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老人に嫁ぐ伯爵令嬢を逃がした従者の末路

作者: 山田 勝

「ケビン、行くのね・・・グスン、グスン」


 俺はケビン、御者をしている。

 今は夜中、お嬢様を売りに行く・・・

 伯爵令嬢であるお嬢様は馬車の中でか細く泣いている。


 馬車は白のチューリップの形だ。如何にも令嬢専用の馬車だ。

 旦那様は借金の保証人になり破産された。

 そして、お嬢様を金貸しに納入しに行くのだ。


「さあ、お嬢様、つきました。降りて下さい」


 俺はドアを開けて手を差し出し降りるのを助けた。


「グスン、グスン・・・ここは・・」


「お嬢様、お逃げ下さい」


 俺はお嬢様と懇意にしていた鍛冶職の見習いの家に案内した。

 お嬢様の屋敷に務めていた職人の見習いだった。

 イケメンだ。


「さあ、お嬢様、逃げて下さい。私が時間を稼ぎます」

「ケビン・・・」


 見習いをたたき起こし。

 俺は路銀を渡し。逃げるように促した。


「ケビンさん。ありがとう・・田舎に帰ります」

「ダメだ。金貸しは人脈をたぐってくる。どこか知らない街に行け」

「「はい」」


 さて、俺はゆっくり金貸しの家に向かった。


「おう、遅かったじゃねえか。旦那様は寝室でお待ちだ。部屋につれていけ」

 金貸しの商会であるが・・・裏組織だ。

 門番も厳つい。


「実は・・・お嬢様は逃げてしまいました」


「「「何!」」」


 裏組織の親分の前に引き出された。

 頬に傷のある60代か?痩せているが眼光が鋭い。


「オメ、道理に合わねえじゃーねえか?」


 親分はベッドの上に足を組んで座っていた。


「オメ、どーするのだ!落とし前をよう」


 俺は何も言えずにブルブル震えていた。


「さては、伯爵令嬢を逃がしたな・・・どこに行ったか吐け!」


「わ・・・わかりません」


「ほお、頭の中をのぞくぞ」



「ギャアアーーーー!」


 魔道師に魔法をかけられ記憶をのぞかれた。激痛が襲う。


「親分、こりゃ、本当に分かりませんね。わざと行き先を知らないようにしたみたいですぜ」


「ゅ、ゆるし、ゅ・・ぐるして下さい」


「ダメだな。命乞いするくらいなら始めからやるな。とりあえず。フクロにしろ」

「「「ヘイ!」」」


 顔が倍になるくらい蹴られ叩かれた。

 数日間、飲まず食わずで倉庫に放っておかれた。


 あ、俺死ぬんだな。女神様が迎えに来たようだ。

 鈴の鳴るような若い女の声が耳に響く。


「これ?こいつね」


 足音が近づき俺に話しかけた。


「あんた、馬鹿?何故、こんな事をするの?令嬢好きなの?」

「・・・女神様?いえ、好きとかそうではなく、お可哀想だと・・」

「バッカじゃない?ブルブル震えて命乞いまでしたって聞いたわ、みっともないざまぁ晒したね」


 女神様がこんな話し方をするはずがない・・


「お嬢様、近づいてはなりません」

「ボム、お父様に言って、これ、欲しいって」


 えっ、ゴロツキを従えている。

 顎を持ち上げられて、見つめられた。

 金髪は肩まで降ろし。碧眼は意思の強さを感じる。白いドレスだ。


「あたしはゾフィよ。フランク一家の1人娘よ」



 それから湯浴みをさせられて、回復術士を呼んでくれた。

 親分の執務室に呼ばれた。


「おう、ゾフィがお前を気に入った。従者をせい。オメー、ゾフィに悪さをしたら分かるよな?」

「はい・・」


 お嬢様は屋敷の離れに住んでいた。

 使用人、メイドに傅かれている。

 母屋には入れない。


 冷遇されているかと思ったがそうではない。

 豪華な贈り物を親分から預かった。


「お嬢様、親分からの贈り物です」

「何故?ケビンに持たせるの?直接もってきて下さらないの?」

「お忙しいようで・・」

「馬鹿!」


 贈り物のヌイグルミでポカポカ殴られた。

 嵐のように暴れまくる。


「グスン、グスン」


 何故、親分は娘を溺愛しているのに、会わないのだろうか?

