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第5話:神速の銀姫

オルドが地味に好きです。

では5話どうぞ。

 王城の大扉が、ゆっくりと開いた。


 中から溢れ出すのは、柔らかな光と、深い静寂。

ウルシア王国の象徴――黄金色の敷物が奥へと一本道を作り、その果てに、王座があった。


天井は高く、巨大なステンドグラスから差し込む陽光が、広間に色を落としている。

まるで、ここだけ別の世界――そんな感覚。


「雑用係……いや、功労者よ。前へ」


案内役の騎士に促され、俺はゆっくりと前に進む。

膝が勝手に緊張する。

場違い過ぎて、吐き気がしそうだ。


王座の手前、ひときわ重い視線が降りてきた。


玉座に座るのは、ウルシア王国国王――エルムンド・ウルシア三世。


長い金髪と深い青の瞳。

鋼鉄の意思と、王としての気高さを併せ持つ、まさに“王”と呼ぶにふさわしい男。


「ミリアにて起こった暴走――お前が現地でよく働いてくれたこと、聞き及んでいる」


「もったいないお言葉です。」

作法は知らないけどそれっぽくやってみた。


「かまわん。事実だ。

 そなたがいたからこそ、聖剣ラナは回収され、ミリアは滅ばずに済んだ」


国王は軽く頷き、後ろに控える騎士に目配せをする。


すると――

パラディン二名が、重く厳かに木箱を運び入れた。


封蝋を護っていた鎖が静かにほどかれる。


そして――蓋が開く。


中には一本の剣。


白銀と蒼光をまとう、絶対なる存在――聖剣ラナ。


暴走で血を吸ったとは思えないほど、清浄だった。

ただそこにあるだけで、広間の空気が緊張し、肌が変な粟立つ。


「……これが、聖剣ラナ」


王は静かに息を吸い、立ち上がる。

その瞳に宿るのは、畏敬と恐怖の両方。


「ウルシア王国は、この剣を再び守り抜く。

 だがその前に――“選ばれし者”を定めねばならぬ」


王の声が王城中に響き渡る。


「聖剣ラナ適合者――勇者を選ぶ剣術大会を開催する」


その瞬間、広間の空気が揺れた。


騎士も文官も息を呑み、

冒険者ギルドの代表も拳を握る。


「あれだけの力を持つ剣だ……

 野に放てば災厄、手にすれば希望。

 ゆえに、真に選ばれし者を探さねばならぬ」


王は振り返り、俺をまっすぐに見た。


「そなたは、重要人としての観戦の資格を与える。

 ミリアの生き残りとして、あの惨劇を知る者として、見届けるがよい」


……見届ける。


“勇者が選ばれる瞬間を。”


胸がざわついた。


あの暴走を思い出させるかのように聖剣ラナがふっと淡い光を放つ。

王は少し後ろへ下がった。


――俺の指のリングが、微かに震えた。


(やめろ……今ここで反応しないでくれ)


クリスタルワイバーンの指輪と、アークサーペントの指輪。

服の下で震えながらも、武装化には至らない。


見つかっていない。大丈夫だ。


王は再び玉座へ戻り、宣言した。


「――三日後、聖剣ラナ適合者選抜大会を執り行う!!」



---


■大会前の準備


王命が広がると同時に、王都はすぐざわつき始めた。


城下町は旗と布で飾り付けられ、あらゆる酒場で冒険者たちが騒ぎ始めた。


「まじでやるのか!? 聖剣ラナの持ち主決め!」


「Aランク冒険者以上と、ナイト以上だけだろ?

 事実上の王国最強決定戦じゃねえか!」


「でもさ……聖剣ラナって、選ばれなきゃ操られるんだろ?

 参加するやつ正気かよ」


「名誉のためなら死ぬ奴はいるさ。

 特に王都には“バカほど強い奴”が多いしな」


俺はギルドに帰る途中、その噂話を遠巻きに聞きながら歩いていた。


そんな中――


「よぉ、雑用冒険者!!」


背後から聞き慣れた陽気な声。


振り返ると、そこにはオルドがいた。


赤いマントを翻し、手の中には串焼きを二本。


「はいよ。お前の分」


「……え?どうも」


「よそよそしくねぇ?。

 しかしすげぇな、お前。謁見で緊張死するかと思ってたのに案外落ち着いてるじゃねぇか」


「死にそうだったけどな……」


「ははは!

