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第8話:エディナさんのお仕事4

 


 夕方になり、バーンスタイン商会が頼んでくれた寝室のベットに家具一式、工房に収納用の木箱、それと店のインテリア等が届き、配置の為に一旦外へ。

 改めて入ると建物中はぐっと店らしくなっていた。

 これで後は、商品を並べれば立派な店が完成する。

 










           〈第8話:エディナさんのお仕事4〉

              剣を造ってみよう
















 周囲を見回す。

 誰もが手に黄金色の液体をジョッキに納め、今か今かとその時を待ちわびる。

 咳払い一つ。


「えー、では、名前もまだ決まっていませんが、皆様のお蔭でつつがなく改装、店の下地を作る事が出来ました。バーンスタイン商会、アイクリルコラード、そして此所には居りませんが各種インテリアを造ってくれた方々、全ての人達に感謝をしたいと思っています、有り難うございました。それでは、長い話しも何なので、………………………

乾杯!!」


「「「乾杯!!!」」」


 かけ声と共にグラスの打ち鳴らす音が一斉に響く。

 店内は一気に活気に溢れた。

 夜の酒場、本日共に仕事を終えた(自分は突っ立っていただけだが)皆を集め、ささやかだが打ち上げをしようという事になった。

 それほど大人数ではないが、店の一角を占拠出来るくらいの人数が思い思いに仕事上がりの充足感と達成感に浸る。

 中でもバーンスタイン商会の面々は流石というべきか。

 早くも酔っぱらいが誕生し始める程賑やかである。

 

「んぐ、………………んぐ、ぷはぁー!!たまんないな!」


 見た目と裏腹に豪快にジョッキを煽る青年。


「こくっ、こく……………………ふわー、ですね!」


 両手で持ち、可愛らしくもとんでもないペースで杯を空にしていく少女。

 俺は騒ぎの中の一つの机に、ユーリックと元気娘さんと卓を囲んでいた。

 

「んく、………………ふぅ。たまんないな……………………」


 それにしてもこの二人、呑むわ飲むわ。

 俺も酒に弱い方ではないがこの二人程ではない。

 次々と運ばれる蜂蜜酒を尻目に、つまみを肴にゆっくりと味わう様にグラスを傾ける。

 お酒は静かに、食事は烈火の如くが俺の心情である。


「あ、店員さーん!こっちも追加でー!」


「こっちもや!エディナんも呑みぃやー」


「わかったわかった。少し落ち着け」


 夜はまだまだこれから。 



 





 程よい銘酔感に包まれながら道を歩く。

 路地を曲がり行き着いた先は一つの建物。

 今日から俺の住居。そして店となる予定の物件である。

 ぴかぴか新品の木製の扉を開け中に入る。

 まだ売り物一つない店内は少し不思議な佇まいである。

 薄暗い床を確かめる様に踏みしめ、奥の扉を開け二階へと続く階段を昇る。

 そのままリビングを通り抜け、ベットルームへ。

 着替えは、明日でいいや。

 謎袋等持ち物を机に置き、ベットへと倒れ込む様にダイブ。


「おー、ふかふか……………………」


 ぼすり


 高級ホテル並なんて事はないが、そこそこに寝ごこちの良いシングルベット。

 新品のシーツは肌触りが中々いい。

 ぐるんと、仰向けになり呆けたように天井を見つめる。


「此所が今日から俺のいえかー……………………」

 

 有り余った資金のお蔭でここまで順調に来れた。

 だけどこれからは。 


「………………………………」


 これからどうなるのか。

 取りあえず、剣を鍛ってみるつもりだけど。

 本当に、俺に鍛冶が出来るのか。


「…………………………やるしかないかな」


 今更か。

 ここまでお膳立てされたんだ。

 先行きなんてわからないし、やってみるしかないだろう。

 

「明日は明日の風が吹くってね。これ、意味あってたっけ……………………?」


 りぃん


「……………………これから、よろしくね……………………」

 

 ここまで光で先導してくれた我が家の姫に感謝を込めて優しく頭に当たる部分を撫ぜる。

 嬉しそうに一鳴りして飛んで行く姫に満足し眼を閉じる。

 身体に染み渡ったお酒の効果か。

 そんなにかからず、眠りについた。

 




