした。何度も殺そうとした。

生ようとした。何度も生ようとした。

でも、我慢の限界だった。

忘れるものか。絶対に忘れるものか。

この屈辱を忘れてなるものか!

復讐してやる。必ずお前らを貶めてやる。


この気持ち自体が危険。

狂気。なんとも低俗な。

解っている。解っているのだ。僕は。

もう既に。もう確実に。確定。解っているのだ。

『誰にも何もされていないことに』

なぜ逃げる?

それは怖いから。

なぜ脅える?

それは怖いから。

なぜ震える?

それは怖いから。

そう。なにもかもが怖いから。僕は何も信じない。

自覚があることで、自分だけを信じられる。

なんと卑怯で。卑劣で。卑賎で。卑小で。卑俗なのだろうか。

でも、逃げるだけだ。

何故かと?簡単だ。

今更、この体制を崩せば、僕が崩壊するからだ。

ああ、先が見えない。先が暗闇に染まって、僕の道を隠している。

そうか。これは、罰だ。

もうそれしかない。これは、僕への、罰なのだ。

だったら、さっさと死ねばいいのだ。

それですべてが終わる。

自身も。他人も。恐怖も。希望も。無限も。生命も。心象も。夢幻も。

夢と現を迷うことなど。もうありえないのだ。

赦してもらおう。死んで詫びよう。

それが一番よい方法に違いない。

ああ、もう一縷の希望も見えない。

手を伸ばす。いや、人形に自制権はない。

そして、闇に堕ちる。

目の前で、誰かが笑う。そして、一言だけ語る。


「ばぁか」


真っ暗だった眼前は、ドロリと真っ赤に染まった。



眼を開く。そして、顔を手で拭った。

よかった。血はついてないみたいだ。

どうせ、夢だ。脅えることはない。

「……大丈夫?」

今、僕はベッドに眠っていて、隣りには。

お節介な女が座っていた。

「              」

「あー、ごめんね。やりすぎた。反省反省」

えへへと笑いながら、眼前で手を合わせる彼女。

絶対反省してないな、こいつ。

「              」

「そんな気はホントになかったんだって。殺そうなんてしてないわよ。たまたまこう、サクッと後頭部に刺さってね。バットが」

……やっぱり反省してないな。

ああ、頭がグラグラする。

まだ響いてるのか、これは。

まったく。はた迷惑な奴だ。一体何をしにきたのだか。

殺しにきたと言われても、否定のしようがないぞ。

「あぁ、そうそう。これ、クラスの人間達からの贈り物。早く復活してね、だって。みんな、騙されてるわねぇ」

「              」

「そんな眼で睨まないでよ。別に私がこれやろうって言った訳じゃないわよ?ただ、クラスの奴らが勝手に言い出したんだから」

「              」

「いらないとか言わないでよ。みんなが悩んで決めたんだから。せめて受け取ってあげてもいいじゃないの」

「              」

くだらない。ベッドから降りて、部屋から出て行こうとする。

綺麗にラッピングされた箱が視界にはいるが、僕は見捨てて去ろうとする。

「あのさ……」彼女が言った。

背中にかかる言葉は、一体、どういったものだろう?

こんな異常者にかける言葉なんて、知れてる。

死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。死ね。

それに尽きるのだから。

だが突然、背中に重みを感じた。

そして、耳元で声がした。


「ばぁか」


この言葉を聞くのは何度目か?