 まぁ、あの王様の前で気絶しなかっただけで十分だ」


オルドは串焼きを噛みながら、続ける。


「でよ。

 大会まで三日。

 そのあとにすぐ“魔剣オボロ回収任務”の話が来るはずだ」


「……本当に行くのか?」


「行くさ。

 聖剣ラナの持ち主が決まったら、次は魔剣の回収。

 千年前の封魔戦争の武具を全部揃えるまでは、王国は止まらねぇよ」


オルドの声は軽いのに、その言葉には重さがあった。


「でもな、雑用」


「ん?」


「魔剣オボロ回収任務には――お前も呼ばれるだろ」


「……なんでだよ」


「決まってんだろ。

 “ミリアで神獣二体の死骸のそばで生き残った異例の新人”って、今王都で話題沸騰なんだよ」


「俺は何もしてねぇよ……!」


「ふっ……そう思うのはお前だけだ。

 “英雄の片鱗”ってやつは、本人が一番気づかねぇもんだ」


オルドは串を放り捨て、軽く笑った。


「だからお前は、俺の期待を裏切るなよ。

 雑用」


言い方は軽いが――

その目だけは、どこまでも真剣だった。



---


■選抜大会当日


王都の大闘技場は、すでに満員だった。


軍の要職者、冒険者ギルドの幹部、各地から招致された観客たち。


太鼓が鳴り響き、観客席の熱気が揺らめく。


俺も特別席に案内されていた。

ミリアの功労者として、王命での観戦。


隣にはオルド、リュグナ、女パラディンが座っている。


「緊張してきたなぁ……」


「お前が緊張してどうする」


「こういうのは見てる側の方が胃が痛ぇんだよ」


そんな軽口を交わしていると――


王の声が響く。


「――今より、聖剣ラナ適合者選抜大会を開始する!!」


大歓声。


そして――

砂煙の中から次々と現れる強者たち。


Aランク冒険者。


パラディン。


ナイト。


Sランク候補者。


ウルシア王国の“本物”が集う。


オルドが小さく口笛を吹いた。


「こりゃ壮観だな……

 だが、誰が勝つかは――すでに決まってるんじゃねーかな?」


「……どういう意味だ?」


「ほら、本命様のご登場だ」


オルドの視線の先――


砂塵の中央に、一人の青年が歩み出る。


金色に所々黒が混じった髪。

冷たい藍色瞳。

腰には曲刀のような不思議な剣。


その風格は、“英雄候補”というより“生まれながらの天才”のそれ。


ウルシア王国第四王子――ソー・ウルシア。


「ソー殿下……まさか参加されるとは」


リュグナが息を呑む。


「殿下は狂戦士の素質を持つ。

 王家でも特に“器”が違うと噂されている」


だが――オルドは違う反応をした。


「……、めんどくせぇやつが出てこねぇといいなぁ」


「めんどくさい?」


「あぁ、王都じゃ有名だ。

 “人格が二つある王子”ってな」


「は?」


オルドは、ひゅっと指で頭を指した。


「普段は礼儀正しくて優しい“善人”。

 だが時々、もう一つの人格――“悪”が表に出る。

 しかもそっちのほうはバカ強ぇ」


心の底がざわついた。


(……そんなやつが、聖剣ラナを?)


