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第55話:グリンデルの決戦ー3

 ソーが割り込む。

朧を纏い、姿も気配も薄くしながら、ワーズの視界の外へ滑り込む。


そして、贄喰い大剣の握りへ――朧斬。


狙いが一点に集中する。


「――朧斬!!」


ソーの一閃が、贄喰いを削る。


黒い大剣の表面が、次元ごと剥がれた。喰らう剣が、逆に喰われたように、輪郭を失う。


ワーズが一瞬だけ怒りで硬直する。


「……貴様」


その一瞬。

それが、隙。


俺はソーへ視線だけで合図を送る。

ソーは瞬時に理解した。


ワーズは我を失ったように声を荒げた。


「貴様らァァァァ!!」


贄喰いが、唸る。

剣そのものが怒りを持っているみたいに、空気を裂いて突進してくる。


ワーズがブチギレた。

その瞬間だけは、攻撃が雑になる。

威力は上がる。だが、読みやすい。


俺はムラマサの柄を、ソーへ差し出した。


「――戻るぞ」


「了解」


ソーがムラマサに触れた。

これで二人とも、巻き戻しの記憶を保持できる。


「ーーー戻れ!!」


俺とソーは同時にムラマサを握りしめた。


世界が、再び巻き戻る。

五秒戻る。ムラマサに触れている者は記憶を保持したまま。


さっき見た光景が、同じ順番で並び直される。

だが俺たちは違う。次に何が起こるか知っている。


ワーズの怒りが爆発する直前。

その一瞬の手前で――


「――朧斬!!」


ソーが、もう一度朧斬を叩き込む。


一回目で削った輪郭以上に、深く踏み込み、二回目はさらに深く切り込む。


贄喰いが、真ん中から裂ける。


黒い大剣が、断末魔みたいな音を立てて崩れる。

ワーズの顔から表情が消える。


「……ッ!?」


ワーズの表情が、ぐちゃぐちゃに歪んだ。

礼儀正しい仮面が割れて、魔族本来の顔だ。


「貴様らァァァァ!!」


――ブチギレた。


そして、その瞬間こそが、俺たちの狙いだった。


「ソー!」


「分かってる!」


ソーが自身を朧化。

ワーズの視界の外を作り、攻撃の焦点をずらす。


俺は黒龍の翼を最大噴射。


ゴウッ――!!


推進の爆音で、床が抉れ、空気が燃える。

俺の身体が弾丸みたいにワーズへ突っ込む。


ワーズは自分に変えた物質で槍を作る。

壁から生える。床から生える。天井から落ちる。


だが、そんなものでは黒龍の推進力を捉えるのは不可能。


クリスタルワイバーンの手甲が光り、魔法防壁が展開され、推進力の衝撃を防ぐ。


ワーズは空中で、瓦礫を自分に変えて黒龍の推進力を止めようとする、流石の判断だ。


だがそんなものでは止まらない、止まれない。


「人間ごときが――!」


ワーズの怒りが、魔力の嵐になる。

城の屋根が軋み、空が割れるように震える。


俺はそれごと押し切る。

黒龍ジェットで、高く、高く、空へ、空へ。


――城の天井が、砕けた。


石と鉄と木が吹き上がり、夜空へ散る。

俺とワーズは、そのまま外へ射出された。


王都の上空。

冷たい風。星明かり。

落下する瓦礫の雨。


「……ぐ。虫けらごときが……」


ワーズが空中で姿勢を立て直そうとする。

礼儀正しい笑みが戻りかける。だが怒りがまだ目の奥で燃えている。


俺は空気をいっぱいいっぱい吸いこむ。


いるんだろ、見てるんだろ、お前は強くなるんだもんな。


そして俺は、叫んだ。


「ジーーーーーク!!!!!!」


信頼した仲間の方向から朝が迫ってくる。


ただの炎じゃない。

槍みたいに細い。

細いのに、太陽のように熱い。


極限圧縮されたヒナワの火炎が、夜空を一直線に裂く。

星明かりが押しのけられ、空が白くなる。


ワーズの胸を――貫いた。


ドンッ、と遅れて衝撃が来る。

空気が震え、王都の屋根が一斉に鳴った。


瞬間、夜が戻る。


ワーズの身体は崩れない。

肉も骨も、形を保ったまま。


だが、彼の目の奥から灯が抜けていく。


「……なるほど」


燃えているのに、声は丁寧だった。

最後まで礼儀を崩さないまま、彼は笑った。


「貴様……あの方と…同じか」


――ワーズがあの方と形容する者。

上位貴族か、あるいはもっと上の“なにか”か。


言い終えた瞬間、魂が消えた。


肉体は、保ったまま。

でもそこには、もう“ワーズ”はいない。


落下する。

俺は黒龍の翼で姿勢を制御し、城の外壁へ着地した。


衝撃で石が割れ、粉が舞う。

それでも、身体はまだ動く。神王獣ラナの武装が支えている。


遅れてソーが飛び出してくる。

オボロを納めながら、苦笑いした。


「……相変わらず派手だね」


「相変わらず派手だろ」


俺は息を吐く。

疲労で肺の奥が焼けている。

ムラマサの柄が、やけに重い。


――勝った。


ワーズは、死亡。

それが、この戦いの勝利だった。


胸元のネックレスが、微かに温かい。


『……相棒。ちょっとカッコよかった』


「俺ってやつは実はカッコイイんだよ…」


『今だけね!』


夜空に、静寂が戻ってくる。

だけど俺は知っている。


ワーズが最後に残した“あの方”。

それはきっと、次の地獄の可能性だ。


そして――

ムラマサは、時を戻せる。

けれど、戻せないものもある。


俺は、折れた贄喰いの残滓を見下ろして、歯を食いしばった。


「……次は、もっと上等な地獄かよ」


ソーが隣で笑う。


「強くならないと、だね」


「そうだな」


夜が静かに戻った……はずだった。

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