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序 章 小さな王女

洞窟を抜けるとそこは異国でした。

眩いばかりの光の先に見えた風景に、少年たちは驚きました。

見たことのない建物や人々の衣装。

初めて嗅ぐ、不思議な香り。遠く広がる青い空。

おそるおそる少年たちは歩き出しました。

そして…。


「聞いているぞ」

リウヒがうつらうつらしながら言うとトモキはクスリと笑った。

「半分目が閉じていますよ。今日はここまでにしておきましょうね」

本を閉じて腰を上げた。

「続きはまた明日。おやすみなさい、リウヒさま」

「うん、おやすみ。トモキ」

本当はその手で、髪をなでてほしいのだけど。昔、母さんがやってくれたように唇を額に当ててほしいのだけど。

体が恐怖で震えてしまうから、それは叶わない。トモキも知っているから、やってくれない。

扉の閉まる音がして、静寂が訪れた。

掛布を手繰り寄せて抱きしめるように絡まる。

最近、トモキは寝る前に物語を聞かせてくれるようになった。

もうわたしは十四だ、子供じゃないと反発する気持ちもあるが、兄ちゃんのような人に甘えるのは心地の良いことだった。だから存分に甘えている。

今まで、獣のように神経をとがらせて、周りのどの人間にも心を開かなかった。否、開けなかった。

死にたいほど辛いことがあっても、彼らは助けてくれなかったし、そんな人々に絶望と憎しみを抱いていたから。

トモキは違った。最初入廷してきた時は、また、どうでもよい人間が一人増えたと思っただけだった。

ところが、この男は散々自分を追いかけまわし、どんどん小言を呈してきた。

王女だからといって怯える訳ではなく、王女だからこそきちんと教育を受けるべきだ、だから責任をもって授業をうけろと叱った。

驚いた。今までそう言う人はいなかったから。仕方なさそうに笑って見てみない振りをしていただけだったから。

その人たちも辛かったのだと今は理解している。三人娘は、ふとした時に礼を言うと、声を上げて泣き出した。トモキを連れてきてくれたシラギは、もっと早くこうすれば良かったと痛々しい顔で言った。ただ傍観していただけのわたしを許してくれとも。

みな、リウヒに無関心だった訳ではない。王の存在が大きすぎて、どうすれば良いか分からなかったのだ。

光はどんどんと充ち溢れて行った。わたしは今その中にいる。

なんて、幸せなことだろう。

リウヒはクツクツと笑った。そしてそのまま、眠りについた。

小さな肩を上下させて。



イーストエンド大陸の南にティエンランという小さな国がある。

三方を山、一方を海に囲まれた美しい豊かな国だ。

大陸側は二つの国に挟まれていたが、おおむね良好な関係を保っていた。万一、攻められる事があろうとも小高い山々が自然の城壁となって防いでくれる。

一方の海側は、貿易が盛んに行われ港が賑わっていた。が、防衛面は弱くしばしば海賊が出没した。

その海を左手に見下ろす山の中腹に、この国の宮廷がある。山地の形状を生かし傾斜になだらかに這うように建てられていた。

平地から小高い場所に位置する宮廷は、霧の発生する季節になるとまるで雲の中に浮かんでいるように見え、民たちは親しみと誇らしさをこめて「天の宮」と呼んだ。周りは堀で囲まれており、表玄関となる大門はその巨大さで見る者を圧倒する。

宮廷の山裾には、整備された城下町が円形状に広がる。中央の大通りを挟んで四区ずつ、計八区に分けられ、民が住む住宅街、市場、商店街、色町、学問機関がある。

大通りは市街の中心をまっすぐ抜け、宮廷の大門と都の表門を一直線に結んでいた。その両脇を柳の木が行儀よく並べられている。地面はすべて石畳で整備されており、城下と宮廷を守るように白い塀に囲まれていた。

都を離れると、平地が広がり所々に村や町がぽつりぽつりと存在する。平地には町が多く、村は山地や海沿いにあった。

 

深夜。人々も、家畜も、犬も猫も、草木も眠りについている。

風すら、寝入ったように止まっていた。

宮廷の東宮でも小さな王女、リウヒが物語の続きを夢見ながら寝息を立てていた。


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