闘技場の空気が、一気に引き締まる。


観客席のざわめきが波のように広がる中、

王子ソーが中央に歩み出る。


だが――

その少し後ろから、細い影がもう一つ現れた。


「ん……? あれは誰だ?」


オルドが身を乗り出す。


砂煙の向こうに、白銀の髪が揺れた。


肩につくほどの柔らかな髪。

観客席から遠目でも分かるほど白い肌。

腰に下げた細身の剣。


年は十六、いや十七……

見た目はどう見ても――ただの少女。


だが、その目だけは違った。


底の見えない静けさ。

剣先の揺らぎ一つで相手の全てを見抜くような、研ぎ澄まされた光。


「……あの子、誰だ?」


俺が思わず呟くと、隣のパラディンが口を開いた。


「つい最近Aランク冒険者になった、ラナ。  若くして数々の危険任務を達成した天才剣士です」


「ラナ……?」


その名前に、俺の胸が僅かに鳴った。


偶然か……

いや、剣の名と同じ“ラナ”を名乗る少女。


ソー王子の隣に立つ姿も、不思議と釣り合って見える。


ザッ……と砂が鳴る。


王子ソーが、観客席に向かって薄く微笑んだ。


「皆の者。

 世界を救うため、聖剣に選ばれるため、ここに集まった参加者に拍手を」


その声は澄み切っていて、涼しく通る。

――善の人格だ。


会場全体から拍手と喝采が湧いた。


だがその熱の中で、一人だけ動かない少女がいた。


ラナ。


彼女は剣に手をかけたまま、まっすぐ前を見ている。 ソー王子など目に入らないかのように。


「……あれ、王子が隣にいるのに、気にも留めてないぞ」


「聖剣に選ばれるのが自分だと信じて疑ってねぇ目だ」


オルドがにやつく。


「悪くねぇ。強ぇ奴ってのは大体意思も強ぇ  しかもだ――」


オルドは声を潜めた。


「あいつだなぁ?、最近噂になってる最速でAランクになった、剣の神に愛された剣士ってのは」


「そんなに強いのか?」


「ありゃ強ぇな。

 ってか……Sランクになるのも間近だって噂もある」


一瞬、胸がざわつく。


(ラナ……)


その存在感は、ただそこに立っているだけで異様だった。


華奢な体格。

派手な装備も、威圧的な気配もない。


なのに――

闘技場にいる全員の視線が、気づけば彼女に吸い寄せられている。


「……始め!」


審判の声と同時に試合が開始された。



---


■第一試合:ソー vs ナイト


善人格のソー王子が穏やかに礼をして構える。


相手のナイトが前に出ると――


次の瞬間。


ゴッ。


鈍い音が響き、ナイトが吹き飛んだ。


観客席がざわめく。


「なっ……」


「早すぎる……!」


俺も目で追えなかった。


「出たな、ソーの本領」


オルドが肩をすくめる。


「善人のくせに身体能力と剣の精密さだけは化け物級。

 騎士団の中でもトップクラスだ」


だがやはり――その目は優しい。


戦いの中でも殺気を一切出さず、相手が倒れた瞬間、すぐに駆け寄って介抱した。


「……いい人すぎないか?」


「だから別人格の悪意の野郎が一際悪く見える」


オルドの言葉に、納得半分、疑問半分。


ソー王子は観客から喝采を受け、次の試合へ進む。



---


■一方、ラナは……


ラナは第一試合から全く動かない。

ただ目を閉じ、呼吸を整えているだけ。


「緊張してるのか?」


「……いや、違うな」


オルドの顔から笑みが消える。


「“相手を見てる”んだよ。

 闘技場の全員を、一人ひとり“敵”として観察してやがる」


空気が、静かに震えた。


そして……



---


■第一試合:ラナ vs Aランク冒険者


闘技場に立つ対戦相手は、巨漢の戦斧使い。

筋肉の塊みたいな男だ。


審判の合図。


ドンッ!!!


戦斧が地面に突き刺さる。


砂が舞う。


観客が何が起こったか分からず騒ぐ中――


「……え?」


巨漢がゆっくりと倒れる。


胸元の鎧には、綺麗すぎる突き跡が一つ。


ラナは、剣を納めていた。


斬撃すら見えなかった。


「お、おい……」


「なんだあの速さ……?」


「ラナ……やっぱり別格だな」


オルドですら目を丸くしている。


「なぁ雑用……お前、見えたか?」


「……いや、剣を抜いた瞬間しか」


「だろうな。

 ま、オレは余裕で見えたけどな?」


多分見えなかったのだろう。


ラナは無表情のまま静かに歩き返る。

そこには勝利の喜びも、威圧もない。


ただ――剣の完成だけがあった。



■準決勝(ソー vs Sランク冒険者に最も近い男)


ソーは順当に勝ち上がる。


だが準決勝から、ほんの少し雰囲気が変わった。


「ハハ……クソいいねぇ……」


笑いながら敵に詰め寄る姿。

優しく介抱していた姿とは違う。


「悪人格が……出てきてんな」


オルドの声が低くなる。


ソーは笑いながら勝ち進み――

そして、決勝へ進んだ。



---


■準決勝(ラナ vs パラディン)


対するラナ。


パラディンの男が剣を構えるや否や――


「はっ!!」


渾身の突き。


その剣先がラナに届く前に――


スッ


ラナの身体が重力を無視したように滑り、男の懐へ潜り込む。


次の瞬間。


ザクッ!!!


