第41話:それぞれの英雄譚ー4
「はい!
ずっと報告書読んでました、幼少の頃読んだ英雄譚のように心が躍るんです。雑用係から始まって、神獣を武装化して、聖剣と魔剣を持つ勇者と肩を並べて……
そんな英雄譚の主人公みたいな人生、すごくかっこいいです!!」
「やめろ、あんま褒められ慣れてない」
顔が熱くなるのを感じながら、頭を掻く。
「俺はただ、死にたくなくて必死なだけだ。
お前はお前のやり方で強くなればいい」
「はいっ!」
ジークは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔に、妙な眩しさを感じる。
(……相棒、後輩できたね)
(後輩ではないだろ)
ギリーエが軽く咳払いをした。
「さて。
他にも、砂漠国家バル=ゼファルや、山岳国家ロムダースにも支援の申し出はした」
壁に掛けられた地図に視線をやる。
バル=ゼファル。
灼熱の砂漠を支配し、砂の魔法と騎兵戦術に長けた国。
ロムダース。
ドワーフたちが築いた山岳国家で、武具と防具なら大陸一と言われる。
「だが、魔族復活の報を受けて、どの国も守りを薄くできなくなった。
バル=ゼファルの王は、“いつ砂の下から魔族が現れてもおかしくない”と言っていたし、
ロムダースも、“山の根に何かが蠢いている”と報告してきている」
「つまり――」
ソーが地図を睨みながら言う。
「グリンデル奪還部隊は、ここにいる僕たちだけ、ってことですか」
「そういうこと」
ギリーエは頷いた。
「だからこそ、今回も少数精鋭。
ワーズは変身能力を持つと報告されている。
大軍で攻め込めば、その分、混乱も増える」
そこで、ギリーエは一人一人の顔を見る。
「出発メンバーは――」
ウルシアから、俺、ソー、ジークの三名。
カエサルから、レイズとミスト。
オーシャンから、シン。
シルアから、ルーナとレーオ。
「計八名。
飛竜四頭に分乗し、直接グリンデル国境まで飛ぶ」
「なぁ、1つ聞いていいか?」
思わず口に出していた。
「ローディオのオッサンがどっか飛んでって、パラディンとSランク冒険者がいるとは言え……
ウルシアはカリナ一人で大丈夫なのか?」
「ああ、それに関しては大丈夫だよ」
ソーが即答する。
「姉上がいるからね」
「姉上? お前ら姉ちゃんいたのか。ってことは」
「そう」
ギリーエが苦笑いした。
「王位継承権第一位。
第一王女メレーナ・ウルシア。
カリナ殿と幼馴染で、仲は悪い。
でも強さは、カリナ殿と同等と言われている」
さっきの赤髪の女騎士だ。
第一王女、メレーナ・ウルシア。
カリナと並ぶウルシアの“もう一つの光の刃”。
「メレーナ。さま。」
カリナが珍しく、少しだけ硬い声で挨拶する。
「お久しぶりです」
「久しぶりね、カリナ」
メレーナは腕を組んだまま、ふん、と鼻を鳴らした。
「相変わらず真面目そうな顔してるじゃない。
この間みたいに、山を吹き飛ばしたりしないでちょうだいね」
?ヤマヲフキトバス???
「数年前、二人が殴り合いの喧嘩をしたことがあってね」
ソーがため息混じりに俺に耳打ちする。
「山が三つ、消えた」
「洒落になってねぇな!?」
「……あれはメレーナが先に手を出したからでは?」
幼馴染の頃の口調で話すカリナ
「よくもまぁ細かいことを覚えてるわね。さすが堅物」
「褒め言葉と受け取っておく」
会議室の空気が、一瞬で“ウルシア一怖い女二人の殴り合いエピソード”でざわついた。
山を三つ吹き飛ばした殴り合いって何だよ。
(相棒、あの二人は絶対怒らせちゃダメだからね)
(見りゃ分かるわ)
(相棒、世界広いねぇ)
(そうだな……“山を三つ吹き飛ばした殴り合い”ってなんだろうな、ちょっと見てみたい)
ラナが楽しそうに笑う。
「ともあれ」
ギリーエは手を打ち鳴らした。
「作戦は決まった。
あとは、君たちがやるべきことをやるだけだ」
会議は、そこから細かい詰めに入っていった。
ワーズの変身能力にどう対処するか。
ジークのヒナワの運用方法。
シンの水魔法での後方支援。
ルーナとレーオの弓による索敵と狙撃。
そして俺は――
クリスタルワイバーンの装甲。
アークサーペントの雷クナイ。
黒龍ジェットの翼。
神王獣ラナの加護。
セイレーンの武装は、コラキとの戦いで完全に壊れて消滅した。
だからこそ、今ある武装を最大限に使いこなすしかない。
(相棒)
(なんだ)
(今の君は、“武器が揃った状態での初めての本格魔族戦”って感じだね)
(だな、このために強くなったって感じだな)
(ふふ。でも、大丈夫。
私がいる。
それに――)
ペンダントのラナの声が、不思議と優しくなる。
(相棒には、“五秒戻れる剣”もあるでしょ?)
「ああ」
腰に下げた魔剣ムラマサに手を添える。
五秒だけ過去に戻る能力。
ローディオとウォールとの地獄みたいな訓練で、実戦レベルまで引き上げた切り札。
「魔族なんてローディオ&ウォールに比べたら…」
(ちょっとトラウマになっちゃってるね!)
ラナはキャッキャしながら喜ぶ。
「お前はほんと性格悪いな!」
そんな掛け合いをしながら――
俺たちは、グリンデル奪還へ向けて動き始めた。




