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    大学生たち 3

やっと終わりました試験期間! 今から夏休み、何をしようかな!」

嬉しそうに叫ぶ幼馴染にカスガが冷静な声を出した。

「リウヒさ。いいけど古代語、絶対追試だよ」

キャンパスの中はリウヒ同様歓喜の声を上げている学生であふれている。

長期休みの始まりはいくつになっても楽しいものだ。

「古代語なんて、なんで勉強しなきゃいけないのか分かんない。今は現代でしょ」

「昔の人が話していた言葉なんだよ。ロマンじゃないか」

「わたしはロマンよりマロンがいい」

「君の思考回路はなぜいつも食い物に直結するんだ」

宮廷跡へ行くのは、明後日の十時にカスガ宅で集合する事になった。カスガが実家から車を借りて、運転していく。

南館からシギが出てきた。

「シギ! 試験どうだったー?」

リウヒが駆けて行く。どうやら人見知り期間は完全に終了したらしい、とカスガは苦笑する。

自分とリウヒの関係は、他人には異様に見えるらしい。「べったりし過ぎて気持ち悪い」とよく言われた。小さい時から。事実、カスガに友人は何人かいるが、リウヒはその性格もあってか、友人らしき人物はいなかった。せいぜい大学やバイトの知り合い程度だ。

それでも社会人になれば、この関係も変わるかもしれない、と思いつつ過ごしている内に、シギが加わり出した。二人は、よく不毛ない言い争いをしているが、最近シギはリウヒをからかう事を覚えたらしい。仲がいいんだか悪いんだか分からない。

まあ、なんにせよぼく以外の人間と関わるのはいいことだよな。

遠くでまたじゃれているように言い合いをしている二人をみて、カスガは少しだけ淋しい気持ちになった。


***


「せっかくカスガと三人で飲みに行こうと思っていたのに。今日もバイトなのー」

「悪いな。おれはお前らみたいなお気楽学生とは違うんだよ」

「そのお気楽学生とつるんでいるのはどこの誰だ。あーあー。つまんなーい。久しぶりに外で飲もうと思ったのに」

「おれがいなくて淋しいんだろ」

「馬鹿。この馬鹿」

「照れるなって」

いつもの如くくだらない言い合いをしながら、リウヒは後頭部に突き刺さるような目線を感じた。振りかえると同じゼミの女子が数人、こちらを睨みつけながらひそひそ話している。あの中の一人は昔、シギに声をかけていた子じゃなかったか。

「行こうぜ。カスガが待っている」

いきなりシギの手が肩に回って、リウヒは仰天した。しかし男は頓着せずに歩きだす。

「な、な、な、なにしてんのあんた!」

「ちょっとだけ付き合ってくれ。あの子、苦手なんだよ」

シギが声をひそめて言った。耳の近くで囁くように。自分の顔が赤くなるのが分かった。

「ストーカー体質っていうの? なんか友達と一緒に集団で押し掛けてくるんだよ。下宿先とかバイト先とか……おい、お前歩き方おかしいぞ」

どうやらパニックになって、右手と右足を一緒に出して歩いていたらしい。

「それに顔も滅茶苦茶赤い……ああ、そうか。男に免疫ないんだ」

「悪かったな!」

からかうような笑い声についとがった口調で言い返す。

二十歳はたちで男に免疫なくて悪いか。彼氏がいたことなくて悪いか」

「いや、むしろ珍しい」

シギはクツクツと楽しそうに笑い、肩に回している手に力を込めた。体がさらに接近する。そして耳元で低く甘く囁いた。

「リウヒ……」

「ひッ!」

背筋から寒気が一気に広がって、鳥肌が立った。シギの手を振り切って、呆れた顔をして見ていたカスガに走り寄る。

「お後がよろしいようで」

「よろしくない、よろしくない。全然よろしくない!」

この女たらしが苛める、とシギに向かって指をさすと、カスガはため息をついた。

「あのね、シギ。リウヒは我儘で自分の事とご飯の事しか考えていない、色気のない子だけど、一応お年頃で、男の人には慣れていないような、信じられないけど初な所もあるんだから、あんまりからかわないであげてね」

「それはほとんどわたしの悪口じゃあ……」

「はいはい、しょうがねえなあ」

シギは、相変わらずクツクツ笑ったままだ。楽しい玩具を見つけた、という風にリウヒを見る。慌てて、カスガの後ろに隠れた。

「じゃあ、おれそろそろいくわ。また明後日な」

「うん、バイト頑張ってね」

シギが手を上げて踵を返す。カスガが手を振って見送り、その後ろからリウヒも小さく手を振った。


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