男の剣が、空を切って落ちる。

ラナの剣が、男の喉元に止まっていた。


「しゅ、瞬間移動か!?」


「いや、違う……軸がブレてない。

 動きの“先”を読んで、最短で踏み込んでる」

リュグナには見えていたみたいだ。


観客が絶句する中、彼女だけが静かだった。


ラナ、決勝進出。



---


■決勝戦:ソー vs ラナ


そして、ついに来る。


王都中が固唾を飲んで待つ“最強決定戦”。


ソー王子が、ニッと笑う。


「お会いできて光栄です、神速の銀姫、君とは一度、戦ってみたかった」


ラナが小さく頷く。


「……あなたは強い。

 でも、私は――負けない」


闘技場が一瞬で静まり返る。


「……なぁ雑用」


オルドが呟いた。


「どっちが勝つと思う?」


「……分からない」


「俺もだ」


審判が目を上げる。


「――始め!!」


風が、止んだように感じた。


二人が同時に地を蹴る。


真っ直ぐに、迷いのない線で――衝突した。


銀光と青光が交差する。


一瞬。

ほんの一瞬だけ。


ソー王子の目に――“悪意の人格”が浮かんだ。


「ははっ! クソいいねぇ……!」


だが――その瞬間。


ラナの剣がソーの懐に潜り込み、喉元へ届いた。


完全な勝利。


観客の息が止まる。


ラナの剣先が、ソーの皮膚に触れるギリギリで停止している。


……勝敗は決した。


「勝者――ラナ!!!」



---


■勇者誕生


観客席から、轟くような歓声。


王城の高台から、王が立ち上がった。


「Aランク冒険者、ラナよ……!」


王の声が闘技場を揺らす。


「そなたこそ、聖剣ラナに触れる資格を持つ者だ!」


ラナがゆっくりと歩み出る。


聖剣ラナが、台の上に捧げられた。


指輪の下で、俺の心臓が跳ねる。


(ラナ……大丈夫か?

 あれは、人の心を喰う剣だぞ……)


会場中が固唾を飲む。


ラナは吸い込まれるように剣へ手を伸ばし――

柄に触れた。


その瞬間――


蒼光が舞い、風が吹き荒れた。


どこまでも清らかで、どこまでも優しい光。


暴走とは全く違う――

剣が、彼女を“受け入れた”。


「……選ばれた」


俺が呟いた。


オルドも、パラディンも、観客も、皆が息を呑む。


王が高らかに宣言した。


「――新たなる勇者、ラナ!!」


観客が総立ちになり、闘技場の天井が割れるほどの歓声が上がる。


「ラナ! ラナ! ラナ!!」


完全に“勇者誕生”の空気だった。


……だが、俺だけは違った。


胸が、ずっとざらざらしている。


(あの剣……また暴走したら……?

 俺は……また誰かが消えるのを見ないといけないのか?)


歓声に包まれる闘技場の真ん中で、ラナは笑っていた。

誇りでもなく傲慢でもない。


ただ――

自分に選ばれた“重さ”を、全身で受け止めようとしている笑顔だった。


その姿勢は確かに強かったが、俺の胸はなぜか苦しかった。



◆大会の余韻――俺はひとり、酒場へ逃げた


「昼間から飲むのも……悪くねぇな」


ギルド近くの酒場は大会の熱気そのままに、騒がしかった。


冒険者たちが酒を煽り、ソー殿下の圧倒的実力や、決勝での死闘を語り合い、

そして最後は――みんなラナの話になった。


「すげぇよな、あの子! あんな小柄なのに!」


「パラディンを倒すAランク冒険者がいるなんて……天才っているんだな」


「しかも聖剣ラナに選ばれるってよ!」


俺はその空気が息苦しくて、グラスを握る手に力が入りすぎた。


(俺は……あの剣を、近くで見たことがある。

 暴走した“地獄”も、生で見た。

 ラナは……ほんとに、大丈夫なのか?)


