第37話:刹那の愉悦と永遠の絶望ー3
「グリンデル王都は、陥落…… 王城は制圧され、市街は蹂躙され……!」
「たった、五体で……?」
思わず誰かが呟いた。
「グリンデルには聖剣の適合者が二人いたはずだぞ!」
「聖剣二本を擁する国が、一日も持たずに……?」
ざわざわと、ざわめきが広がる。
だが、マルスの声はその上からかぶさるように続いた。
「聖剣の適合者二名は…… 王城前広場にて、斬首……! その首級は、現在も晒されているとのこと……!」
背中を冷水で殴られたみたいに、全身から血の気が引いた。
(ちょっと待って)
ラナの声が、かすかに震える。
(聖剣を二本持ってる国が、そんな簡単に――)
「市街地では今も、魔族たちが愉悦のままに、 住民を殺しながら“遊んでいる”模様……! 聖剣はすでに、敵の手に渡ったと見て間違いない、とのこと……!」
マルスの言葉は途中からほとんど叫びに近くなっていた。
それでも誰一人として「落ち着け」とは言わなかった。言えなかった。
ウルシア側の兵士たちの顔から、さっきまでの酔いが一瞬で吹き飛ぶ。
カエサル側の冒険者たちも眉をひそめ、ホワイトナイトたちは無意識に剣の柄へ手を伸ばしていた。
「魔族……」
ミストが呟く。その声には冷たさと、わずかな怒りの熱が混ざっていた。
「とうとう、動き始めたってことね」
「しかも、下位貴族クラスで、これかよ……」
レイズは歯を剥き出しにする。
「首を晒して遊んでる……? ふざけるな……!」
カリナは唇を結んだまま、ぎゅっと拳を握りしめていた。
白い指が軋む。
「グリンデルは、多種族が肩を並べる“象徴”だ。 そこが堕ちれば、他の国に絶望が広がる……」
ソーが低く言う。優しい善ソーの声でも、そこにははっきりとした怒りが乗っていた。
ギリーエは書状から目を離さない。
額の汗を拭おうともせず、一文一文を焼き付けるように読み込んでいる。
(やばいね)
ラナの声が、冗談抜きで重くなった。
(聖剣が二本あっても、どうにもならない魔族。)
(その“ほんの一角”が、これかよ……)
胃がきしむ。
ついさっきまで、俺たちは笑ってた。
レイズとミストの漫才みたいなやり取りを肴にして、カリナのドレス姿を眺めて、ソーと他愛ない話をして。
「明日もこんなふうに笑えるかも」なんて、どこかで信じ始めてた。
――それが今、「聖剣二本を持つ国が五体の魔族に蹂躙されてます」だ。
安堵から、奈落の底まで一気落ち。
心臓がその落差についてこれず、変なリズムで鳴っている。
◆
ギリーエはようやく書状から顔を上げた。
その目からは、さっきまでの柔らかな光が完全に消えている。
「……宴は、これにてお開きといたしましょう」
短い言葉なのに、大広間の空気を一瞬で切り替えた。
椅子が引かれ、誰もが立ち上がる。
鎧の留め具を急いで締め直す者。
酒を捨て、水を流し込む者。
顔を叩いて酔いを飛ばす者。
「カエサル国より代表、ミスト殿。 ウルシア国より代表、カリナ殿。 第4王子ソー。 ……そして君もだ」




