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第26話:油断天敵

世界が、白く濁る。


 善のソー――柔らかな声と穏やかな笑みを持つ人格が、ふわりと浮かび上がる。


「俺をかばうんじゃねぇよ」


(チッ)


 悪のソーが舌打ちする。


(よりによって、お前に助けられるとはな)


「でも――大丈夫だよね」


 善ソーは、悪ソーの肩に手を置いた。


「頼んだよ、お兄ちゃん」


 その言葉と共に、善の人格は静かに“眠り”についた。  記憶を書き換えられた。善のソーの中では、今は八咫烏が“味方”になるだろう。


 だが――


(残念だったな)


 悪のソーは、笑った。


(俺の記憶は、書き換わってねぇ)


     ◇


「さぁ、王子。こっちへ来い――」


 クエルボが言いかけた瞬間。


 ソーの目が、変わった。


 さっきまでの柔らかな光が消え、暗い炎が灯る。


「……悪ぃな」


 低い声。


「こっちの人格の記憶は変わってねぇ」


 魔剣オボロの刃に、朧が爆発的に纏わりつく。


 クエルボが銃口を構え直す。  だが、その瞬間には、もう遅かった。


「朧纏い――」


 ソーの輪郭が完全に消える。  クエルボの視界からも、認識からも、記憶からも、たった一瞬だけ“ソー”という存在が消え去った。


「――朧斬」


 背中に、冷たい感触が走る。


 自分の体が、二つに割れる感覚。  クエルボは、振り向くことすらできなかった。


「……そういう……仕組み、か……」


 血の中で、彼はわずかに呟く。


「最後の最後で、“本質”を見誤ったか」


 ソーは静かに言った。


「コルトは“銃弾が届いた人格”しか書き換えられないみたいだな。  ――俺は片方が眠ってる間に、もう片方が動くこともできる、偶然勝てた」


 クエルボの唇が、わずかに笑った気がした。


「……やっぱり、お前たちは……面白い……」


 そして――そのまま動かなくなった。


「やるじゃねぇか、ソー」


 レイズが肩で息をしながら笑う。


「記憶改ざんの弾を喰らっておいて、それを逆に“囮”に使うとかよ」


「まぁ。ほんとたまたまだな。アイツの機転のおかげだ」


「そいつにはあとで酒でも奢ってやれ」


「……そうだな」


 ソーは、胸の奥で眠る善の人格に、心の中でそっと謝った。


     ◇


 一方その頃――


「カリナ、右!」


「分かった!」


 俺とカリナは、コラキの炎と弾丸の雨の中を走っていた。


 クリスタルワイバーンの手甲が、灼熱の火球を軽々と弾く。  アークサーペントの雷を纏ったクナイが、飛んでくる岩片を粉々に砕いた。


 背中からは、黒龍のジェット翼が噴き出すように噴煙を上げ、瞬間的な加速をくれる。


 顔にはセイレーンのマスクと眼鏡。  発砲時の筋肉の起こりや魔法の発動の起こりをを察知し回避と指示をし続ける。


《フル装備ね。いいよ、その欲張りな感じ》


(今さら隠す意味もねぇからな)


「ヒヒヒ……楽しいなぁ、本当に楽しい!」


 コラキの笑い声が、炎の向こうから響く。


 デザート&イーグルの銃口が、赤い光を帯びる。  打ち出される弾丸の一発一発に、炎魔法が絡みついていた。


 撃たれた場所は爆ぜ、燃え上がる。


 ――それだけじゃない。


 弾丸が掠めた空気にすら、熱が乗る。  “当たらなくても焼ける”弾丸。


「この銃はなぁ、“強化”の具現みたいなもんでなぁ!」


 コラキの声が高くなる。


「魔力、闘力、全部100倍!  ヒヒヒ、消える前の灯りが一番美しい!」


「性格も炎もタチが悪いな」


 カリナの剣が、光を纏う。  聖騎士の光属性魔法――聖光斬。


 飛来する弾丸群を、光の刃で相殺していく。


「キミ!」


「分かってる!」


 俺はラナのネックレスを握った。


「――武装化」


 全身を、白銀と紫の装甲が覆う。  神王獣ラナの装甲。  全ステータス二十倍。すべての武装が、二十倍の性能で唸りを上げる。


 クリスタルワイバーンの手甲が、ほとんど“絶対防御”に近い魔法障壁を展開。  アークサーペントのクナイが、雷光の残像で視界すら埋め尽くす。


 黒龍の翼は、もはやジェット戦闘機のような推力を生み出し、一瞬で視界の端から端まで移動できる速度をくれる。


《行こ。あいつの“火遊び”に、付き合ってあげよう》


(ああ)


 俺は地面を蹴った。


 世界が線になる。  コラキの姿が、残像だらけの視界の中でただ一つ、はっきりと浮かび上がる。


「ヒヒッ!」


 コラキの指が引き金を引く。


炎の柱が四方八方上下左右から襲ってくる。

オレは高速で回転しながらクリスタルワイバーンの魔法防壁を前方に展開しながら炎を防ぐ。


 デザートの弾丸が、前方から。  イーグルの弾丸が、斜め上から。


 ――俺は、敢えて前に出た。


「!?」


 カリナが息を呑む気配が背後に伝わる。


 デザート弾を、クリスタルの手甲で弾き、  イーグル弾を――わざと、胸で受けた。


「なにをして!?!」


 強烈な衝撃。  体内を駆け巡る、妙な“空虚感”。


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