正直に言えば、恐怖していた。


聖剣ラナの力。

選ばれし者。

勇者という肩書き。


全部が全部、俺とは無縁の“別世界”の話だ。


なのに、俺だけが――あの地獄の真相を知っている。


……だからだろう。


背後に、誰かの気配を感じた。


トン、と誰かが俺の隣の席に座る。


銀髪が視界に入った瞬間、酒が変なところに入った。


「げほっ……!?」


「大丈夫? 水いる?」


澄んだ声。

軽やかで、少しだけ心配してるようで、でも堂々とした声。


振り向くと――

そこに、少女ラナがいた。


闘技場で見た時よりずっと素朴で、ちょっとだけ子供っぽい服装。

歳相応の愛嬌があって、でも瞳の奥は強く澄んでいる。


「……ラナ、さん?」


「うん。聖剣所持者のラナ。Aランク冒険者のラナ。

 まあ、好きな方で呼んでいいよ」


にっこりと笑う。


……なんでここに?


「なんで……俺のところに?」


ラナはストレートに言った。


「大会のとき、ひとりだけ“怯えてる”顔してたから」


「……っ」


ズキン、と胸の奥が刺された。


「みんなは盛り上がってるのに、あなたは……とても辛そうな顔をしてた。

 それが気になって、つい追いかけてきちゃった」


「追いかけて……」


「……あのさ」


ラナは席に片肘を乗せ、俺の顔をじっと覗き込む。


「ミリアでの聖剣ラナの暴走……すぐ近くで見てたの、あなたでしょ?」


「……勇者様の耳にも届いたか」


「勇者様なんてやめて」


「ねぇ。話、聞かせて?」


言い方は優しいのに、目は引かない。

朗らかな雰囲気の奥に、戦士の集中力みたいなものが宿っている。


闘技場で戦っていた時の“真剣な瞳”が一瞬フラッシュバックした。


……この子、強い。


見た目は十代の女の子。 笑い方も普通。


でも根っこは、鋼みたいに折れない。


俺は観念して、少しずつ話し始めた。


・聖剣ラナの暴走を見たこと

・ミリアの神獣二体の惨状

・誰も止められなかったこと

・護衛三人が死んだこと


俺の声は震えていた。


話しながら思った。

俺はまだ――仲間を失った恐怖を引きずっている。


ラナは静かに聞いていた。


口を挟まず、ただ真剣に。


話し終えると、ラナは小さく息を吐く。


「……ありがとう。話してくれて」


俺が答える前に、ラナはグラスをトントン、と指で叩いた。


「正直に言うね。

 ――私も、怖いよ」


「え……?」


あんなに堂々と剣を振るっていたのに?


「“選ばれた”ってことは、使えるってことじゃない。

 私がこの力を制御できなきゃ、ミリアで起きたことと同じことが、また起きる」


言葉の端がわずかに震えていた。

その震えを隠すように、ラナは少しだけ笑った。


「……でもね。怖いからこそ、私はやるんだよ」


その笑顔は強かった。


「だって、選ばれたんだもん。

 だったら、やるしかないでしょ?」


軽いのに、芯がある。

お転婆で、強者の気質がある。

でも笑うと一気に愛嬌が溢れる。


このバランスが――

“少女ラナ”という存在そのものだった。


「あなた、名前は?」


「あ……雑用係とか、そんなんでいいよ」


そう告げると、ラナは何も聞かずに、ニコッと笑った。


「じゃあ! これからよろしくね!」


いきなり手を差し出してくる。


勢いに押され、俺はその手を握った。


その瞬間――


聖剣ラナが、ラナの背後でかすかに光った。


まるで、俺のことを覚えているかのように。


(……俺はまた、面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない)


でも――

ラナの笑顔を見ていたら、不思議と悪い気はしなかった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


ついに「勇者ラナ」が誕生しました。

ただし、これで物語が一段落――というわけではありません。


主人公はまだ名もなき存在のまま。

しかし、聖剣も勇者も、そして彼自身の力も、

少しずつ同じ舞台に引き寄せられていきます。


次回からは、勇者と主人公の距離が少しずつ変わっていく予定です。

よければ、引き続きお付き合いください。

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