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33話 そばにいる者たち



ヴォルクルは、自分が「変化に気づく側」だとは思っていなかった。


剣を振るうこと。

主を守ること。

それだけが、自分の役目だと信じてきた。


だが――

最近のリオルは、

剣で守れる類の危うさではない。


廊下を歩く足取りは軽い。

息遣いも、乱れてはいない。


それなのに。


背中越しに伝わってくる感覚が、

妙に不安定だった。


(……近くにいないと、落ち着かない)


それがリオルの問題なのか、

それとも自分自身のものなのか。


判断はつかない。


ヴォルクルは、無意識に半歩後ろを歩いていた。


「……ヴォルクル」


呼ばれて、即座に顔を向ける。


「どうした」


「……ちょっと……息が……」


倒れるほどではない。

だが、確実に“いつもと違う”。


ヴォルクルは何も言わず、

自然な動きで距離を詰めた。


触れない。

だが、離れない。


それだけで、

リオルの肩から、余分な力が抜けるのが分かる。


(……やはり、だ)


理由は分からない。

だが、確信はあった。


――一人では、足りない。


「外、行くぞ」


「……うん……」


中庭へ向かう途中、

廊下の向こうから足音が近づいてきた。


「リオル様」


穏やかな声。


振り向くと、

緑色の髪の青年が立っている。


ミノン・セレアーデ。

アルトレス家軍の魔術部隊に所属し、

今はリオル専属として付けられている若者だ。


「体調はいかがですか」


「……大丈夫……だと……思います……」


その答えに、

ミノンはほんの一瞬だけ視線を伏せた。


一瞬。

だが、ヴォルクルは見逃さない。


(……こいつも、気づいているな)


ミノンは魔術師だ。

剣ではなく、感覚で世界を見る。


「……外の方が、楽そうですね」


ミノンはそう言って、窓の向こうを見る。


「中の空気が、少し……重いです」


リオルは、驚いたように目を瞬かせた。


「……ミノンも……?」


「はい」


迷いのない返事。


「理由は分かりません。

 ですが……ここにいると、

 魔力の流れが、少し……」


言葉を切り、首を振る。


「……いえ。まだ、言語化できません」


それでいい、とヴォルクルは思った。


分からなくてもいい。

感じているなら、それで十分だ。


中庭に出ると、風が通る。


リオルの呼吸が、

目に見えて落ち着いていく。


ミノンは、小さく息を吸い、目を細めた。


「……やはり」


「何がだ」


ヴォルクルが問う。


「外では、散っています。

 中では……溜まっている感じがします」


ヴォルクルには理解できない。

だが、否定もしなかった。


「離れるな」


短く、そう言う。


ミノンは即座に頷く。


「はい。

 リオル様から、目を離しません」


三人の間に、

奇妙な静けさが落ちた。


誰も答えを持っていない。

誰も、正解を知らない。


それでも。


守る側は、確実に増えている。


それだけで――

今は、十分だった。


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