第39話:それぞれの英雄譚ー2
◆ ◆ ◆ 軍事国家カエサル ◆ ◆ ◆
ウルシア王国から飛竜で二日。
軍事国家カエサルの王都は、相変わらず鉄と炎の匂いが濃かったらしい。
「おう!戻ったぞ!!」
城門の上で見張りをしていた兵士たちが、一斉に顔を上げる。
赤と銀の竜騎士マントを翻しながら、レイズとミストの飛竜が城の中庭へ降り立った。
「レイズ殿! ミスト殿!」
迎えに出てきたホワイトナイトたちが駆け寄ってくる。
城内に入り、大きな部屋に入る、その先――王城の階段の上に、巨大な影が腕を組んで立っていた。
竜王ウォール。
分厚い筋肉を鎧で押さえつけたような大男。
背は俺たちの世界で言えば二メートル半はありそうで、肩幅は城門かよってくらい広い。
しかし威圧感だけでなく、不思議な安心感も同時に纏っている。
「今戻った、オジキ!」
レイズが駆け寄り、すぐさま片膝をつく。
ミストもその隣で恭しく頭を下げた。
「ウルシア王国より急報。
――グリンデル王国王都、魔族により陥落」
中庭が静まり返った。
ウォールの目が、わずかに細まる。
「詳しく話せ」
その一言で、レイズの声が一段と引き締まる。
ウルシアでの宴、伝令、ワーズという名の下位貴族。
聖剣二本を持つ国が、一日ともたず王都を失ったこと。
聖剣の適合者が晒し首にされていること。
レイズは冗談抜きで、一つも誇張せずにすべてを伝えた。
「……以上です」
話を聞き終え、ウォールは顎に手を当てる。
「魔族か」
ぽつりと呟いた声は、低く重かった。
「しかもまだ“下位貴族”の一角にグリンデル王国は陥落」
「はい」
ミストが答える。
「千年前の各地の伝承によると、魔王の下に最上位貴族、上位貴族、下位貴族。
――そのうちの一人がワーズ。上位ですらありません」
「にもかかわらず、聖剣二本の国が落ちた」
ウォールは空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。
「レイズ、何か言いたそうだな」
レイズは驚きと焦りを含ませ答える。
「ああ、すぐにでも戻って、ウルシアの連中と一緒にグリンデル奪還作戦に加わりてぇ。 だが――」
そこでレイズは言葉を噛んだ。
「魔族の強さは未知数だ。 もしカエサルに上位貴族クラスが来たら、オジキの他に、俺かミスト、どっちかは残らねぇと――」
ごつん。
雷のような凄まじい音と共に、ウォールのゲンコツがレイズの頭頂部に落ちた。
「いってぇぇ!! いきなり何すんだオジキ!!」
「竜王ウォールを侮るな」
ウォールは深く息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。
「カエサルにはオレがいる。 その事実のみで十分だ」
ウォールはレイズをデコピンし、二人を真正面から見る。
「改めて命じる。レイズ、ミスト」
「はっ」
「はっ」
「お前たち二人は――ウルシアへ戻れ」
中庭の空気が変わった。
「レイズ。ミスト。
お前たちがいる場所は――“今”は向こうだ。
ウルシアと共にグリンデルを奪還せよ。
ウルシアが倒れれば、次に狙われるのはカエサルだ」
重く、しかし温かい言葉だった。
レイズは、歯を食いしばってそれを聞く。
「行け」
ウォールが手を離す。
レイズは一瞬俯き、それからガッと顔を上げた。
「了解だ、すまねぇオジキ!」
レイズの言葉に焦りは消えていた。
「竜騎士レイズ!竜騎士ミスト!
ウルシアへ再び飛び、グリンデル奪還の一翼を担ってきます!」
「うむ」
ウォールは満足げに頷いた。
「飛竜は四頭連れて行け。
最速で迎い、最速で打ち倒してこい」
「マジか、太っ腹!」
「竜王を“太い”“腹”で形容するな。
腹筋でお前の頭を砕くぞ」
「どうやんだそれ!」
そんなやり取りを最後に、レイズとミストは四頭の飛竜と共に再び空へ飛び立った。




