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第11話:エディナさんのお仕事7



「またあんたか。何度も言うが、俺は鍛たん。他を当たってくれ」


「駄目だろうか?」


「無理だ。俺は決めているんだ、あんたらは客にしないって」


「また来る」


「無駄だと思うんだが。あんたなら鍛ちたいと言う連中が五万といるだろ」


「俺はお前の剣が欲しいんだ」






「だぁー、もう。集中できねぇんだよ!」


「なら、早く俺のを鍛ってくれ。そうすれば消える」


「こいつ真剣でうぜぇ……………………」


「俺のはまだか?」


「一生有るか!この、根暗陰険ガチホモ変態野郎」


「なっ、ふざけるな!俺は至ってノーマルだ」


「ガチホモー、へんたーい」


「貴様こっちが下手に出てれば、言いたい放題言いやがって。お前こそ変態だろう」


「なんだと?」


「そうだろ。この、男好きの女装趣味が」


「誰が女装趣味だ!そして、俺は綺麗なお姉さんがタイプだ!上手い事言ったとか思ってるガチホモに言われたくはない!!」


「良い度胸だ。ログアウトしたら覚えておけよ」


「こっちの台詞だ」


「「けっ!」」















           〈第11話:エディナさんのお仕事7〉

            なにごともやりすぎは禁物です






















「これにします!」


 そう言った彼女が持っているものを見て俺は頬をひくつかせた。

 横に居るカーグの奴は何故か頭を抱えている。

 いや理由はわかる。

 今回はこいつに同意出来た。


 彼女が持っているもの。それは斧だった。

 しかし、ただの斧ではない。

 身の丈、200セト (1セトは1cm)は有るであろう大斧。

 スラッシュハーケンといった方が正しい戟斧型で刃部は50セト。

 ちなみに彼女の上背は140セト程。

 明らかすぎる程のサイズオーバーだ。


「あー、いくらなんでもそれはどうかな」


 ちなみにコレ。

 巨人族。

 ゲーム内ではユミル族、ユミルと呼ばれていた者達用に(此所での実在云々は置いておいて)作製したものである。

 間違えても人間(ヒューマン)用ではない。

 数十本鍛った中で何故彼女はそれを選んだのか。


「………………………………………………」

 

 いや、もんっのすんごいキラキラした眼で見られてますよ。

 これは間違いなく。


「ロマンか」


「ロマンです!」


 成る程。

 彼女の思惑がだんだん分かってきた。

 となれば、俺の回答は一つ。


「分かった。お売りしよう」


「本当ですか!やった、かーくんかーくん!………………………………」


 







「いいのか?」 


 ほくほく顔で帰っていったリーゼさんを見送ったカーグは、やおらに聞いてくる。

 因みに、リーゼさんはカーグの奴と一緒に来ていた騎士の人が連れて行った。


「大丈夫だろ」


「大丈夫って、お前」


 訝しげにこちらを見るカーグ。

 そんなに睨むな。

 理由はちゃんとある。


「彼女、あんなにデカイのを持ってたろ。なのに重心が全くぶれてない」


「………………………………」


「これでも、実際の刀剣を扱った事が有るんだ。武芸に関してはからっきしだけど、それくらいは分かる」


 そう、彼女の技量が卓越しているであろう事。


「それに、随分持ち方が様になってた。多分、普段から斧とかそういったの振り回してるんだろ?」


 華奢な見た目からは想像は出来ないが、間違っていない筈だ。

 彼女なら使い熟せるだろう。

 全ては、彼女次第だ。

 信念をもって鍛つが、それは鍛つ時の話。

 自分の価値観や論理を相手に押し付ける気はないさ。


「………………………………そうだな」


「さて、お前もさっさと帰りな。まだ仕事中だろ?」





「待て」


 クールに締めて、さて次の来客はあるのかと思考を巡らせる、前に肩を掴まれた。


「なんだ?帰らないのか?」


「折角だ俺も一つ貰おう」


「ん?じゃ、そこらから持って「出せ」………………」


「はぁ?剣ならもう店に出てるだろう」


「出せ」


「…………………………」


「………………………………」


 だっ

 ガシッ


「なん、だと?」

 

 エディナはとうそうをはかった。

 しかし、エディナはまわりこまれてしまった!