僕は怒りはしない。

このばぁかは、貶している莫迦ではなくて、叱咤してくれている莫迦だから。

安心するのだ。それを聞くと。

彼女は続ける。

「アンタ、ホントにわかってないよ。こんなに想われてんのに気づこうともしないで逃げてばっかりで、一体何を求めてるのか解らないよ……」

「               」

「そんなことない!解ってもらいたいに決まってるじゃんか!人間だもん!だったら、頼ればいいじゃない!依存すればいいじゃない!人形とか、傀儡だとか、そんなの私達知らないし!苦しいって言えよ!寂しいって言えよ!別に他は知らなくていいの!せめて、私にくらい優しくしてよ!こんなに想い続けてさ!こんなに近くでずっと見てるのに!報われてもいいじゃない!もっと私のこと見てよっ!図々しいよ、鬱陶しいよ、お節介だよっ!でも、しょうがないでしょ!好きなんだからぁっ!」

それは、なんと悲痛な叫びだったのだろうか?

だが、それも所詮。狂った彼女の狂気だったのだろう。

逸脱した想いを胸に秘めた、独りの少女の悲しい言葉だった。

なんて、胸糞悪い、言葉の羅列。

聞いているだけで反吐が出そうだ。

自分だけが悲愴のヒロインだとでも思っているのか?

くずだ。下種だ。低俗だ。くだらない。

好きだなんて。それは一体どういった感情だ?

恋している。もとい恋愛している。

そこに恋愛感情は成り立つ。

ならば問おう。その感情に確証はあるのだろうか?

どこまでも歪な一方通行。

錯覚。そう、錯覚に過ぎない。

それを定義するもの自体、この世には物質的には存在しないだろう。

では、それをどう露見させるのか?

これは簡単だ。感情を抱いている側の勘違いだ。

これ、すなわち、錯覚。

自分は相手を想っていると脳内を麻痺させて、思考能力を一時的に破棄した上で、相手のことが好きだと自分に『思い込ませる』。

そうすれば、自分は相手のことをただなんとなく、好き。になれるのだ。

あとは自分をどれだけ曲げずに相手を想うかだけだろう。

世の中の恋愛なんて、大抵がこんな不条理なものだ。

くだらない。

自己を偽り、心象を偽り、相手を偽り、手にいれたものなど。

くだらない。くだらない。くだらない。

だったら、こんなくだらないことを言っている相手を。

滅茶苦茶に壊してしまえばいい。

僕は彼女を抱き締める。

そして、長い無言の後、一言。

「               」

彼女が眼を見開いて、震える。

脆い。こんなにも脆いのだ。人間は。

たった一言。相手を否定すれば、事は足りる。

ここで、止めをさせばいい。

もう一言は、もっと辛く。もっと残忍で残酷に。

「               」

「あ…………あぁ…………いやああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…………あっ……ああっ……」

もう。さよならだ。

抱き締める腕を解くと、彼女の身体は床に崩れ、痙攣を始めた。

あーあ、もう使い物にもならないな。

僕は彼女を見捨てて部屋を去った。

部屋には陰鬱な雰囲気と、少女の喘ぎ声だけが残った。



どうしても。どうしても。

砕けた。壊れた。灰になった。

痛い。死にたい。死にたい。痛い。

こんなの。嫌だ。

泣いた日もあった。笑った日もあった。

なにもかもが、ただ楽しくて、辛くて、どうでもいいものになっていった。

灰色。灰色。私には灰色しかなかった。

見る景色はグレーに彩られ、私の視覚を犯していった。

その時、人形の彼を見た。

私は彼に近づいた。

彼はひきこもりになった。

彼の色だけが、私にははっきり見えた。

嬉しかった。灰色に射す光。それが彼だった。

―――――色は怖いか?

なんで知ってるの?

私の恐怖を。私の死を。私の灰色を。

なんであなたが知ってるのよ?

誰にも言わなかった。異端だから。

それだけで異常だから。

なのに。なのにどうして?

―――――だったら。

やめて。それ以上言わないで。

あなただけは言わないで。

私を助けて。救ってよ。

突き放さないで。手を差し伸べてよ。

生きていきたい。あなたといたい。

―――――その眼を…………

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

でも、彼が言ったんだ。そう言ったんだ。

私は……私は……

あははははははははははははははははははははははははは。

あははははははははははははははははははははははははは。

あははははははははははははははははははははははははは。

染まる。染まる。染まる。

灰色じゃない。灰色じゃない。灰色じゃない。

嬉しい。やっぱり彼は私のことを救ってくれた。

ほら。もう灰色なんて怖くないよ?

