第5話 梅雨
じめじめじめじめ。
梅雨だから仕方がないけど、これだけ雨ばかり続くと気が滅入ってくる。
「そいえば梅雨って、梅の雨って書くのはどうしてなのかなぁ?」
「そりゃあ、梅の味がするからだよ。美羽、飲んでみな」
と、いつものごとく適当な遥架。
「あんたは、また……。そんなわけないでしょ~?」
「そうですよ~」
いつもどおり、結音ちゃんがどこからともなく現れ、会話に紛れ込んできた。
結音ちゃんの神出鬼没ぶりにも、もう完全に慣れてしまった私たちは、ツッコミを入れたりもせず平然と受け入れる。
……諦めている、と表現してもいいかもしれない。
どうでもいいけど、魔法使いって、ワープとかもできるのだろうか。
それはともかく、会話に加わってきた結音ちゃんは、さらに驚きの言葉を口にする。
「正解は、梅干しが雨のように降るからですよぉ~」
……いったい、なにを言い出すのやら。
「あのねぇ、結音ちゃん。そんなの、見たことないよ?」
結音ちゃんにも、遥架の適当ぶりがうつってしまったのだろうか。
もっとも、もとから結音ちゃんはちょっと、というかかなり、というか凄まじく変なのだけど。
と――。
ぱらぱらぱら……。
なにやら雨音が変わった。
そして視線を向けてみれば、地面に当たって音を立てているのは大粒の雨なんかではなく、赤い塊で……。
ほんとに梅干しが降ってきてるし!
「ね~?」
本当だったでしょ~? とでも言いたげに微笑みを見せる結音ちゃん。
「ちょっと! この梅干し、魔法で出したんじゃないの!?」
さすがに食ってかかる。
いくらなんでも、冗談のために魔法を使うなんて、と思ったからだ。
だけど、結音ちゃんはきょとんとした表情を返してくる。
「え~、違うよぉ~。あたしは変なことを抑えるために派遣されたんだから~。そんなことをしたら、怒られちゃうんだよぉ~」
……いったいどこから派遣されたというのだろうか……。
でもそれが本当なら、別のツッコミも浮かんでくる。
「だったら、この雨ってどう考えても変なことでしょ? どうにかしてよ!」
「え~? これは自然現象だから、無理だよ~」
私の言葉に、結音ちゃんは平然と言い放つ。
「それに~、魔法を使うと疲れるし~」
続けられたぼやき声は、私を脱力させた。
……結音ちゃん、単に魔法使うと疲れるからって理由で逃れようとしてるんじゃ……。
とはいえ、私にはそれを確認するすべはない。
隣に並ぶ遥架も、いつものように「今日はいい天気だな~」なんて言って現実逃避してるし。
思いっきり梅干しの雨が降りしきっている中だというのに……。
梅干しの雨は、結局深夜まで降り続いた。




