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高嶺の花より道端の雑草

作者: kanri
掲載日:2026/07/06

女子高生の一ノ瀬優香は自他ともに認める完璧な少女だった。切れ長な目に鼻筋の通った高い鼻とに形のいい唇。きめ細やかな肌に艶のある長い黒髪。成績もよく運動神経も抜群。数々の異性に告白されてきたし、裏ではファンクラブもあるらしい。だがその一方、女子にはあまりよく思われておらず、中学の時には軽いいじめに遭っていたこともある。でも優香はあまり気にしていなかった。それどころか嫉妬する同級生の女子たちを憐れんでさえいた。可哀想な人たち、と。


「ごめん、実は他に好きな人がいるんだ」


だから、優香が同級生の男子、池田翔太に告白してそう言われ、想定外のあまり固まってしまったのは無理もないだろう。確かに翔太はとてもモテる。それこそ優香に匹敵するぐらい。だがまさか自分が振られるなんて。そして次の一言はさらに優香に衝撃を与えた。


「俺、その、桜が好きなんだ。」


優香は理解ができなかった。はっきり言って桜は地味な子だった。あまり記憶に残ってないが顔が特別いいわけでも勉強ができるわけでも運動が得意なわけでもないはずだ。強いて言うなら愛想が良かった気がするぐらいだ。そして、何より自分は翔太の幼馴染で、幼稚園の頃から翔太を知っていたが、桜は翔太とは高校からのはずだ。どう考えても自分ではなく桜を選ぶ理由がない。

だから優香は純粋な疑問で「あの人の何がいいの?」と翔太に言った。すると翔太は困ったように「全部だよ、あと悪いけどこのあと部活があるからもう行っていいか」と言った。

そうしてますます理解ができなくなった優香は校舎裏で一人呆然と立ち尽くすのだった。


その日から優香は桜を観察するようになった。納得がいかないのだ。でもやっぱり桜はテストでも平均ぐらいだし体育でも目立たない。ただ、桜はいつも友人に囲まれていた。特段面白いわけでもないのに。そしてその取り巻きの中に翔太を見つけるとモヤっとするのだった。優香は一人で行動することが多かった。群れるなど弱い人がやることだと思っていた。


告白されてから3週間が経った、ある日のことだ。


教室は初めての転校生に沸いていた。それを冷めた目で見ながら優香も内心どんな転校生がくるか少し気になっていた。ガラガラと教室のドアを開けて入ってきたのは至って普通の女子だった。教室は少しがっかりしていた。優香もすっかり興味をなくし、転校生はそのうちクラスに適当に馴染むはずだった。

さっそく朝礼が終わって女子たちは転校生に群がっている。「名前何?」「どこから来たの?」「好きな食べ物は?」「兄妹いる?」「たけのこの里ときのこの山どっち派?」「何座?」怒涛の質問攻めに転校生は少し戸惑っているようだった。「転校生と話せる自分たちがすごいと思ってそう」と冷ややかな目で優香は見ていた。


だが、ある噂がきっかけで転校生は悪い意味で話題になるようになった。

「あの人の母親は父親の愛人らしいよ。しかも水商売やってたんだって。」


クラスという狭い空間でその噂がみんなに知れ渡るのにそう時間はかからなかった。転校生は転校初日に仲良くなったらしい子たちに話しかけてもそっけなく返されていた。休み時間もずっと一人だ。

さすがに高校生にもなるので漫画や小説のようないじめはなかったが転校生に進んで関わろうとする者はクラスにいなかった。一人を除いて。

桜は噂のことなど全く知らないかのように転校生、凛に話しかける。「凛、今日の1時間目なんだっけ?」「凛、一緒に組も!」「聞いてよ凛、お母さんが昨日さ〜」まるでずっと前から友達だったかのようだ。相変わらず桜は馴れ馴れしかったが、転校生はいつも嬉しそうだった。


「なんであの転校生と関わるの?あの噂知らないの?やめときなよ、だってほら、ねぇ」「そうだよ、あの人暗いしさ。同情してるの?優しいね」

忘れ物を放課後の教室に戻った優香の耳にはそんな会話が入ってきた。

「いや噂のことは知ってるけど、どうだって良くない?別に同情とかじゃなくて凛と話すの楽しいからだよ。面白くて楽しい子だよ!」そう言って桜は笑った。


それを聞いて初めて優香は翔太が桜を好きになった理由がなんとなくわかった気がした。


桜が凛とあまりに仲がいいので桜の仲良しグループの子達は転校生が気になり始めていた。一人また一人と凛に話しかけるものが増えいつしか転校生は桜たちと共に行動するようになった。その結果少しずつクラスの他のことも凛は話せるようになった。


そんなある日、生物の後の休み時間桜は凛と話していた。

「生物ややこしいよね。植物の名前とか覚えんのだるくない?」


「わかる。でも植物ちょっと好きなんだよね。桜は好きな植物とかある?」


「うーん、やっぱり私は桜が好きかな。名前だし。凛は?」


「そっかぁ。私はスギナ、かな。あっという間に庭中に広がるんだけど地下茎がすっごい深くて途中で切断されてもそこからまた新しい芽を出すから地上部を刈り取っただけじゃ完全には駆除できないんだって。」


「よく知ってるね。うん?駆除しにくいのに好きなの?」


「うん。確かに駆除しにくいけど厳しい環境の荒地でもいち早く緑を蘇らせることから、「復活」や「再生」のシンボルとしても知られてるんだって。なんかカッコよくない?」


「あーなるほどね」


「てかね、私雑草が地味に好きなんだ。何度踏まれてもめげずに伸び続け、過酷な状況でもしっかりと根づいてるのちょっと尊敬する。なんていうか綺麗で高いところに咲く花は踏まれたらすぐ折れそうだけど道端に咲く雑草は何度踏まれても折れなさそうで心強くない?」


「そんなこと言う人初めてだよ。やっぱ凛は面白いね。『高嶺の花より道端の雑草』みたいなことわざありそうじゃない?」


そう言うと、二人は笑うのだった。







読んでくださりありがとうございます。感想やアドバイスをくださると嬉しいです!

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