第2話 K
にゃーにゃー。
騒がしい鳴き声で目が覚めた。
学校へ行く準備をして外に出てみると、なぜか猫の大群がびっしりと結音ちゃん家の前の道路を覆い尽くしていた。
な……なんだこれ……?
「あっ、おはよぉ~」
そんな猫たちに囲まれていたのは、もちろん結音ちゃんだった。
まぁ、他にありえないとは思ったけど。
それにしてもこの子、またたびの匂いでも振りまいてるの?
……って、やばい! 遅刻する!
猫で覆い尽くされている現状ってのも気にはなったけど……。
結音ちゃんは魔法使いらしいから、魔法でどうにかするでしょ。
「おはよう、結音ちゃん! でも私、急ぐから! またね!」
軽く挨拶を残して、私は遥架の家のチャイムを押す。
私が迎えに行かないと出てこないのだ、遥架は。
それで遅刻したことが何度あったことか……。
「おはよう、美羽。……あれ? 結音ちゃん家の前、猫が――」
「今はそれどころじゃないわ! 学校まで走るわよ!」
「お……おう……」
慌ただしく走って登校するのも、ごくありふれた光景だ。
そして放課後。
いつものように、私は遥架と一緒に下校してきた。
「そういえば、今朝のって……」
「猫だったわよね。何十匹もいたような気がする……」
にゃぁ。
家の前まで着くと、やっぱり猫はいた。
だけど、朝とは違って1匹だけだった。
「黒猫だね」
「そうね」
しかもその猫は、結音ちゃんの足にべったりとすり寄っている。
「あっ、おかえりぃ~♪」
猫にすりすりされたまま、結音ちゃんが満面の笑みで私たちを出迎えてくれた。
「なつかれてるわね」
「うん~。どうしよぉ~、困ったなぁ~」
全然困っているようには思えない口調だったけど。
「まぁそれだけなつかれてたら、飼うしかないだろ。魔法使いといえば、やっぱり使い魔の黒猫ってのが基本だし」
遥架がきっぱりと言ってのける。
いや、まぁ、そうかもしれないけど……。
「うん~、そうだね~」
どうやら結音ちゃんも納得したようだ。
って、あっさり納得しちゃうんだ……。
そりゃあ、なついている猫を放り出すっていうのも可哀相だし、飼うことには賛成だけど。
……結音ちゃん、ひとり暮らしなのに、大丈夫なのかな……?
私が餌代とか世話とかに関して心配しているというのに、結音ちゃんと遥架はまったく気にする様子もなく、使い魔として飼う方向で話は進んでいるようだった。
「それじゃあ、名前をつけてあげないとな」
「名前……うん、決めた! 『ねこ』」
「そのまんまじゃん!」
さすがにこれは、あまりにもひどい……。
「もうちょっと、ちゃんと考えてあげようね!」
「じゃあ~、く――」
「黒いからクロなんてのも却下ね」
「う……」
図星だったらしい。
考え込む結音ちゃん。
「決めた! Kで!」
「アルファベット!?」
とは思ったものの、まぁ、まだマシかな、と結論づける。
そんなわけで、命名『K』と相成りました。
実際のところ、KUROの頭文字でKだったみたいなのだけど。
「それじゃあ、行こう、Kちゃん!」
「あいにゃ!」
結音ちゃんの言葉にはっきりと答え、しっかりと2本足で立ち上がったK……。
そのまま結音ちゃんに続いて、家の中に入っていってしまった。
私は呆然と立ち尽くす。
うん、まぁ、見なかったことにしよう……。
隣に立っている遥架も、「今日の晩ご飯はなにかなぁ~」と、現実から目をそむけているようだった。




