第42話:それぞれの英雄譚ー5
出発の日。
ウルシア王都の外れ、竜のために作られた巨大な円形広場に、飛竜が四頭並んでいた。
「……でかい」
ジークが口をあんぐり開ける。
「これ、落ちたら死にますよね」
「落ちないようにしてください」
カリナが淡々と言う。
彼女は今回は留守番だ。
鎧を着込み、街を見守る位置に立つ。
「カリナ」
レイズが近づいてきて、いつもの調子でニヤリと笑った。
「今日も一段と美しいなカリナ。
オレが生きて帰ってきたら、俺の女になって――」
ドスッ。
言い切る前に隣から伸びてきたミストの手刀が、レイズの後頭部に綺麗に決まった。
「出発前に約束事は不謹慎よ」
この世界にも死亡フラグの概念はあるのか。
「……無事に帰ってきたら、考えます」
「おう、待ってろ」
驚いて、子供のように喜ぶと思ったが落ち着いていた。
この戦いに対するレイズの気持ちが表れていた。
少し離れたところでは、ルーナとレーオが弓の弦を確かめていた。
「風向きは良好。
グリンデルまで、このままなら追い風が続きそうです」
「いいね〜。空の旅、楽しみ」
「遠足気分はやめなさい、レーオ」
「でも、ちょっとワクワクしてるでしょ?」
「……あまり森から出ないから、ね」
無表情だったルーナの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
シンは飛竜の足元で、海の話をジークにしていた。
「砂漠の国バル=ゼファルにも、でっけぇ湖があってな。
そこ、魔物だらけなんだけど魚も美味くてよ」
「行ってみたいです! ……生きて帰れたら!」
「帰ってきたら、一緒に行こうぜ。兄弟」
「兄弟!?」
ジークが真っ赤になる。
俺は俺で、なんかむず痒い気分になっていた。
「……気をつけて」
カリナが、最後に俺たちのところへ歩いてきた。
「グリンデルは、多種族が共に暮らす国。
あの国が魔族の実験場みたいな場所にされるのは、正直耐えられない」
「ああ」
「だから、頼みますよ、大将」
カリナが珍しく、オレに笑顔を向ける。
(任せて。カリナさん)
ラナが胸元で笑った。
(竜騎士もいるし、ソーもいる。
それに、“海神”と“聖樹の守り人”もいるんだよ?
負ける方が難しくない?)
「フラグ立てんのやめろ」
俺は苦笑しながら飛竜の鞍にまたがった。
ソーは二本の剣を確かめ、ジークはヒナワを抱きかかえ、レイズとミストは手綱を握る。
シン、ルーナ、レーオもそれぞれの竜に跨がった。
「――行くぞ!」
レイズの号令と共に、四頭の飛竜が一斉に翼を広げる。
地面が遠ざかり、ウルシア王都がミニチュアみたいに小さくなっていく。
風が顔を打ち、目の前に広がるのは、グリンデルへと続く広大な大地。
「相棒」
ラナの声が、風の音に混じって響いた。
(行こう。
国を取り戻しに)
「ああ」
俺は前を向いた。
飛竜たちは雲を突き抜け、グリンデル王国の国境へ向かって――
まっすぐに、飛んでいった。




