第30話:流星の黒翼と封牢の黒翼
─カエサル王城
夜は赤かった。
王都全体を見渡せる王城の上。
その中心に、ひときわ巨大な影が立つ。
――竜王ウォールですら畏怖の念を抱く男。
ウルシア最強・聖騎士ローディオ。
いつもの豪快な笑みを浮かべている。
「……ウチの若い衆が、コラキだのクエルボだのと遊んでる頃か。
こっちにも“御大”が来る頃合いじゃねぇか?」
彼が鼻を鳴らした瞬間――
空気が凍りついた。
姿も気配もなかった。
なのに、そこに“いる”とわかる。
黒い羽根が一枚だけ、ヒラリと降ってきた。
続けて二枚、三枚……
それが地面に触れた瞬間、空間が歪む。
「……なぜ。あなたがここに…」
静かで落ち着いた声。
冷静。だが底なしの敵意。
闇から歩み出たのは、八咫烏の頭領――
封印術師
続けて、影のようにもう一人。
腰に二本の妖しい刃。
目は優しげでありながら、異常な闘気が滲む。
二刀流剣士
「ガッハッハッ!
その顔が見たかった!、待ってたぜェ八咫烏!」
ローディオは肩を回し、豪快に笑う。
「聖騎士ローディオ……
まだあなたを相手にする段階ではないのですが、では《段階》を少し早めますか。」
カラスは淡々と告げた。
「クロウ。行こうか。」
「……ああ。
“強いヤツ”と戦うのは、嫌いじゃない。」
クロウの声は穏やかだが、
剣を握る指は震えるほど興奮していた。
ローディオは武器を構えない。
腕を組んだまま、ただ笑っている。
その姿が、逆に恐ろしい。
「じゃあ行くぜ。──」
ローディオの右腕が消えた。
次の瞬間――
ドゴォォォォォン!!!
クロウが吹っ飛んだ。
見えない拳を横顔に受け、地面に三度叩きつけられる。
「……は、速ッ……!」
普通なら即死。
だがクロウはギリギリで剣をクロスさせ、防御していた。
「転移魔法……腕だけを転移させたのですね。」
カラスの表情は変わらない。
だが微かな声の震えが、僅かに“驚愕”を含む。
「おうよォ。面白ぇだろ。」
ローディオは笑う。
「腕だけ転移させれば、
“警戒してる位置とは関係ねぇ殴り”ができる。
シンプルだが……避けるのは難しいだろ?」
「あの威力、警戒したところで。」
クロウが血を吐きながら立ち上がる。
「正面からあなたに挑むのは愚策。」
カラスが一歩前に出る。
地面を走る黒い紋様。
禍々しい円陣がローディオの足元を包んだ。
「《封印術・五重楔陣》」
バンッ!!
空気が爆ぜ、ローディオの身体から光が抜け落ちる。
「……お?」
ローディオは眉を上げる。
「対象の闘力・魔力、身体能力を半分に固定する封印魔法ってところか、だがこれだけの封印魔法、お前もそれ相応の代償があるんだろ?」
「かけた瞬間に見抜かれたのは初めてですよ」
カラスの目が鋭く光る。
「クロウ。」
「……了解。」
クロウが動いた瞬間――
背景ごと“消える”ほどの速度。
二本の刀が、流星のようにローディオへ迫る。
封印中のローディオはもう“避けられない”。
「いいねぇ……久しぶりにゾクゾクしてきたぜ!」
ローディオは腕を構えた。
ギャリィィィィン!!!
刀がローディオの腕に食い込み、血が飛ぶ。
「腕を斬った感覚でも、腕で受けた音でもないな」
クロウが呆れたように呟く
封印の重さで動きが鈍い。
転移の速度も落ちている。
クロウは楽しそうに笑った。
「はは……!
殴ってくれたお礼だ……!」
左右から落ちる斬撃の豪雨。
封印で力を削られたローディオは、すべてを受け止めきれない。
斬られ、切られ、押し込まれる。
だが――
ローディオは笑った。
「良いねェ……!
若ぇ頃の俺なら笑ってなかったかもな」
その笑顔に、クロウの背筋が震える。
「なんだ……この男……
半分以下の力で、まだ余裕があるのか……?」
「おーい!封印の解除はそろそろか?」
ローディオが叫ぶと、
カラスが淡々と返す。
「あなたを倒すには足りません。
あと十秒は頑張らせていただきます。」
ローディオは舌打ちする。
「チッ……!
じゃあ仕方ねぇ、受けてやるよ全部!」
クロウの斬撃が火花を散らし、
ローディオの体に傷が刻まれる。
血まみれ。
骨が軋む音。
だがそれでもローディオは倒れない。
クロウの目が恐怖に染まり始めた。
「……嘘だろ。まだ、倒れないのか……」
カラスが低く囁く。
「……封印、解除。」




