第31話:封じられぬ最強
黒い陣が霧散する。
瞬間、空気が爆発した。
ローディオの魔力が周囲を圧し潰し、
地面が沈む。
「やっと終わりかァァ……!!
じゃあ行くぞ若ぇのォォォ!!」
ローディオの姿が消える。
クロウは剣を構えた。
「来い……!」
――しかしクロウは気付かなかった。
ローディオの気配すら読めないことに。
「《転移・裏拳》」
ドスッ。
クロウの腹に“何か”がめり込み、
空気ごと後方へ吹き飛ばされる。
大地を削りながら転がり、
血を吐きながら止まる。
「……ッ……ぐ……!」
その瞬間、カラスが動いた。
地面に指先で印を描き、ローディオへ向けて封印を展開。
――だが彼にとっては遅い、遅すぎた。
「《転移・フック》」
ズガァァァァァン!!
カラスの顔面が歪み、
身体が真横に吹っ飛ぶ。
封印術師とは思えない頑強さで立ち上がるが――
膝が震えている。
ローディオは笑う。
「二人まとめて相手してやるよォ……!
来い八咫烏!
ウルシアの最強を、今日はたっぷり味わわせてやる!!」
カラスとクロウ。
その二人ですら、震えていた。
「……バケモノが……」
二人同時に漏らした言葉は、
心からの本音だった。
ボロボロになりながらも、
カラスは静かに立ち上がる。
「クロウ……まだ立てますか。」
「……ああ……もちろんだ……」
二人が向かい合い、頷く。
「……やるぞ、カラス。」
「はい。“最後の手段”です。」
カラスの身体から黒い炎が溢れ出した。
「《禁術・封印――暗い喰らい(デバウア)》」
ローディオの右腕が、一瞬で黒い虚無に包まれた。
「……ん?」
ズルリ。
右腕が、肩から先ごと“消えた”。
ローディオは一瞬だけ目を見開き、それから豪快に笑った。
「はははは!!
右腕封じか!
お前ら本気だなァ!!」
しかし腕は戻らない。
転移も発動しない。
ローディオの最大の武器が完全に封じられた。
カラスは荒い息を吐きながら言う。
「右腕……あなたの利き腕。
完璧に封じました。
これ以上戦えば、あなたも――」
ローディオが笑いながら遮った。
「死ぬとでも?
腕がなくとも戦えるのが“最強”なんだよ。」
カラスとクロウの背筋が凍り付く。
――この男、やはり最強だ。
クロウが息を整え、刀を構える。
「……もう少しだけ……!」
「クロウ、下がりなさい。」
カラスの声は低く、静かだった。
「これ以上戦えば、我々は死ぬ。」
「……だが……!」
「ローディオはまだ“余裕を残している”。
ここで死ぬのは無意味です。
撤退します。」
クロウは悔しそうに歯を食いしばりながらも頷いた。
カラスはローディオに深く一礼した。
「あなたを侮ったつもりはありません。
だが想定を遥かに超える強さでした。」
ローディオは鼻で笑う。
「はッ。
またやろうぜ。次は本気で相手してやる。」
カラスは薄く笑った。
「……その右腕、封印が解けるまで1年はかかるでしょう。
解ける前に再戦したいものです。」
八咫烏の二人は、影のように消え去った。
ローディオは静かに空を見上げる。
「……さて。
若い衆の戦い……どうなってるかねぇ。」
右腕は封じられたまま。
だが顔には焦りが一切ない。
むしろワクワクしている。
「この程度のハンデ……
あいつらなら余裕で補ってくれるだろうよ。」
風が吹き、ローディオのマントを揺らした。
「ソー、カリナ、坊主……
任せたぞ。」
――ウルシア最強の男は、静かに笑った。




