第11話 虹
「あっ、虹だ。綺麗~」
変なことがたくさん起こるようになったこの町でも、虹が直立してたりなんてことはなく、ちゃんと普通にアーチを描く虹だった。
「虹の橋……渡ってみたいなぁ」
「あのなぁ、虹は実体がないんだから。空気中の水に光が屈折して虹が見えるだけなんだし、渡れるわけが……」
私のつぶやきに遥架が解説を加えたところで、なんとなく予想はつくだろうけど、いつもの乱入者が現れた。
「渡れるよぉ~」
言うまでもなく、結音ちゃんだ。
「試しに行ってみる~?」
「行く!」
速答する私。なにせ暇で暇でしょうがなかったのだ。
嫌そうな顔をしている遥架を無理矢理引きずって結音ちゃんのあとを追う。
「ここから、飛ぶよぉ~?」
人通りも多い繁華街の歩道で、結音ちゃんが突如として杖を振るう。
私たち3人は、空を飛んで虹を目指した。
……それにしても、相変わらず、魔法が秘密だってことは完全に無視してるなぁ、この子。
ま、今さらなにも言うまい……。
「虹の端っこが地上まで続いてたら、登りやすいんだけどねぇ~。虹って、天女さんたちの通り道になってるからぁ~」
「天女ぉ~!?」
また、突拍子もないことを……。
「そろそろ着くよぉ~」
もう虹は目の前に大きく迫っていた。そしてその虹の上には、綺麗な羽衣を見にまとったたくさんの女性が歩いていた。
ほ、ほんとに天女だ……。
天女さんたちは不意の侵入者(つまり私たち)を珍しがっているのか、じろじろと眺めている。
「じゃ、歩いてみよぉ~♪」
結音ちゃんの声に合わせて、すたっと着地する私たち。
足もとは、なんだかふわふわした感触だった。
虹は雲よりも高い。眼下には雲が広がり、その切れ目からは私たちの住む町並みが見えていた。
「景色もいいし、風も心地好いし、いいとこだね~」
「これだけ高いと、酸素が薄かったり寒かったりするはずなのに……」
遥架は納得のいかない様子だ。
「細かいことは気にしないの!」
大らかな私は当然のようにツッコミを入れる。……大雑把とも言うけど。
と、前方から誰かか近づいてきた。
なにやらきらびやかに着飾った天女さんと、それに仕えている感じの数人が私たちの目の前で立ち止まる。
「ちょっと来てもらえますか?」
☆☆☆☆☆
きらびやかな天女さんに連れられて、私たちは雲の上の宮殿のような場所まで来た。
「わ~、豪華だなぁ~……」
思わず感嘆の声も漏れてしまうってものだ。
それにしても、雲の上にこんなに立派な宮殿が立っているなんて。
ともかく、私たちは宮殿の中へと足を踏み入れる。
そのまま、ひときわ豪華な部屋へと案内された。
「私はこの天女界の長を務めている、春芽と申します。魔法使いである貴方様のお力を借していただきたく、私自ら出迎えに上がりました」
結音ちゃんを敬うように、春芽さんはそう言った。
晴れ渡った空のように澄んだ、とても綺麗な声だった。
「うん~いいよぉ~」
対する結音ちゃんは、相変わらずの口調で答える。のんびりした口調だけど、速答だった。
ちゃんと考えて答えてるのか、怪しいなぁ……。
そんな様子には一切構わず、春芽さんは話を続ける。
「実は最近、虹の色が徐々にくすんでいっているみたいなんです。このままでは、真っ黒な虹になってしまいます。貴方様のお力で、どうにかできないでしょうか?」
「ふむふむ~、つまり虹を綺麗にピカピカにすればいいのね~。だったらぁ~……」
パッとなにかを取り出す結音ちゃん。
プラスチック製のボトルみたいな物体だった。
あ、あれってもしや……漂白剤!?
「それじゃあ、すぐ処理するね~♪」
「あっ! ちょっと……!」
結音ちゃんは、春芽さんが制止する間もなく飛び出していってしまった。
私たちも慌ててあとを追う。
宮殿の外に出ると、いつものように杖を振りかざす結音ちゃんの姿を発見。
その動作に合わせて、漂白剤は虹全体に降りかかる。
そして――。
虹は完全に真っ白になってしまった。
それから数か月のあいだ、雨上がりの空に虹がかかっても七色に見えることはなく、真っ白なままだった。




