序章:始まりの鼓動2
夜中にこっそりこんばんわ。
では、続きです。
日本に留まらず世界で空前の大ヒットを記録したMMORPG [Master of Artist]
このゲームは他のユーザー、つまり人との関わりが割と大切だったりする。
なぜならば、店、と言われるものがほぼ皆無だからだ。
在るのは果物屋や一部の食料関係の店だけ。当然武器屋なんてものは無い。
装備は初期装備を除いて、特別なイベント以外では手に入らない。
ようするに他のソフトユーザー、生産職の人から都合してくるなり、材料を渡して作ってもらうなりするしかないのだ。
[Master of Artist] が社会的に摘発されなかったのは、ここの所が大きいと俺は思っている。
武器を新調しようにも店がない。自然他のユーザーに作ってもらうしかないので、話しかけなければいけない。
当たり前といえばそうなのだが、ネットゲームというものは広いようで人の環は狭いものだったりする。
中には、誰にも話しかけないでソロプレイをする者もざらにいる。
その点において、 [Master of Artist] は社交性というものがなくなりはしない。個人差はもちろんあるにしても。
必然的に人の環は今迄のゲームより格段に広くつながって行く。
全くもって良く考えられたものだ。
「見たか」
もう三年間は通っている、見慣れた風景。
瀟酒な言い方をするのならばキャンパスと呼ばれる学院の通りの広場にて俺は一人の友人と顔を突き合わせていた。
「当然、私を誰だと思っているのかね」
いつも通りの傲岸不遜な表情にシニカルな笑みを浮かべた友人は、愚問だと胸を張る。
こいつの名前は立花 朽巴。
世間一般で言うところの腐れ縁というやつだったりする。
中学から大学の現在に至るまで、全学年同じ教室、学部だったりする筋金入りだ。
ただ、残念ながら思春期らしいキャッキャウフフな関係では無い事を此所に書いておこう。
キャッキャウフフな関係では無いのだ。
「キャラ、一から造り直しらしいね」
「だな、幸いにして優先的に参加出来るらしいが………………お前はどうすんだ?」
「私かい?決まっているじゃないか。」
「やっぱりアレか」
「人の事を言えるのかい?君だって毎度毎度まぁ………………」
「べつにいいじゃねぇか、女キャラだって!」
そう、俺はこの手のゲームでは必ず女性キャラを使ってプレイしている。
特に、女性になりたいとかそういうんじゃない。
単純にむさ苦しい男を使うより、綺麗なお姉さんを動かす方が眼にやさしいからである。
いいよね、酒場の女主人って。
○○ーダさんは俺の嫁。文句は言わせん。
「やれやれ、相変わらずの変態ぶりだね。そんなことだから君は………………」
「お前にだけは言われたくない。ショタキャラのハーレムマスターが」
そしてこいつは、ショタ、可愛らしい男の子を毎回使っている。
しかも、びっくりな事に美女美少女、果ては美幼女まで囲っているのである。
なんとも、うらや…………………………もとい、けしからん奴なのである。
う、羨ましくなんてないんだからね!!?
「奇声を上げないように、空気が汚れる」
「痛っ!?まてまてまてまて、それはシャレにならん、が、っぎっgじじじぇいおwjfkdklsじゃvdhさほdhwくぇ?!」
この細腕のどこにこんな力があるのか。
メキリと頭蓋骨が軋みを上げる音が響く。
わずか5秒でタップした俺は、決してひ弱ではない。………………ないのである。
「で、今日はいくつ供物が届いたんだ?」
「…………………………5つだ」
俺の台詞に、少しだけ困った様な複雑そうな表情で答える朽巴。
遺憾な事なのだが。
黙っていればこいつは超絶な美人だったりするのだ。
ぱっちり開いた二重まぶた、爪楊枝でも乗っかりそうな長いまつげ、綺麗なカーブを描いた眉、腰までストレートに下ろした艶やかな黒髪、無駄のない引き締まったスタイル、身長だって俺より高い………………。
どこぞのご令嬢も真っ青な出で立ちである。
まぁ、唯一胸がさび……………………
「…………………………何か考えたかね?」
ドスの効いた声が聞こえる。主に前方から。
何故ばれたし!?
いや、落ち着けここは冷静に。
「なんでもありません!サー!!」
「…………………………………」
「…………………………………」
「はぁ、まあいい。君というやつは………………」
諦めたように溜め息をつきながら持っていた収納力の高そうな、物を詰め込むのに丁度いいバックに貢ぎ物を無造作に入れてゆく朽巴。
どうやら、なかったことにしたらしい。
にしても毎度毎度よくもまぁ…………………………。
某高級ブランドバックから、菓子、果てはキワドい下着なんてのもあるらしいのだから、こいつの人気ぶりが伺える。
というか、下着って。贈ったやつの将来が不安なのだが。
そんな学内では「女王」、「黒髪姫」、「全一女神」等と言われているこいつだが、俺からしたらただの変人に過ぎない。
ショタキャラ使いのハーレムマスターなんて奇特なプレイスタイルの悪友。
男だけでなく女にもモテテ、お姉様だなんていわれているこいつは。
「リア充もげろ」
おっと、つい本音が。
「君ぐらいなものだよ。私にそんなことを言うのは」
「褒めるなよ。まったく」
「褒めてない」
まぁ、こんなアホらしい会話が出来るくらいにはお互い悪くない付き合いができていると思っている。
兎に角。
俺達、否。全世界の [Master of Artist] ユーザーは確実に浮き足だっていた。
長い [Master of Artist] の歴史に革新の日が訪れるのもすぐ先の事。
VR [Master of Artist] 正式稼働まで残り3日
というわけで、二人目の人物登場です。
ミステリアスな朽巴さんが物語にどう関わっていくのか。
そして、主人公との恋愛シーンはあるのか!?
そろそろ、ファンタジーな成分を次回に。
ではまた。