「ぅにゅう…………………………くあっ、…………………………ふぁあ………………」


 翌朝。

 窓からの光に自然と目が覚める。

 元々、朝型人間であったので朝に起きるのは苦痛ではない。

 ただ、低血圧なのでいまいちパッチリとした目覚めは一度もないのだが。


「………………………………………………」


「………………………………………………」


「………………………………………………あさか」


 回らない頭を活性化させる為洗面台へ。

 元の世界の蛇口にあたる所にある、静水石に触れる。

 軽く光り、どういう原理なのか流れ出す水を桶に貯めて顔を洗う。

 鏡代わりの鏡面に映る美人さんに朝のご挨拶。どうやら、俺らしい。

 まだ、寝惚けていた。

 あくびを噛み殺しつつ所々はねた髪を整え、布で結い上げる。

 ぴょこりと僅かに覗くしっぽを確認してベットへ。

 ちょっと皺になった服を身体を見ない様に着替え、脱いだものを謎袋へ。

 汚れはこの中に入れれば消えてしまうのだ。ファンタジーばんざい。

 傷は消えたりしないので、破れたら縫うか新しく買い替えなければいけない。

 そのせいか解らないが少し生地が弱い気がするがそれは我慢だろう。

 


















「さて、始めようか」


 場の空気が変わる。

 水場の水滴が落ちる音すら聞こえそうな程、静かな空間。

 此所は工房。

 それすなわち仕事場。


 「マエストロ」

 職人、親方の意味を持つ詞。

 最古参の鍛冶士として第一線を走るプレイヤー達に武器を造り続け、いつしか付けられた二つ名。

 

 いつも巫山戯ている自覚のある俺だが、この時ばかりは話が変わる。

 この状態の俺は別人の様になるらしい。

 言葉を発さず、表情を変えず。

 ひたすらに剣を鍛つ。

 

 まるで人が変わったかの様だ。

 

 と評したのは普段の俺を知る、旧知の悪友だ。

 伊達や酔狂でもなんでもない、十年間ひたすらやり続け来た、

 [Master of Artist] 随一の名工と謳われた腕を。

 その経験が今試される。



「………………………………」 


 袋から鉄材を取り出し、起動させた火床へ。

 今回使用するのは極普通の隕鉄だ。

 質は良くはなく、悪すぎではないクラスのもの。

 最初だし、欲張っても仕方がない。


「……………………ふぅ」


 精神を集中。

 周りの景色が、徐々に薄くなる。

 視えるのは燃えさかる釜、熱せられ融解した金属の固まり。 

 手には、握りなれた様な、今日初めて握る槌。


「…………………………」


 ここからは正真正銘、本当の鍛冶だ。

 ゲームの様に画面越しではない。

 触れれば焼けつく様な熱と、金槌を一振りする毎に変化する金属。

 手法は全て解っている。

 実際の作成方法を完全に再現した[Master of Artist]でやっていたのだ。


 真面目な話しをすると。

 武器とはつまるところ、凶器だ。

 その刃を振り下ろせば、対象の生命を終わらせる。

 身を守るとか、誰かの為とかそういったものは言い訳にすぎないと思う。

 別に活殺という概念を馬鹿にしているわけではない。 

 騎士という者達を虚仮にしているわけでもない。

 ただ自分が造る物は人であれ、モンスターであれ、クリーチャーであれ。

 意志をもって自分の武器が振るわれるのだと言う事を忘れないでありたいのだ。

 それを心に留めておかなければ、俺には鎚を振るう資格がない。

 俺が造るものは展示品ではないのだから。

 

 以上の事を含めて。

 俺が、今の俺がどこまで出来るのか。

 この世界で鍛冶士として銘乗りを上げられるのか。

 恐れも不安も、震えるような期待も歓喜も。

 

「やるか………………………………」


 万感の意を込めて最初の一振りを下ろした。








アイスキャンディーにハマってます。

日の出を迎えるのが日常になってきました、Keiです。


やっときた。

エディナさんの鍛冶シーン到来です。

ふっふっふ、食事するだけがこの小説ではないのだよ。

比率としては7:3ぐらいでいこうかと思っています。

どっちがどっちかは勿論読者のみなさまはご存知ですよね?


次回もエディナさんinマエストロverで彼女の素敵さを

全面に押し出していきます。

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