イベントが起こらない悪役令嬢
またも悪役令嬢の話ですみません。
ちょっとちょっとちょっとおお。
今日って卒業式よね? どうすんのこれどうなるの??
普通にパーティー会場に来ちゃったけどさあ。お兄様が暇だからっつってエスコートしてくれたから、ありがたく来てもらっちゃったけどさあ。
これでいいんだっけ?
私はエスコートなしで来るんじゃなかったっけ?
あっ王太子が歩いてくる! さすがになんか始まるのよね? そうよね?
でも何が始まるの!? 思い当たることが何にもないんですけど!!!
◇◇◇
私が転生したことに気づいたのは、ここ王立学園に入学した時だった。
私の名は、クラウディア・サーザンスキ。公爵令嬢だ。
10歳のときに第一王子であるアラン・マタオマエカに見初められ、政略的にも問題がなかったので婚約した。
「なんかこの名前、聞いたことあるんだよなあ」
と思いながら生きてきて、学園に入学した時に、クラスメイトのメンツを見て、やっと気づいたのだ。(鈍い)
王太子の側近であり公爵令息のエドワード・メンドクセエ
宰相の息子、クラウス・ナンデモイー
騎士団長の息子、カール・ミタメダッケ
お忍びで入学している隣国第二王子のエミリオ・マダインノ
そして聖女の力があるとして、平民だったが子爵の養女となったマチルダ・ヤッタルデー嬢。
これみんな、私が前世で吐くほど遊んでた乙女ゲームの登場人物じゃないの!!!
ということは、私はヒロインのマチルダをいじめて、卒業式で断罪される悪役令嬢クラウディア。
わー、転生もののテンプレまるだしいい!!!
でもそうとわかれば対処のしようもある。ひとりにならないようにするとかマチルダに近寄らないようにするとか、とにかく断罪されるような行動を起こさないように気を付けていればなんとかなるはず!
そう思って学園生活を送っていたけども、イベントに備えて身構えていたけども…
何も起こりません。
だいたい、マチルダが上位貴族に近寄ってこない。
ひとりでいるか、爵位の低い令嬢の何人かと話すくらいで、まったく関わってこない。
なんで???
たとえばこんなことがあった。
聖女の光の魔法は珍しいので、魔法の授業の時に教師がマチルダを生徒の前に呼び、
「ここにいる生徒全員に防御の結界を張れる?」
と聞くと
「わ、わたくしのようなものにお許しいただけるなら…」
と恐縮しつつ、詠唱もなしで金色のベールのような膜を、あたりいっぱいに広げてみせた。
キラキラと輝くベールは、そこにいた20人ほどの生徒にぴったりとまとい、体表にいまだかつてない爽快感を感じた。
たぶん顔ダニや水虫、お風呂キャンセル界隈の雑菌などを消し去ったのだと思う。すごい魔法だった。
私も思わず「あなたって…すばらしい力を持ってるのね」と声に出してしまった。
この時、ゲームでは、マチルダはわざと卑屈に
「も、申し訳ありません! わたくしのような下賤なものが、こんな身分不相応な魔力を持っていたら、高貴な方々には不愉快ですよね!本当にごめんなさい! この力は必ずお国のために使えるよう尽力しますからどうかお許しください!」
と涙ながらに訴え、あたかもクラウディアが嫌味を言ったような雰囲気にしてしまうのだ。
クラウディアはただその魔力に素直に感動しただけなのだが、
「えっ待って、そんなつもりじゃ…」
と言いかけたところで教師に
「クラウディア様、もうそのへんで…」
と声を掛けられ、マチルダから引き離される。
その場の生徒に「クラウディアやなやつ」、と印象づけるイベントであった。
しかし実際には、マチルダはにっこりと微笑んで
「ありがとうございます。私のような身分の低いものにもクラウディア様は評価してくださるのですね。そのお言葉を、一生の宝物にして、少しでもこの国にお役に立てるように精進いたします」
と言ったのだ。なんかクラウディアの印象あげてるし。
いいの? いいのそれ?
そういえばこんなこともあった。
試験の結果が張り出され、マチルダが上位にくいこんでいるのを見て、ゲームでは
「平民あがりのくせに」
「カンニングでもしてるんじゃない?」
というひそひそ声が聞こえる。
それを聞いて、攻略対象のクラウスが
「あなたたちは図書館で、マチルダがどれだけ勉強してるか知ってるのですか?」
と声をあげるのだ。
その時に
「クラウス様…! 見ていてくださったのですね」
と言うか、
「い、いえ! 私の努力など、こんなすばらしい学校で学ばせていただける光栄の前では微々たるもので…!」
と言うかで、クラウスルートに進むかどうか決まる。
しかし実際には
「マチルダ様、努力してらっしゃるものねえ」
「見習わないとなあ」
という声だけで、マチルダを悪く言う者はどこにもいなかったのである。
このように、マチルダは、攻略対象者を攻略するような行動は一切せず、そのため攻略対象者の婚約者も何の不安も持たず、その他大勢も素直にマチルダを好印象で見守り、わきあいあいとした学園生活だったのである。
◇◇◇
そして迎えた卒業式。
アラン王子とは仲良しのまま。
他の攻略対象者も、それぞれの婚約者と仲良し。
お忍びの隣国の王子は、正体を明かす場面もなかったので、ただの伯爵として国の婚約者のもとに帰る。
マチルダは卒業したら神殿で働くらしい。浮いた噂ひとつ聞かなかった。
なにかおかしい、何のための転生か、何のアクシデントもイベントもなしで、今日のこの日を迎えていいのか??
納得できないし不安すぎる!
アラン王子が近づいてきた。
断罪? 何の罪を訴えるのかさっぱりわかんないけど断罪するの???
ドキドキしながら王子を見つめていると、王子は私の手を取って跪き、
「今日も美しいねクラウディア。ぜひ僕と踊ってください」
ダンスのお誘いだったー!
そしてパーティーは円満に進み、今、王族が壇上に上がって挨拶をしている。
いいのかこれ!
こんな肩透かしみたいな学園生活でほんとに終わっちゃうのか!?
だけど…ふと私は、ひとつの見解にたどりつく。
もしかしたらこれこそ「金持ちケンカせず」の具現化なのではないかしら。
いいとこのお嬢様やお坊ちゃんは、そもそも人を妬んだり、足を引っ張ったりしないのでは。
聖女だって、神に仕えるような力を持ってるんだから、人の婚約者を奪うような、あさましい心はないのでは…。
そうか、この、イベントが何もない異世界生活が、実は現実味がある生活なのだ。
乙女ゲームはフィクションだから、あんなにドロドロしてるのだ。
そう納得した私は、もう何もよけいなことは考えず、王子との幸せだけを考えて生きていこう、と思った。
壇上では王子が私の名を呼ぶ。婚約者として私を紹介してくれるのだろう。
うれしげに壇上に向かうと、
床が消えた。
どさーーーーーーーーーーーーーーーーっ
?
?
???
落とし穴があった。
会場は大爆笑。
呆然としている私の前に、陛下が「ドッキリ大成功!」の看板を持って現れた。
もしかしてこれが…私の異世界生活におけるイベント…?
そりゃないよー!
名前を考えるのが本当に面倒なので、攻略対象のファーストネームはAIに
「西欧風の男性の名前を教えて」と聞いて出してもらったやつをつけました。
AIありがとう…。




