第40話:それぞれの英雄譚ー3
◆ ◆ ◆ ウルシア王国側 ◆ ◆ ◆
二日後。
ウルシアの空に、竜の影が四つ現れた。
「来たね」
城のバルコニーでそれを見上げながら、ソーが呟く。
隣で、ギリーエが小さく笑った。
「さて――ここからが本番だね」
その日、ウルシア王城では各国代表による“奪還作戦会議”が開かれた。
集まった顔ぶれを見て、俺は思わず息を呑んだ。
ウルシア側からは、俺とソー、それから第三王子ジーク。
カエサル側からは、竜騎士レイズと竜騎士ミスト。
海洋国家オーシャンからは、“海神”シン。
エルフの国シルアからは、“聖樹の守り人”ルーナとレーオ。
会議室の後方には――見たことない女騎士がいた。
赤い髪を高く結い上げ、鋭い眼差しでこちらを見ている女性。
白と黒を基調とした軍服風のドレスに、腰には一本の細身の剣。ただ者ではない雰囲気が出ている。
「まずはメンバーの顔合わせといこうか」
ギリーエが場を仕切りながら、笑みを浮かべる。
「君のことはもう皆知っていると思うけど、一応紹介しておこうか。
――ウルシア王都最強の雑用係にして、武装化使い。僕たちの“切り札”、だ」
「雑用係って言うな」
思わず突っ込むと、周囲にクスリと笑いが広がる。
「海洋国家オーシャンからは冒険者、“海神”シン」
「よっ」
ひょいっと手を挙げる男がいた。
浅黒い肌に金髪を後ろで束ね、胸元のはだけた青いシャツ。
首や腕には貝殻や骨で作られたアクセサリー。
見た目は完全に“チャラいイケオジ”だ。
「オーシャン最強の冒険者とか、海神とか、好き勝手呼ばれてるけどさ」
シンは白い歯を見せて笑う。
「中身はただの酒好きのおっさんだ。よろしくな」
「軽いな」
(軽いけど、この人強いよ、かなり)
「ああ、それぐらい俺にもわかった」
「シン殿は、オーシャン国内ではローディオ殿に匹敵するとまで噂されている冒険者だ」
ギリーエが補足する。
「海の上なら竜王ウォールさえ上回ると。
――頼りにしています」
「おうよ。魔族だろうが海に沈めてやるさ」
シンが指で波打つような仕草をしてみせる。
その軽さの裏に、とんでもない実力の気配が隠れているのが分かった。
「続いて、エルフの国シルア代表。
“聖樹の守り人”――ルーナとレーオ」
「よろしくお願いします」
静かな声でそう告げたのは、長い銀髪を揺らしたエルフの少女だった。
細く整った顔立ち、尖った耳、透き通るような白い肌。
まさに“THE エルフ”という感じだ。
ルーナ。
表情はほとんど動かないが、瞳だけがよく周囲を見ている。
「ボクはレーオ。よろしく〜」
その隣で、同じ顔をした少年がにこやかに手を振る。
レーオ。
双子らしく瓜二つだが、性格は正反対。
口元にはいつも笑みが浮かび、その笑みの奥にはどこか獣の匂いがある。
「ボクら、聖樹様の加護を受けてるからさ」
レーオは軽い調子で言う。
「弓の腕前にはちょっと自信あるよ。
遠距離からなら、魔族でも人でも鳥でも、等しく穴だらけにできる」
「そういう言い方はやめなさい、レーオ」
ルーナが淡々と注意する。
「…はぁ…でも、それは事実です」
「でしょ?」
レーオは楽しそうに笑った。
「この二人は、聖樹に選ばれた“弓神の子”だ」
ギリーエが続ける。
「ルーナは冷静沈着。レーオは少しおしゃべりが過ぎるが、その分、戦場の空気を変えてくれる。
――頼もしい仲間だよ」
「そして最後に」
ギリーエの視線が、少しだけ柔らかくなる。
「ウルシア第三王子、ジーク・ウルシア」
「ひ、ひぃっ!? あ、はい!!」
会議室の隅でビクッと跳ね上がった青年がいた。
栗色の髪はぼさぼさ、姿勢は猫背気味。
王子というより“気弱な近所のガキ”という印象の青年――ジーク。
「ジークは……」
ギリーエが言葉を探しながら微笑む。
「剣術の才能は、正直言ってあまりない。
外交も、決して得意ではない。
でも――」
「で、でも!」
ジークが慌てて前に出てきた。
「僕、ヒナワだけは、誰よりも上手く扱える自信があります!!」
なんと腰には、黒く細長い筒状のアーティファクトがぶら下がっていた。
アーティファクト・ヒナワ。
封魔戦争時代に異世界から召喚された鉄砲鍛冶が作った、五つの神器の一つ。
「姉や兄、弟たちみたいに格好良く剣を振れないけど……
それでも、誰かを守れる戦士になりたくて。
俺、ずっと鍛錬してきました!」
ジークの声は震えていたが、目だけは真剣だった。
(なんか、相棒に似てるね)
(どこがだよ)
(“強さ”のスタート地点は違うけどさ。
“守りたい”って根っこの部分が、なんか相棒っぽいよ)
確かに、嫌いになれないタイプだ。
「それに……!」
ジークは俺の方を向いて、バッと頭を下げた。
「僕、あなたみたいになりたいんです!!」
「俺!?」




