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異世界移住相談センター~あなたの夢のお手伝い~移住希望者が多すぎて過労死寸前です  作者: May


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⒉ PTSD持ちの元勇者

 

「天城くん、なんで相談室に結界なんて張ったのかしら?」


 天城 要、PTSDを患い魔王の元へ辿り着くこともなく役立たずとなった元勇者。


「そ、それは……若い女性の移住希望者だったのでできる限り外部攻撃の危険性から守り、落ち着いて話して頂けたら……と、思い……まして?」

「フフフ、外部攻撃ってナニ?ここ日本だけど」

 貼り付けた笑顔で優しく? 問う。

「突然の襲撃……魔族とか魔物は神出鬼没ですので」

「はぁっ、もぅいいわ。暫くあなたには教育係を付けます」



 最初からそうしろよ、と思ったそこのあなた、ここは漆黒のブラック行政機関。そんな人的余裕はありません。


 少しでも人手不足を補おうと、国交を開いている比較的安全ないくつかの異世界と人材派遣契約を結んだ。


 その結果送り込まれて来た中には、この、元勇者である天城 要のような異世界(アチラ)で役に立たなかった元移住者が含まれていたのだ。

 事実上の返品だ。

 基本的に移住者は帰還は認められていない。

 単純に、戸籍を閉じてしまったからだ。まぁ戸籍を復活させることもできなくは無いが、異世界への移住者に対しては基本やっていない。

 よってあくまでも人材派遣。天城くんは17:00になったら異世界(アチラ)の家に帰宅する。

 アチラへ移住して曲がりなりにも勇者となった存在の責任の所在は異世界(アチラ)だ。



「小松くーん、明日から天城くんの教育係、お願い! 移住希望者の相談も暫く一緒にやって」

「えー、マジっすか? 逆ギレとかされたら俺、ひとたまりもないんですけど」

「……あ、うん、それはみんなそう。とにかくよろしく!」

「うー、もう前より仕事増えてるじゃないっすかー」

「長い目でみればさ、人材の補充は大切でしょ、じゃあ頼んだわねー」

 ポンポンと肩を叩いて

 天城くんの件は部下に丸投げ完了。

 あ、これはセクハラになるんだっけ?……

 さてと、私は厚労省に行ってこないとな。

 こっちも誰かに丸投げした〜い。





 ~第二相談室 小松side~


「とりあえず今回は俺が話するから、空気感とかよく見て学んで。基本的に口出しはしなくていいからね」

「はいっ!りょ、了解です!」



「お待たせしましたね、どうぞおかけください。私は小松と申します。本日はこちらの天城とふたりでお話伺わせていただきますね」

「よろしくお願いします」

 移住希望者、17歳、冒険者志望。


「早速ですが、もし異世界への移住が決まりましたら、こちらでは死んだことになってしまいます。戸籍って、もうわかりますよね?その戸籍がなくなっちゃう、ってことなんですけど理解していますか」

「はい、ネットで色々調べてから来たので大丈夫です」

「そうですか、それではご両親にも希望は伝えてあるのでしょうか?」

「あ……、え、あ、はい、もちろん、二人とも賛成してくれています」


(言ってないなコレ)

 笑顔を深める。


「それは良かった。ちなみに異世界に行きたいと思ったのはどうしてですか? まだ高校生ですよね?」

「僕はもうすぐ受験なんですけど、今の日本で受験って意味無いですよね、なのに両親は昭和の人間だから大学くらい出ておけ! って言うんですよ。何もわかってないんです」


この手の話、多いなー


「なるほど。それで?」

「こっちの将来って、もう努力して成功する時代じゃないじゃないですか。投資とか貯金とか頑張っても増税されて、結局国に持っていかれて、年金で暮らせるなんて都市伝説ですよね?

 でも異世界は違います! 頑張った分だけ、ちゃんと結果が返ってくる。それって、生きる上で一番のモチベーションじゃないですか?」


 デジャブか?

 やっぱりこの手の話、今日だけでもう三回目だ。


「僕は勇者になれなくてもいいんです。

 冒険者になって、仲間と協力してドラゴンを倒して、人類の役に立ちたいんです!」


 俺は所長の教え通り、口角を上げたまま頷く。

 その横で、拳を握りしめて震えている元・人類の切り札がいる。

 ああ、ダメだ。これは危険案件だ。早く終わらせよう。


「わかりま――」

「君は何もわかっていないっ!」


 ほら来た。

 はい、終わった――。


「冒険者とは命を代償にしているんだぞ!

 君は、自分が死ぬところを想像したことがあるのか!?」

「天城くん、大丈夫だよ、そんなこと言わなくて」

 口を出すなって言ったのに。

 ああもう、これは所長にランチ一回じゃ済まないな。

「言わせてください! こちらの世界で努力できなかった人間が、あちらの世界に行って急に努力できるようになると、本気で思っているのか!?」

 少年の目が、さっきまでの希望に満ちた輝きから、

 徐々に“説教を受ける側の色”に変わっていく。

 あーあ。


「はい、天城くん。もうそこまでにしようね」

 砂糖菓子みたいにやわらかい声で空気を切り替える。


「ごめんね。今のお話は気にしなくていいから。とりあえずこちら、申請書をお渡ししますね」

 分厚い紙の束を差し出す。

「この中の項目、全部記入してから、また来てください。あ、それと未成年の方なので、ご両親の承諾書も必要になります。署名と捺印、どちらも忘れずにね」

 にこにこ笑顔のまま、完全に道を塞ぐ。

「では本日はここまでです。

 おつかれさまでした。気をつけて帰ってくださいね」


 扉が閉まった瞬間、

 あの少年の受験逃避計画は、書類不備という名の元に消えてなくなった。





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