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50話 守るための準備



会議室の扉が閉じられた瞬間、

空気は一段階、重くなった。


円卓を囲むのは、アルトレス家の中枢。


ゼクロア・アルトレス伯爵。

ミリア・アルトレス――軍総指揮官。

専属医師エド・イレイユス。

情報組織統括ロナンドルト。

そして、執事協会会長リチャード。


そこに――

リオルの姿は、ない。


「……中央魔術局の動きは、想定内だ」


最初に口を開いたのは、ゼクロアだった。


「だが、想定より早い」


「ええ」


ミリアが腕を組んで頷く。


「局長自らの来訪は異例です。

確証がない段階で動くのは……

相当な違和感を覚えた証拠でしょう」


「向こうは、まだ“勘づいた”だけだ」


ゼクロアの声は低い。


「だが、勘はいずれ裏付けに変わる」


「帝国中枢でも、南方の魔力反応は議題に上がっています」


ロナンドルトが淡々と続ける。


「現時点では調査強化止まりですが、

長期的に見れば、無視はされません」


「問題は……」


ここで、エドが口を開いた。


「リオルの状態です」


全員の視線が、一斉に集まる。


「現在、魔力は安定しているように見えます。

ですが――抑制は、すでに限界に近い」


「再暴走の可能性は?」


ミリアが問う。


「ゼロではありません」


エドは即答した。


「ただし、完全な制御不能でもない。

今は……最も危うい“移行期”です」


「中途半端な時期、というわけか」


ゼクロアが呟く。


「だからこそ、だ」


ミリアが、はっきりと言った。


「守るための準備をする」


⸻


警備体制の再構築


「警備体制について説明します」


一礼して前に出たのは、リチャードだった。


「屋敷警備を二重化します。

外周は従来通り、

内側――特に医療棟と居住区は常時警戒体制へ」


「人員は?」


「獣人と人間の混成配置です。

偏りは、隙になります」


「空からは?」


「空撃部隊は即応態勢を維持。

ドラゴンの巡回頻度を引き上げます」


ミリアが静かに言った。


「帝国は、ドラゴンを本気で嫌う」


「見せる抑止力です」


リチャードが頷いた。


⸻


リオルの強化・調整計画


「次に、リオルの育成方針です」


エドが資料を置く。


「結論から言います。

抑えるだけでは、もう足りません」


「制御させる、ということだな」


ゼクロアが言う。


「はい。

知識、体力、精神――すべてを底上げします」


エドは指を折る。


「第一に座学。

魔術理論の基礎から教えます」


「本人は、感覚でしか魔力を捉えていない。

理屈を知れば、恐怖は減ります」


「第二に、肉体」


今度はミリアが引き継いだ。


「過度な鍛錬はさせない。

だが、体力は必須よ」


「筋力、持久力、呼吸法」


「呼吸は、魔力制御に直結します」


「剣は?」


「基礎のみ」


ミリアは即答した。


「戦わせるためじゃない。

身体の使い方を覚えさせるため」


「体術も同様です」


エドが補足する。


「魔力を外へ逃がす“器”を作る」


「精神面は?」


ゼクロアが問う。


「信頼関係を軸にします」


ミリアの声が、わずかに柔らいだ。


「ヴォルクルとミノンは、引き続き側につける」


「一人にはしない」


ゼクロアは、強く言った。


⸻


帝国を想定した備え


「帝国が踏み込む可能性は?」


ロナンドルトが問いかける。


「現時点では低い。

だが、消えたわけではありません」


「ならば、最悪を想定する」


ゼクロアは迷わなかった。


「強制調査、あるいは――連行」


一瞬、沈黙が落ちる。


「それは、させません」


リチャードが静かに断言した。


「屋敷内部には、誰一人通しません」


「……あの子は、まだ何も知らない」


エドが言う。


「知らなくていい」


ゼクロアは即答した。


「今はな」


「背負わせるのは、大人の役目よ」


ミリアが頷く。


「全部、私たちでやる」


それ以上の言葉は、必要なかった。


全員が立ち上がり、

それぞれの役割を胸に刻む。


その頃――

リオルは、まだ知らない。


自分を守るために、

これほど周到な準備が、

静かに、確実に進められていることを。


そして――

それが、やがて彼を

“次の段階”へ導くことを。


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