「造ったよな」


「なにがだ、つーか………………」


「とぼけるな。お前がこんな普通の物ばかり鍛つ筈がない」


「な、なぁーんのことかな?えでぃなさんわかんなーい」


 ミシリっ


「うぎゃー!やめ、っだ、なにも隠してなんか、あだだだだあ!?分かった、出すからだしますからぁー!?」


「分かれば良い。早く持って来い」


「うぅ、このやろお、覚えてやがれ……………………」


 折角美人さんな顔が歪んだらどうしてくれる。

 ふんっ、こんな奴にアレを出すものか。

 暴力には屈しない!

 奥からフツーの初心者用両刃剣を一本引っぱりだしてカウンターに置く。


「………………………………」


 カーグの奴の眼が細まる。

 はて、俺はただ剣を出しただけだ。

 なにも疑問に思うところなどない筈だ。

 どんな剣とは聞いていないしな。


「………………………………」


「これでも外に出る事があってな、その際には発見された貴重な鉱石が手に入ったりしてな」


 ぴくっ


「それで、偶々その発掘に携わった者と知り合いだったりして、もしかしたら普段の礼をかねて。なんて事があるかもしれないな」


 ぴくぴくっ


「そうか、残念だな。折角店を開いたばかりの鍛治士が材料調達出来ないだろうと親切にも助けてやろうとしたのだが。どうやらいらない世話だったようだ。仕方がない、馴染みの店に卸して少し贅沢な飯でも食うとするかな」


 こ、こいつ………………!

 

 いけしゃあしゃと、これ見よがしに肩を竦めやがる。

 落ち着け、落ち着くんだ。

 これは罠だ。


「そうか、仕方ないな。いや、すまなかった。忘れてくれ、手持ちの純度の高い王鉄で支払おうなんて魂胆だった俺が悪かったんだ。そんなFクラス程度の材料なんかじゃ釣り合わないよな」


「Fクラスだと!あっ……………………」


「どうかしたか?品質事態は良いが、こんな物は何処にでもころがっている。珍しくもないだろう?」


 Fクラス。

 ゲーム内での最低ランク。

 ただし、コレは純度が低い物の話。

 高純度のFクラスの材料は、極めてレアであり一部の鍛治士の間では最高ランクであるSSクラスの鉱石よりも価値がある。

 クラスの規格が変わっていないのであれば、仕組みが一緒であれば。

  

「………………………………」


 ちらりと、奴の手元を見遣る。

 一見なんの変哲もなさそうな鉄鋼の固まり。

 だが、俺の予想通りの代物であればそれは。


「………………………………」


 無害そうな、爽やかな笑みを浮かべ首を傾げるカーグ。

 この、極悪人が! 


「あー、はいはいはいはいはい!分かりましたよ、鍛ちますよ。造りますよ。やりゃいいんだろ!!」


「そうか!頼まれてくれるか!」


 あっ、やべ。

 ハメラレタ、と思った時既に遅し。


「これも一緒に使え、純度で言えばそれに負けない」


 あれよあれよという間に鞘ごと腰の剣を抜き取り、鉱石のインゴットと共にカウンターに置かれる。

 呆気に取られた俺はなにも反応できない。


「期待している。頼んだ」


「お、おい………………ってもう居ねえし」


 用はすんだとばかりに、早々に去って行くカーグ。


「………………………………………………ちっ」


 残された俺は、カウンターに置かれた剣を鞘から抜く。

 一目で分かる。

 使い込まれて尚、美しさと力強さを失っていない剣身。

 拵えもなじませたかのように手の形に歪んでいる。

 只稽古のみしかして来なかった騎士が持つ剣ではない。

 有象無象の冒険者が持てる剣でもない。 

 そんなものと、鉱石のインゴット。

 これは、そういう事なのだろう。

 頭を抱える。


「俺はまだ新米だぞ……………………」  


 