 お嬢様はいつも癇癪を起している。


 自然と一番新入りの俺がお嬢様の相手をするようになった。


「「「お嬢様!15歳の誕生日おめでとうございます!」」」


 誕生日も親分は来ない。使用人たちで祝う。

 実の娘だろう。


「皆出て行って!」


 家族も会いに来ない。


「ケビン、貴方もよ。出て行きなさい」


「お嬢様、私のことを家具と思って下さい。給仕をする者も必要ですよ」


 しばらく黙った後、お嬢様は。


「座りなさい」


 と言った。


 床に座る。


「違うわよ。席よ!」

「え、はい」


 女心は分からない。分かっても良い事はないってお袋が言っていたな。


「ケビンのご両親は?」

「はい、存命です。靴職人をしております」

「まあ、継がないの?」

「弟が継ぎました・・・」


 俺は話した。腕は俺が上だが、親父からは、『そうじゃない』と弟に工房を譲られ俺は使用人になったいきさつを話した。


「フン、貴方も同じね・・・」

「どういうことですか?」

「ケーキ切り取りなさい!」

「はい」


 それから3年過ぎた。

 俺はお嬢様の身の回りの世話をした。


 ある日、母屋から使いの者が来た。


「お嬢様、大変です。親分が刺されました!」

「何ですって!」


 慌てて母屋に行くと親分が包帯をグルグル巻かれていた。

 周りにお嬢様の兄弟たちがいた。


 もう、形見分けが始まっている。


「ウグ、グハ、ここで宣言する。ゾフィは追放だ!」


 兄弟たちの目から安堵の表情が浮かんでいた。


「では、私は娼館の事業を」

「私は金貸しを」

「俺は裏組織をもらうぜ」


 兄弟達は去った。


「ゾフィよ。すまない。お前が一番オレを愛してくれているのは分かっている・・」

「お父様、話さないで!回復術士!」

「へへ、腸をぐっさり刺されたから助からないんだと・・・話を聞け・・」

「お父様・・」


 オレは裏側の人間だ。お前は貴族の血を引いている。他の兄弟と違って気っ風も良い。頭も回る。

 オレの若い頃、そっくりだ。


「だが、そうじゃねえ。裏組織を抜けろ。堅気と結婚しろ。オレに似ろうとするんじゃねえ。表を歩いて行くのだ」

「お父様・・・グスン、グスン」

「行け。ゾフィよ。家督争いが起きるぜ。財産はクマのヌイグルミの中に口座の符号がある・・商業ギルドに行け・・」

「・・・はい」


 何か、親分も親だと分かった・・・・


「ケビンよ」

「はい!」


「ゾフィについていけ!・・ボケ」

「え、何で・・ですか?」

「オメーはよう、優しいだろう。貴族の娘逃がしただろう・・・ゾフィも守れや」


「親分!」


 3日後、親分は亡くなった。

 葬儀が終わってから、俺たちは屋敷を出された。


 遺言らしい。



「お嬢様、どうしますか?」

「決まっているわ。靴屋をやるのよ。貴方が主人よ」

「俺が・・・主人」


 それから、俺は靴を作った。

 俺のアイデアは右足、左足専用の靴を作るのだ。


 今までの靴は左右の区別がなかった。

 これが飛ぶように売れたがゾフィはお冠だ。


「ちょっと、ケビン、売り上げ少ない」

「えっ、でも、平民の10倍の収入ですが?・・」

「ぜんぜ~ん足りないわ。それに店の名前は何?ゾフィの靴屋?舐めているの?」

「それは・・・お嬢様のお金ですから・・・」



 店の名前を変えられた。

『王都靴流通ギルド、第13支店』だ。


 はい?


