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第1話 隣人は魔法使い

「あっ、お隣、誰か引っ越してくるんだね」


 幼馴染みの遥架(はるか)が言った。


 この名前だと、どっちか判別できないかもしれないから言及しておくと、遥架は男の子だ。

 私、美羽(みは)とは昔から大の仲よし。

 家が隣同士の幼馴染みだから、当然といえば当然なのかもしれないけど。

 今ではさらに、同じ高校に通う同級生でもある。


 そんな私の家の隣――遥架の家とは反対側の隣の家に、なにやらトラックが停まって、次々と荷物が運び込まれているのが見て取れた。

 この家は、随分と長いこと、空き家になっていたのだけど。ようやく住む人も決まったということか。


「そうだね~。どんな人が住むのかなぁ?」


 私が期待と不安が入りまじった声をこぼすと、すかさず遥架が言葉を重ねてくる。


「ヤのつく職業の人だったりして」

「ちょっと! 怖いこと言わないでよ!」


 まったく、遥架は……。

 もっとも、遥架の意地悪発言はいつものことなのだけど。


「あっ、来たみたいだぞ」


 遥架の声に従って視線を向けると、ひとりの女の子がこちらへと歩いてきていた。

 そして隣の家――引っ越しの荷物が運び込まれている家の前で立ち止まる。

 私たちの視線に気づくと、彼女は可憐な花が咲き乱れるかのような笑顔を振りまきながら話しかけてきた。


「こんにちは~、隣の家のかたですかぁ~? 私、結音(ゆいね)っていいますぅ~。よろしくぅ~♪」


 なんだか、のんびりした感じの子だなぁ。

 それが私の第一印象だった。


「ヤクザじゃなくて、よかったな」


 遥架が耳打ちしてくる。

 ま、でも、それは確かによかった。


「だけど、親がヤクザとかって可能性も、ありえるかもしれないけどな……」


 遥架はさらに耳打ちを追加してくる。

 まったく、こいつは……。


 それはともかく。

 私は目の前の女の子をじっくりと観察してみた。


 ぱっと見は幼いイメージだけど、おそらく私たちよりいくつか下――中学生になるかどうかといったところだろうか。

 ポニーテールにまとめた髪をさらさらと揺らしているのが、とっても可愛らしさを助長している。

 しかも、ニコニコと温かい笑顔を向けてくる様子を見るに、地上に舞い降りた天使かとも思えるほど。

 ……というのは、さすがに言いすぎだろうけど。


 ただ少し気になるのは、ご家族の姿が見当たらないこと。

 先にこの結音ちゃんって子だけ来て、他の家族はあとから来るのだろうか?

 私が質問してみると、思いがけない言葉が返ってきた。


「あたし、ここにひとりで住むの~!」


 結音ちゃんはあくまでにこやかに、さらっと答えてくれた。

 まだ中学に入るか入らないかくらいの歳みたいなのに、ひとり暮らしだなんて。


「大変ねぇ……」


 私は思わずつぶやいていた。


「うん~。頑張って魔法を使わないとぉ~」

『えっ!?』


 私と遥架の声が重なる。

 今……なんとおっしゃいましたか?


「あ……秘密だったんだ~、言っちゃったぁ、てへ♪ あたし、魔法使いなの~。でもこれって、秘密だからぁ~、誰にも言わないでね~! 約束よぉ~?」(にこぉ)


 結音ちゃんは、やっぱり花のような笑顔を咲かせながら、そんなことをのたまった。

 私と遥架は、黙って頷くことしかできなかった。


 ……新たな隣人は、もしかしたらヤクザよりも厄介な人なのかも……。


 とはいえ、楽しくはなりそうだ。

 ちょっと現実逃避気味にではあったけど、私は前向きにそう考えようと心に決めた。


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