第34話:刹那の愉悦と永遠の絶望ー1
王都ウルシアの夜空が、まるで昼みたいに明るかった。
花火じゃない。
城の塔に並んだ魔法灯、街中のランタン、祝宴のための篝火、酒場から漏れる灯り――全部が混ざって、夜そのものがほんのり金色に染まっている。
戦い続きだった数ヶ月が、ようやく「一区切りついたよ」って、世界がわざわざ教えてくれてるみたいだった。
(……いいよね、こういう夜)
胸元のペンダント――ラナの“心”が、くすくす笑う。
(転移してきてから移動と戦いしかしてないもんね)
「……確かに」
ここで初めて、なんで戦っているのか一瞬だけわからなくなったが、考えるのをやめた。
城の大広間に一歩足を踏み入れた瞬間、その「平和の匂い」にちょっとだけ眩暈がした。
◆
大広間は、熱気で満ちていた。
壁にはウルシアとカエサル、二つの国章が並んで掲げられ、天井には魔法でちりばめられた光の粒。
長テーブルには肉、パン、スープ、果物、酒。普段なら「貴族専用」みたいな料理も、今日は兵士や冒険者の皿に遠慮なく積まれている。
カエサル側からは竜騎士ミスト、竜騎士レイズ、ホワイトナイト数名、七つ星冒険者たち。
ウルシア側からは俺、ソー、第2王子ギリーエ、聖騎士カリナ、パラディンや冒険者ギルドの面々。
つい最近まで「戦争を視野に入れていた国」が、今は同じテーブルで肩を並べて笑ってる。
「飲め飲めぇ! 今日は国境も過去のしがらみも全部酒で流しちまえ!」
七つ星冒険者の一人が豪快に笑い、ホワイトナイトが「少しは抑えてください!」と慌ててグラスを取り上げる。
注意してるくせに自分もちゃっかり飲んでるあたり、なんだかんだ楽しんでいる証拠だ。
「なんか、変な感じだな」
「そうかい?」
隣でソーが小さく笑った。
今日のソーは“善ソー”の方。穏やかで、礼儀正しくて、全体を俯瞰してる感じのソーだ。
腰には二本の剣――聖剣ラナと魔剣オボロ。
「まぁ何はともあれ、誰も死んでないんだな」、俺は酒を口に運ぶ。
……うまい。
「生きて帰ってきた」って実感とセットで飲む酒だからか、良い酒だからなのか、今日の酒は妙にうまい。
◆
「では――そろそろ、話を始めようか」
大広間の中央で、グラスを片手に立ち上がったのはギリーエだった。
栗色の髪を軽くかきあげ、柔らかな笑み。
線の細いインテリ王子に見えるが、その目にはちゃんと、何度も外交を潜り抜けた人間の光がある。
「ウルシア王国と、軍事国家カエサル。 この二国の代表が、こうして同じ卓につき、同じ酒を飲んでいる。 それ自体、少し前までなら考えられなかったでしょう」
場のあちこちから、くすくすと笑い声が漏れる。
「しかし今や、実現している。 我らは共に八咫烏を退け、アーティファクト・コルトを奪還し、魔族復活の足音に備えるところまで来た」
言葉の端々に、“自分がここまで運んできた”という自負が滲んでいる。
それでも嫌味に聞こえないあたり、さすが“外交の天才”。
「この杯は、新たな同盟に。 そして、この場にいるすべての戦士たちに」
ギリーエがグラスを掲げた。
「「「乾杯!!」」」
金属とガラスがぶつかる音が、重なって弾ける。
酒が喉を落ちていく。
胃が熱くなる。
「ああ、本当に、いまだけは平和なんだ」と身体の奥まで納得する感覚。
(いいね、この空気)
ラナが、いつになく素直に言った。
(こんな時間が永遠に続けばいいのにね)
「珍しくロマンチックだな」
(そりゃそうだよ。だって――)
ラナの声が、ほんの少しだけ柔らかくなる。
(相棒、今はビビってないからさ)
「……戦争と平和のギャップにビビってるよ」
(いいことだね)




