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第34話:刹那の愉悦と永遠の絶望ー1

 王都ウルシアの夜空が、まるで昼みたいに明るかった。


花火じゃない。

城の塔に並んだ魔法灯、街中のランタン、祝宴のための篝火、酒場から漏れる灯り――全部が混ざって、夜そのものがほんのり金色に染まっている。


戦い続きだった数ヶ月が、ようやく「一区切りついたよ」って、世界がわざわざ教えてくれてるみたいだった。


(……いいよね、こういう夜)


胸元のペンダント――ラナの“心”が、くすくす笑う。


(転移してきてから移動と戦いしかしてないもんね)


「……確かに」


ここで初めて、なんで戦っているのか一瞬だけわからなくなったが、考えるのをやめた。



城の大広間に一歩足を踏み入れた瞬間、その「平和の匂い」にちょっとだけ眩暈がした。



大広間は、熱気で満ちていた。


壁にはウルシアとカエサル、二つの国章が並んで掲げられ、天井には魔法でちりばめられた光の粒。

長テーブルには肉、パン、スープ、果物、酒。普段なら「貴族専用」みたいな料理も、今日は兵士や冒険者の皿に遠慮なく積まれている。


カエサル側からは竜騎士ミスト、竜騎士レイズ、ホワイトナイト数名、七つ星冒険者たち。


ウルシア側からは俺、ソー、第2王子ギリーエ、聖騎士カリナ、パラディンや冒険者ギルドの面々。


つい最近まで「戦争を視野に入れていた国」が、今は同じテーブルで肩を並べて笑ってる。


「飲め飲めぇ! 今日は国境も過去のしがらみも全部酒で流しちまえ!」


七つ星冒険者の一人が豪快に笑い、ホワイトナイトが「少しは抑えてください!」と慌ててグラスを取り上げる。

注意してるくせに自分もちゃっかり飲んでるあたり、なんだかんだ楽しんでいる証拠だ。


「なんか、変な感じだな」


「そうかい?」


隣でソーが小さく笑った。

今日のソーは“善ソー”の方。穏やかで、礼儀正しくて、全体を俯瞰してる感じのソーだ。


腰には二本の剣――聖剣ラナと魔剣オボロ。


「まぁ何はともあれ、誰も死んでないんだな」、俺は酒を口に運ぶ。


……うまい。

「生きて帰ってきた」って実感とセットで飲む酒だからか、良い酒だからなのか、今日の酒は妙にうまい。



「では――そろそろ、話を始めようか」


大広間の中央で、グラスを片手に立ち上がったのはギリーエだった。


栗色の髪を軽くかきあげ、柔らかな笑み。

線の細いインテリ王子に見えるが、その目にはちゃんと、何度も外交を潜り抜けた人間の光がある。


「ウルシア王国と、軍事国家カエサル。  この二国の代表が、こうして同じ卓につき、同じ酒を飲んでいる。  それ自体、少し前までなら考えられなかったでしょう」


場のあちこちから、くすくすと笑い声が漏れる。


「しかし今や、実現している。  我らは共に八咫烏を退け、アーティファクト・コルトを奪還し、魔族復活の足音に備えるところまで来た」


言葉の端々に、“自分がここまで運んできた”という自負が滲んでいる。

それでも嫌味に聞こえないあたり、さすが“外交の天才”。


「この杯は、新たな同盟に。  そして、この場にいるすべての戦士たちに」


ギリーエがグラスを掲げた。


「「「乾杯!!」」」


金属とガラスがぶつかる音が、重なって弾ける。


酒が喉を落ちていく。

胃が熱くなる。

「ああ、本当に、いまだけは平和なんだ」と身体の奥まで納得する感覚。


(いいね、この空気)


ラナが、いつになく素直に言った。


(こんな時間が永遠に続けばいいのにね)


「珍しくロマンチックだな」


(そりゃそうだよ。だって――)


ラナの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


(相棒、今はビビってないからさ)


「……戦争と平和のギャップにビビってるよ」


(いいことだね)

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