表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/41

第25話:次の絶望

 レオンの剣が、ミストの槍にぶつかる。


 火花が炸裂し、ミストの足が一歩だけ後ろに滑った。


(くっ、重い――!)


 百倍に膨れ上がった闘力。  剣筋はいつものはずなのに、威力がまるで違う。


 シグルドの斧が、ホワイトナイトの盾を軽々と打ち砕いた。


「下がれ!」


 ミストが腕を払うと、足元の大地から水柱が噴き上がる。  水が瞬時に凍り、即席の壁となって百倍の一撃を受け止める。


 それでも、氷壁には大きな亀裂が走った。


「……本当に厄介な銃だな」


 ミストは奥歯を噛み締めながら、部下たちに指示を飛ばす。


「レオンとシグルドの急所は絶対に狙うな!  腱と関節だけを狙え! 重ねて拘束魔法!」


 聖鎖が放たれ、足元に魔法陣が浮かぶ。


 ――だが、百倍の力で暴れる二人は、それすら力任せに引き千切って前へ出てくる。


「ヒヒヒ……いいなぁ、いいなぁ」


 コラキの笑い声が、広間に響く。


「味方同士で殺し合いなんて、最高に趣味がいい」


「黙れ」


 ミストが獰猛な目で睨みつける。


「お前の趣味の悪さに付き合うつもりはない」


 槍がきらめく。  レオンの剣を受け流し、わずかな隙に膝裏へ蹴りを入れる。


 百倍の力で暴れる膝関節が、嫌な音を立てて逆方向に曲がった。


「……ッ!」


 レオンの顔が歪む。


 その隙を逃さず、ホワイトナイトたちが一斉に飛びかかる。  盾で押し倒し、腕を極め、鎖で縛る。


「一人確保!」


 ミストはすぐにシグルドの方へ向き直る。


 斧が振り下ろされる。  地面が抉れ、石片が飛び散る。


 七つ星冒険者の一人が、その斧をギリギリで受け流し、もう一人が背後から脚へ斬り込んだ。


 血しぶき。  それでもシグルドは止まらない。


「いい加減に――」


 ミストの槍が、地面を突いた。


「眠れ!」


 水蒸気が一瞬で立ち昇り、冷気と共に霧が弾ける。  霧に混じった睡眠魔法が、シグルドの体を包んだ。


 百倍の闘力が強引にそれを振り払おうとする。  だが、四方から飛びかかるホワイトナイトたちが、その体を押さえ込んだ。


「今だ!」


「拘束完了!」


 レオンとシグルド――暴走する二人を、ミストたちはギリギリのところで制圧してみせた。


 その間にも、前線では――


     ◇


「――来い」


 クエルボが、銃口をこちらに向けながら、静かに言った。


「竜と烏、どっちが上か言わずもがなだろよ」


「クソ無表情が、クソいきってんじゃねぇぞ」


 レイズが大剣を構える。  ソーは聖剣ラナと魔剣オボロを、左右に一振りずつ。


「竜騎士と、聖魔の王子か」


 クエルボの瞳が、僅かに興味を帯びた。


「オレとアーティファクトコルトに対し、貴様ら如きがどこまで通じるか――」


 次の瞬間、気温が一気に下がった。


 息が白くなる。  床にうっすらと霜が降りる。


「っぶねぇ!」


 レイズが飛び退いた場所を、氷柱が貫いた。


 クエルボの能力で体温が下がり身体能力が低下する。


「地形が味方かよ、反則だな」


「2対1で挑んでくるやつが何を言う」


 クエルボの足元から、氷の針が生えた。  それを、レイズの大剣がまとめて斬り砕く。


「ソー!」


「分かってる!」


 ソーが滑るように駆ける。  聖剣ラナの第一能力――神獣召喚。


「――顕現、一爪」


 虚空から、巨大な獣の“爪”だけが現れた。  透明な神獣の前足。その一部だけを削り出したような存在。


 その爪が、クエルボに向かって振り下ろされる。


 だが、クエルボの周囲の空間が、一瞬ぐにゃりと歪んだ。


「……“大気の記憶”を書き換えた」


 空気の盾が、爪を受け止める。  記憶を書き換えられた空気と水蒸気が、一瞬だけダイヤモンドのような硬さを持ったのだ。


「どんなクソ原理だよ」


 ソーが舌打ちする。


「オボロ!」


 ソーの体に朧が纏わりつく。  ソーの輪郭がぼやけ、視線の“焦点”から外れた。


 クエルボが銃口を向ける。  だが、ソーの姿が“記憶から滑り落ちていく”。


「……ふむ」

クエルボが自らのこめかみにコルトを発砲する。


「消えた記憶を無理やり呼び戻したのか」


 ソーが回避を優先し離れる


「――上出来だ!」


 レイズの声が飛ぶ。  クエルボが即座に振り向き、氷の壁を生み出す。


 その向こう側から、朧纏いの斬撃が襲いかかった。


 氷と鉄と魔力がぶつかり合い、耳障りな音が広間に響く。


「ついてこいよ!王子さま!」


「てめぇこそ!」


 レイズが前、ソーが後ろ。  二人の連携は、口の悪さに反して妙に息が合っていた。


「お前、口は悪いくせにいい動きするじゃねぇか」


「お前も、女口説いてる時とのギャップがクソひどいな」


「褒め言葉として受け取っとくぜ!」


 レイズの大剣が、氷の地面を割りながら突進する。  ソーの朧纏いが、その後ろで流星のように揺れる。


 クエルボの周りで、コルト弾が弾けた。  床の記憶が書き換えられ、地面が突然崩落する。


「っ!」


 レイズは崩れた瓦礫を利用し跳躍し、  ソーは壁を駆け上がる。


(――こいつ、物質の“記憶”を書き換えて戦場そのものを作り替えてやがる)


 ソーの悪人格が、心の中で舌を鳴らす。


(クソ面白ぇ、こういう“理詰めの化け物”ほど、斬り甲斐がある)


「――終わりだ」


 クエルボが、ソーに銃口を向けた。


 今度の弾丸は、さっきまでのものとは違う。  まるで、薄い霧のような光をまとっている。


「コルトの記憶改ざん弾。  お前はこれから、“俺の味方だった”という記憶を持って生きることになる」


 銃声が響く。


「ソー!!」


 レイズの叫びが遅れた。


 弾丸は、ソーの胸を正確に打ち抜いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