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第50話:グリンデル王都ー1

中は――

地獄だった。


家屋に埋め込まれた遺体。

勢いよく叩きつけられ、弾けた肉塊。


人の頭部と胴体と手足が、

不自然に繋ぎ合わされ、木々に括り付けられている。


悪ソーが、吐き捨てる。


「……クソ胸糞悪ぃ……。クソが……」


レイズは笑いもせず、拳を握り潰しそうに言った。


「許さねぇ」


ミストは静かに周囲を見て、声を落とす。


「恐怖を植え付け、抵抗する意志を折り、なおかつ愉しんでいる。

――“感情”を戦場にしている」


ソーが、深く息を吸う。

そして吐く。


「……くそ、まともな判断ができているのか。

僕らがここで取り乱せば、ワーズの思う壺だ。

だから、行動を――」


そこでシンが、遮るように言った。


「待て。焦るな。落ち着け」


「落ち着いていられるか!!」


俺の声が、思った以上に荒れた。

胸の奥で、怒りが熱を持って暴れている。

俺の怒りだけじゃない。ラナの怒りも混ざってる。


シンは俺を見て、怒鳴り返さない。

海の男の“器のデカさ”ってやつだ。波を見てきた奴の、言葉の重さ。


「落ち着け。落ち着くってのは“冷めろ”って意味じゃあねぇ。

怒りを握れ。操るんだ。舵を握るみたいにな」


シンは、足元の石畳を軽く蹴った。


「いいか、この王都の“物質”全部が、ワーズの可能性があるんだ。

石、木、旗、門、瓦礫、剣、死体、影――

あいつは“姿を変える”だけじゃない。

“そこにいる”こと自体を別の形に偽装する」


一同が息を呑む。


ミストが唇を噛んだ。


「……では一体、どうすれば……」


シンは即答しない。

一秒、二秒、波を読むみたいに間を置いて、言った。


「この人数でまとまって動くのは危険だ。

気を配る相手が増えるほど、死角が増える。

――だから、作戦通り。三手に別れる」


レイズが頷く。いつもの軽薄さは消え、戦場の声になる。


「戦闘隊二つ。

それと、ジークの援護射撃とその護衛――外周の押さえだな」


俺は腰のムラマサを確かめ、頷く。


「ワーズは――俺とソーで追う」


レイズが牙を見せ笑った。


「いいね。

じゃあ残りの魔族二体は――俺とミストで叩く」


ミストが「当然」と言うように顎を上げる。


「逃走も許さない。

“魔族が何を残したか”も確認しながら進む。情報は武器だ」


シンが、ジークの肩を叩いた。


「俺とジークは外。

狙撃と退路封鎖。もし魔族の援軍が来たら引き受ける。

……怖いか、王子」


ジークは青い顔で、それでも必死に頷いた。


「こ、怖いです。

でも……っ、俺、ここで逃げたら一生、自分を許せない気がします。

ヒナワは、こういう時のために……」


ジークの指が震えている。

それでも銃身を握る手は、離さない。


(相棒、あの子……)

(分かってる。こいつは、“弱くなんかない”)


ラナの声が、少し柔らかくなる。


(いいね。……好きだよ、ああいうの)


「……よし」


俺は拳を差し出した。


レイズが、ミストが、ソーが、シンが――

それぞれのやり方で、拳を重ねる。


「死ぬなよ」


レイズが言う。軽口じゃない。


「死なないよ」


ソーが言う。誓いみたいに。


「死なせない」


ミストが言う。暗示みたいに。


「死ぬわけねぇだろ」


シンが言う。海の男の断言。


ジークが、声を絞り出す。


「……死にません。絶対に」


拳が離れた瞬間――

全員の背中に、同じものが乗った。


怒り。覚悟。責任。



---


城へ向かう四人


俺とソー、レイズとミスト。

四人は互いの距離を取りながら、同じ速度で進む。

“仲間を守るために近づく”んじゃなく、仲間の異変にいち早く気づける距離感。


ラナが、俺の首元で小さく言う。


(ねえ、相棒。

あいつ……ヤバかった。

ワーズに勝てるかな)


「勝つ」


俺は即答した。


「勝たなきゃ世界が終わる。」


ソーが横目で俺を見る。

“善ソー”の目だ。静かに熱い。


「……うん。

僕もそう思うよ。

怒りで剣を振るうんじゃない。剣で怒りを操るんだ」


ミストが、前を見たまま言った。


「そろそろ城前だ。

――気を引き締め直す。ここから先、どんな光景でも足を止めるな」


レイズが低く返す。


「分かってる。

大将……もしお前が、止まりそうになったら、俺が蹴ってやる」


ミストが一瞬だけ口元を上げる。


「私も蹴る」


「二人がかりはやめろ」


それでも、その短いやり取りが、少しだけ呼吸を戻した。



---


城門の前。


そこに影が座している。

座っていたのは――

魔族だった。


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