第9話:エディナさんのお仕事5
「模様鍛接」
北欧で生まれた鍛冶技法。
多数の鉄板を炭火の中で焼き、赤熱状態を保ったまま熱する。
すると鉄片は炭素を吸収して表面が鋼になる。
この鉄片を刻んで寄り合わせ、平に延ばすように鍛え上げる。
これを何枚も繋ぎ合わせ、また鍛え上げ、武器に仕上げていく。
剣身には鋼化した鉄と通常の鉄が混じって蛇のような大理石模様を描く。
物語に出てくる聖剣の類はこの製法によって造られたと云われている。
〈第9話:エディナさんのお仕事5〉
工夫を凝らしてみよう
頭では理解していた。
やはり生身での鍛冶は少し、かなり勝手が違ったがどうしようもない程お手上げではないのは救いか。
「……………………………………」
冷静さと大胆さ。
遅くなっては熱が引いてしまい駄目になる。
焼ける様な熱さを掌握し、ひたすらに鎚を振るう。
「もう少し、………………………………強く………………………………」
下鍛、上鍛、素延、火造。
鍛えたものを刻み、寄り合わせまた鍛える。
時に視点をずらし斜めから見たり、自分の持つ知識を動員して仕上げてゆく。
何十回目かの折り返し鍛錬、造り直しを経て、漸く剣身が出来た。
荒研ぎをして形を整え、土取りと呼ばれる焼刃土を剣身の中心から鍔にかけて薄く塗り、刃との色の差異を生み出す。
次が最大の山場だ。
土が乾燥する間に呼吸を落ち着け、精神統一をする。
焼き入れ。
加熱した剣身を水につける事で刃を硬化させ切れ味を出す手法。
実際に、つける時の水温を確かめようとして、入れた手を切り落とされた鍛冶士もいたらしい。
それくらい、焼き入れの作業の重要性と機密性が見て取れる。
鍛冶の難しさは鎚を振るうのでもなく研ぎでもなく、焼き入れである。
ここで鍛冶の腕前が出るといっても過言ではない。
熱する炉の温度、剣身の温度、つける水の温度。
どれが一つ狂っても今までの作業が台無しになってしまう。
また、入れる時の角度も大事なのだ。
放り投げる等言語道断。
素早く、丁寧に。
「………………………………………………」
まだだ、まだ早い。
もっと。
もう少し。
水温は適温に保たれている。
赤熱する剣身。
待つ。
その一瞬を。
産声を上げるその時を。
「………………………………………………………………………………今っ!」
「ふわぁあああ、もーげんかーい……………………」
最後の一本の焼き入れが終わった。
炉を止め火が精霊石から消えるのを確認して、その場に寝転がる。
「…………………………」
初めての鍛冶は思った以上に疲れた。
でも。
「やりきったー、ってなぁ」
胸に広がる充足感はたまらない。
この満足感はこの世界に来て、大なり小なり溜まっていた鬱屈を飛ばしてくれた。
安心した。やれば出来るもんだ。
一時期、余りにリアルなので鍛冶の勉強に実際の工房を見学させて貰ったり。
実物の日本刀の鑑定士に頼み込んで目利きを教えてもらったり、博物館巡りをしていたので、ある程度の目利きが出来る。
今回、俺の鍛ったものはゲーム程の完成度はないが、かなり良い線をいっていた。
自分なりに一つ一つ手抜きなしに丹誠に造った自慢の子達(武器)だ。
これなら売り物として出せる。
開け放った窓からのひんやりとした風が疲れた身体に心地よく流れる。
地面の冷たさと風の涼しさに身を任せ、瞳を閉じた。
「むむ……………………………………」
暫く余韻に浸った後。
新たな問題に俺は直面していた。
「う、流石にまずいかな」
灼熱の中作業していた為、汗を大量にかいていたのだ。
作業着代わりのシャツには汗がべっとり。
涼んでいたので汗じたいは大分引いたが、ちょっとカホリがキツいという現実。
「そういや、風呂入ってなかったなぁ」
この世界に来てもう一週間くらい入っていない計算になる。
そりゃ、そんな状態で汗だくになれば体臭も気になる。
「うー、汚いのは嫌だけど」
なんでそんなに嫌がるのか。
決まってるじゃないかブルータス。
お風呂に入ると自分はどうなる?
全裸でぃすよ?
マッパですよ。
あちらこちら触らないといけないんですよ。
役得とかそんなのは他人の場合です。
「はぁ、諦めるしかないか………………………………」
気分はドナドナの子羊です。
もう眼の前にはバスルーム。
このまま放置して知り合いに会う訳にいかないので、憂鬱な気分のまま服に手を掛ける。
魔法少女並みの早着替え、早脱ぎをして中へ。
バスルームといってもシャワーがくっついているだけの簡素なものだが。
シャー
ぽんと精霊石を軽く叩きシャワーを出す。
ざーざー流れるお湯を頭からかぶる。
「あー、これ、嵌まりそう…………………………」
なにかって。
凄く気持ちがいいのだ。
びっくりするぐらい落ち着くというか。あふれる爽快感というか。
不快な汗が流れる感じといい、肌が水を弾く度疲れが取れるような感覚がある。
風呂がそこまで好きでもなかった俺だが、温泉とか長風呂とかを好む友人の気持ちが分かった気がした。
「………………………………」
ふと、視線を降ろす。
ここまで来たら、身体を洗わなければならない。
髪だっていつまでも放置したら痛んでしまうだろう。
あの艶は無くすのは惜しい。
「……………………………………ごくり………………」
視線の先には、まんまるなマシュマロさんが二つ鎮座しておられます。
恐る恐る、手を上げてそこに触れる。
ふにゅん
「さ、さわった。おれ、女のむむね触って………………」
思ったより柔らかい。
それでいてハリがあるというのか、途中で押しかえしてく感触。
いかんいかんいかん。
頭をぶんぶんと振り、見ないように手探りで乱暴にならないように優しく洗ってゆく。
途中なにかひっかかった所に触った時はつい驚いて奇声を上げてしまった。
オレハナニモミテイナイ、トッキナンテシラナイ。
「んっ、く……………………ふっ…………………だ、だぁ!なんで声がでる!?ただ洗ってるだけだぞ?!」
こうして、異世界初風呂はシャワーの快い暖かさと妙な疲労感を残して終了した。
ついでにマイサンはやはり時空の彼方に旅立ったようでした。
当然の如く、風呂上がりの俺は身体の隅から隅まで茹で蛸でしたとさ。
海っていいよね!
今年の夏は泳ぎにいきます、Keiです。
皆様お待ちかねのサービスカット。
やはりTSものを書く以上ここは外せない。
地味に鍛冶シーンを食ってる感がしないでもないですが。