 一週間後。

 俺は開店から二日目の店支度をしていた。

 結局、開店初日は客が二人だけというスタートだった。


「憂鬱だ………………」


 そして今日が二日目。

 何故二日目なのかといえば、間違いなくどこかの誰かさんのせいだ。


「失礼」


「………………………………」


 元凶が来た。

 変わらず、実践的なプレートアーマーを着込んだ騎士。

 無駄に清涼感のある佇まい。

 訪ねて来た厄介事(カーグ)に溜め息をはいた俺は、布を巻き付けた物を工房から持ってくる。



「………………………………」


 カウンターに置き、丁寧に布を開く。

 現れたのは一振りの剣。

 あの時渡された王鉄を使い新たに鍛え上げた剣である。

 一見形等あまり変わりないが、所々に変化が見られる。

 剣身は陶器の如く白く、鍔から切っ先に沿った黒鉄色の刃紋が白さを引き立たせる。

 元々少なかった装飾はさらに限られ、鍔にのみほんの少し施されているのみ。

 それでも、剣本来の質を落とす事なく。むしろ洗練された美しさを称えていた。

 この一週間、昼夜問わず鍛ち続けた末の成果だ。


「これが俺の」


「そうだ」

 

 食い入るように剣を見るカーグ。

 どうやら造り自体に問題はないようだ。 


「試し切り、出来るか?」 

 

「こっちだ」


 連れて来たのは店の裏、試し切り用の小さな庭。

 有るのは切る対象のみのシンプルな空間。


「おい、これ」


「良いから。やってみろ」


「………………………………本気か?」


「本気だ」 


 正面から来る疑いの視線を黙殺する。

 冗談ではないと理解し、眼を閉じて集中するカーグ。

 瞬間、雰囲気が戦闘さながらのそれに変わる。

 既にやつはこちらを認識していない。

 王城騎士というのは伊達ではないようだ。 


「覇っ!」


 一閃。

 風切り音と共に、重い物がずれる音が聞こえる。

 やがて自重を支えきれなくなったそれは落下し地面にへこみをつくる。

 そう、眼の前に在るのは普段使われる巻き藁ではなく、金剛鉄だった。

 しかも、フルプレートアーマー状で3倍の厚さのをだ。

 それを易々と切り裂いたのだ。

 もう、すっぱりと。金属がかち鳴らす音さえ聞こえなかったくらいに真っ二つだった。 

 切った本人ですらあまりの切れ味に呆然とする始末。

 一方俺は、こっそりと安堵した。

 どうやら、大丈夫そうだ。


「どうだ?」


「なんだ、これは…………………………」


「当社比5倍は固いな。これならドラゴンだろうと切り飛ばせるだろ」


「とんでもない、な」


 ドラゴン自体見た事もないし、誇張した虚言であるが。

 それぐらいの逸品に仕上げた自負はある。


「渾身の一振りだ。苦労させられた価値は有る」


「なんというか……………………な」


「まぁ、やりすぎた自覚はある。後悔は微塵もしていないがな!」






「しかし、良いのか?頼んだ俺が言うのもなんだが、本当に俺が貰っても」


「元々お前の剣を加工したんだから当然だろ」


「だが、お前は「ストップだ」……………………」


「確かに俺はお前には鍛たなかった」


 ただの人殺し(PK)にはな。


「だが、今のお前なら構わないと思っただけだ。それに」


 そこで言葉を止め、一つ息をつく。 


「借りを作ったままは性分に合わん。これで、チャラだ」


 驚きに眼を見開くカーグ。



「気付いていたのか」


 そう、いかにセリス嬢が顔が広いにしてもあんなにとんとん拍子にいく訳がない。

 後で分かった事だが、こいつが裏で糸を引いていたのだ。

 いくらなんでも初めから適正より安い価格でどこも仕事をやってくれるなんて、普通に考えればあり得ない。この街の人々が皆良心的である事を差し引いてもだ。

 となれば、予め交渉事が終わっていたと見るのが自然である。

 そしてそんな事が出来るぐらいに地位を持ち、知己もあり、俺の事を知っている者なんて。


「ありがとう。貴方のお蔭で俺は店を始める事が出来た。この世界で鍛冶士となれた」


 こいつくらいしかいないだろ。

 ここまでされて感謝が出来ない程人間が腐っていない。

 故に、不肖だが、今この瞬間だけは過去の諍い等全てをぶん投げる。

 いつの間にか、馬鹿みたいなお人好しになっていた。

 カーグ ファティマに最大の敬意と尊敬、感謝を持って頭を下げる。







再び深夜投稿。

やはりこの時間は落ち着きますね。


あるぇー?

いつの間にか、カーグくんが主人公っぽくなってます。

これだからイケメンは油断ならない………………。

どうしてこうなったのやら、書いていく内にこんな結果に。

物語を書く醍醐味でも有りますけどね。


さて、この辺りで初仕事編は終わりです。

色々と伏線回収したりと次章に向けていきますよー。




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