だから、迎えに来てよ。ねぇ。

あれ?どこにいるかわからないよ?

ねぇ?前が見えないよ?

助けて。助けテ。助ケテ。たスケテ。タスケテ。

視界は赤い。どこまでも真っ赤だった。



一体何が狂気だったのか?

一体何が狂っていたのか?

一体何が。一体何が。

求めてはいない。求めてはいけない。

幸せ。幸せ。幸せ。

そんな不確定な未来を望んではいけない。

きっと足元を掬われる。

きっと心を閉ざしてしまう。

ありえないことは。いつまでもありえないまま。

それは哀しみとは違う。

いつまでも気づかない後悔。気づけない想い。

夢は夢のままで。

愛は愛のままで。

灰色は灰色のままで。

永遠を紡ぐだけなのだ。

何が現実で、何が空想なのか?

どこからが殺人で、どこからが殺戮なのか?

どこまでが許されて、どこまでが赦されないのか?

すべてが不確定ながらに。

すべての要因が矛盾していた。

「               」

リビングで吐く息は白く、冷たい。

もう、生きている心地もしなかった。

すべては欠落で。欠陥で。

どうしようもない矛盾だらけの自我だけが。

無駄で無駄で。

もう死んでしまいたいとか。

心を犯していく狂気の恐怖で押し潰されそうで。

さよならを、告げるしかなかった。



部屋に戻ると、彼女は僕を見ていた。

もう見れるはずもないのに。

手には血塗られたナイフを持っている。

そして、両眼は穿たれて真っ赤だった。

本当に。やったのか。

彼女のそばに膝をつき、その髪に触れる。

ゆっくりと降ろしていき、そして、眼に触れた。

もう、見えないはずだ。見える訳がない。

「               」

問いかけると、彼女は笑った。

「もう、灰色じゃないよ。今は真っ赤なの。でもね、すごく痛いの。どうしてかなぁ?両方なんだよ?我慢できないよぅ」

彼女は、そんなことを言った。

莫迦だなぁ。たとえ灰色が消えても、今度は黒に悩まされるぞ。

頬を撫でる。

綺麗な肌をしていた。だけど、眼が…………

もったいない。仕向けたのは僕だが。

彼女は頬に当てた僕の手に触れて、にっこりと笑った。

「ねぇ、私……死ぬのかな?」

「               」

「そうだよね。わからないよね、そんなこと。でもね……」

その後、彼女は、一言を、言う。


「本当に、好きだったんだよ?」


えへへ、と彼女は笑う。

痛いはずなのに。辛いはずなのに。

どうして。どうして僕に笑顔を見せれるんだ?

壊したのは僕なのに。

それでも。彼女は、笑い続ける。

僕は、そんな彼女に、一言言わなくちゃいけないのだ。

難しいな。実に難しい。

だが、彼女はこれだけ頑張った。だったら。

答えてやるのが礼儀だろう?