「お嬢様、何これ?」


 ツッコミどころが二つある。ここは王都ではない。支店はない。ここが本店だ。


「馬鹿ね。王都と名を出せば王都が本店と思うじゃない?田舎者に王都の靴を買っていると夢を見させてあげているのよ。

 それに第13支店はこれから支店を増やせばいいじゃない?」


「ええー!」


 確かに、これから支店を増やした。

 俺のアイデアの靴を貴婦人が履きそうなデザインにも適用した。

 これが売れに売れた。


「店長、他の靴屋も真似を始めました」

「ハア!何だって、ズルいぞ!」


 慌てているがゾフィはいたって落ち着いている。


「だから、支店攻勢をかけてこの分野の一番を目指したのよ。追随はお見通しよ」

「何をすれば良い?」

「・・・貴方はこのままで良いの。輝いているわ」


 その後、王都靴流通ギルドは左右別々の靴販売で市場を席巻した。

 二番手もあるが遠く及ばない感じだ。


「裏組織と同じよ・・・一強に、二番手は遠く及ばない。市場はこのパターンで落ち着くの。初動が大事なのよ」

「お嬢様・・・俺、分かりました。何故、親父にそうじゃないと言われたのかを・・良い物を作れば売れると思っていました」

「そうよ。システムが大事なの。私たちは靴を売っているのじゃない。システムを管理しているのよ・・ところでケビン」


「はい、お嬢様」

「私はお嬢様ではないわ。ゾフィよ」」

「ゾフィ様」

「貴方、時々、遠い目をしているときがあるわ。あのときの令嬢を思い出しているのかしら・・」


 ケビンは時々遠い目をするときがある。

 きっと、あの令嬢との思い出に浸っているのだろう。




「えっ」

「知りたいの。絶対に怒らないから教えなさい。オーナー命令よ。生涯パートナーになるのだから秘密は無しよ」


「わかりました・・」



 靴職人の夢を諦めた私にとって、従者の仕事は大変でした。いつも怒られていました。

 貴族令嬢と初めてあったのですが・・・


 その時、お嬢様は微笑んでくれたのです。


 それが眩しくて・・・


『クスッ、ケビンと言うのね』

『はい、ケビンと申します』

『大変だけど頑張ってね』

『もちろんです』


 こんなとりとめもない会話が癒やしでした。恋心とは違うかもしれませんね。


「そう・・」


 私はカルマを背負うことにした。




 ☆ゾフィ視点



 他人のために身を投げ出したケビンは貴重だ。

 だから守らなくてはならない。


「ボム、これが伯爵令嬢?」

「へい、あれから8年です」


「ケビンに会わせなさい!ケビンが・・・私を逃がしたおかげでこんな目に遭ったのよ!私は後妻でも良かったわ」


 支店に現れた。

 話を聞くと、一緒に逃げた鍛冶職とは遊びだったらしい。


 あれから8年だが前歯が欠けて髪はボサボサ。

 しかし、貴族特有の嫌な血が見えている。

 特段美人ではない。


「私はケビンの主人よ。さあ、会わせなさい」

「会ってどうするの?」


「私がこの商会の主人になってあげるわ。貴族の血があるわ。政略結婚をして商会を大きくしてあげるわ」


 私の母もそうだった。お金のためにお父様と後妻として結婚して、終始お父様を見下していた・・・


「ねえ。貴女、ケビンのことをどう思っているの?ケビンに微笑んだと聞いたけども」


「はあ?ハハハー、ケビンに恋なんてしないわ。いつも怒られて惨めで安心したのよ。あんな奴がいるから、私はまだまだ大丈夫だってね」


「そう・・」


 実際は、この令嬢は令嬢教育そっちのけで遊び歩いていたらしい。カードゲーム場にも出入りしていたと聞いたわ。



「ボム、こいつ、ケビンと同じ目に遭わせて」

「はい、お嬢様」


 拷問をしてもらった・・・


「ヒィ、何で・・」

「何でって、元々貴方が受ける苦痛をケビンが肩代わりしたのよ]



 その後、牢に監禁した。旦那様の目の前に現れても厄介だ。



 ・・・・・・



 わざとケビンが遠い目をしているときに、私は求婚した。


「旦那様、指輪よ」

「えっ!」


「選択肢はないわ。私達が夫婦になるのが最もしっくりくるの」

「お嬢様はいいのですか?」

「くどいわ」


 しばらく考えて。ケビンは返事をした。


「ハイ!ふつつか者ですがよろしくお願いします。ゾフィ様」

「様はいらないわ。自分の妻に様をつけるなんて間抜けよ。さあ、言いなさい」


「ゾフィ、愛しています」

「はい、私の旦那様」


 私は彼の胸に飛び込んだ。生涯この秘密は胸にしまっていこうと誓う。

彼のためならばどのような業も受けるつもりだ。




最後までお読み頂き有難うございました。

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