「わかってる」


たった一言だけ。そう答えたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


手に包帯を巻いた僕は、並木道を歩いて、ある場所に向かっていた。

ある場所とは、白い建造物で、病院と呼ばれるところ。

ゆっくりと地面を踏み締めて、歩いていく。

そして、庭では、看護師の女性が車椅子を押していた。

車椅子には高校生ぐらいの少女が座っており、穏やかな顔で笑っていた。

おかしな点は、足を負傷している訳ではないところ。

眼を包帯で隠されているという、希有な人間だ。

看護師の女性が、僕を見て少女に何かを言い、院内に去っていく。

僕は彼女の目の前で立ち止まった。

「遅いよ。どれだけ待ったと思ってんの?」

「僕がどれだけの距離を歩いてきたと思ってるんだ?」

「どっちが不自由って、そりゃあ私でしょ?」

「僕だって自分を傷つけたんだ。おあいこだろ?」

僕はあの後、彼女の手からナイフを取り上げて、左手の甲をクロスに切った。

血が吹き出して、無茶苦茶だった。

今でも、まだ時折痛むのだ。

「片方の手だけじゃんか。私なんて両眼なんだから」

「自分でやったくせに、後から棚に上げるなよ」

「まぁ、いいわ。これから責任とってもらうんだし」

嬉しそうに彼女が言う。

彼女の眼は、完全に見えなくなっていた。当然と言えば当然だが。

そして、そうなった原因である僕に、責任を追求してきたという訳だ。

どう考えても勝手にやった彼女が悪いのであって、僕は少し囁いてみただけなのだから、罪は軽いと思うのだ。

「何を僕は悪くない、みたいな顔してるのよ」

「見えないくせに、勝手なこと言うな」

「なんとなく解るのよ。だって……」

「その先は、言わなくていい」

きっと壊れてるんだろう。僕は。

人に愛される価値もないくらい、愚かで、くだらない人形なのだろう。

だが最近は、生きてもいいかと思っている。

責任もとらなくちゃいけないみたいだし。

それに、僕はこんなにも、弱いから。

人に依存してないと生きていけないだろうから。

彼女は最適だった。

「……やっぱり来るのが遅いと思う。普通は1時間くらい前に来てくれるものじゃないの?」

「あのな……ひきこもりの僕が、ここまで来ただけでも感謝しろよ」

「ひきこもりは私のせいじゃないもの。いじめられてるとか、虚言吐きまくってたアンタが悪いのよ」

「……もういい。帰る」

「えっ、ちょ……待ってよっ!もうすぐ退院なんだから、話とこうよっ!」

帰ろうと背を向けていたのだが、また振り返る。

「何を話すんだ?」

「えっと……これからについて?」

「断る。人のことをひきこもりなんて言う奴と、これからのことについて話すことなんて何もない」

「そんなひどいこと言わないでよぉっ!」

車椅子で必死に追ってくる彼女。

その姿が、いたいけで。可哀想で。安心する。

ゆっくりと近づいてくる彼女に歩み寄り、頭を撫でる。

「冗談だよ。さて、何を話してみるか?卒業したら、結婚とか?」


「ばぁか」


彼女は笑う。

僕は彼女の車椅子を押して、庭を歩き始めた。

「何で莫迦なんだよ?」

彼女はまた笑っている。

何がそんなにおかしいのだろう。

でも、僕はそれに救われている。

あの時、彼女が両眼を壊した時。僕は死のうとした。

でも、生きている。それは。

きっと、彼女の笑顔が見たかったからで。

彼女は先生のように教えてくれる。

「そんな当たり前の結果はいらないの。もっと別のこと」

それは。何だ?


「ちゃんと。私の眼になってよね。人形さん」


「……ええ。喜んで。失眼の姫君」


きっと、不思議な関係なのだろう。僕らは。

傍から見れば、くだらない束縛を受けた、矛盾だらけの存在なのだろう。

だが、その関係を気に入っている僕がいる。

人間として欠落している僕。

人間としての視覚を失った彼女。

すべては欠陥矛盾の塊であり。

痛々しい組み合わせなのだろう。

それを幸せだと思おう。苦し紛れでもいい。

死に物狂いで生きることが、これ以上の欠落を防ぐことに繋がるのだと思う。

死こそが、欠落なのだから。

二人で笑う。

こういう幸せも悪くない。


自分に、さよならを。

世界に、さよならを。

欠落に、さよならを。

欠陥に、さよならを。

狂気に、さよならを。


狂え。狂え。狂え。狂え。狂え。

狂い続けろ。

それが、生きるということだ―――――

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