第24話:氷炎の狂乱
中は、妙に整っていた。
崩れかけた天井、古い柱、その隙間を縫うように通路と広間が続いている。 塵は少ない。つい最近まで人が出入りしていたのだろう。
最深部――広間に到達したとき、そいつはすでに待っていた。
「ヒヒヒ……本当に来たか。バカ正直な連中だ」
中央の瓦礫の上に、腰の曲がった老人――コラキ。
赤黒いローブに、干からびたような指。 その両手には黒塗りの二丁拳銃――アーティファクト《デザート&イーグル》。
隣には、無骨な男が立っていた。 冷たい目をした三十代半ばほど。髪は白に近い銀で、表情はほとんど動かない。
クエルボ。 右手には、鈍色のリボルバー《コルト》。
「人数は――ふむ、想定より少ない」
クエルボが周囲を一瞥する。 その視線には、一切の感情がない。 ただ“戦力”として数えているだけ。
「まぁいいさ。ヒヒ……カラスの予測の範囲内だ」
コラキが肩を震わせる。
「歓迎するよ、ウルシアとカエサルの精鋭たち。 八咫烏の“アジト”に、よくぞ来てくれた」
「アジト、ね」
ソーが聖剣ラナと魔剣オボロの柄に同時に手を添えた。
「武具やアーティファクトを集めてる連中にしては、クソ辛気臭ぇところに巣食ってんだな」
「おやおや。聖剣と魔剣の両方に選ばれただけのお坊ちゃんが、ずいぶんと口が悪い」
コラキの視線が、ソーの腰元へ滑る。
「……まぁいい。“目的の物”が自分から来てくれた」
その瞬間だった。
パァン、と乾いた銃声。
「っ――!?」
弾丸は、俺たちの前を飛び越え、後方――レオンとシグルドの胸元に吸い込まれた。
「レオン! シグルド!」
ミストが叫ぶ。 だがもう、遅かった。
二人の瞳から、一気に色が消える。
代わりに、その奥に奇妙な“安堵”が浮かんだ。
「……お待たせしました」
レオンが呟く。
「コラキ様、クエルボ様」
「これでウルシアとカエサルのゴミどもを、確実に皆殺しにできる」
ぞわり、と肌が逆立つ。
――記憶が、書き換えられている。
「コルトの弾丸には、“記憶の上書き”効果もあってねぇ」
コラキが楽しそうに解説を始めた。
「今、あの二人にとって“敵”はお前たち、“味方”は俺たちさ」
再び銃声。
今度は《デザート》の銃口から、淡い光を帯びた弾丸が放たれ、レオンとシグルドの体に吸い込まれる。
「ぐっ――」
二人の体から、常識外れの魔力と闘力が吹き上がる。
地面がひび割れ、空気が震えた。
「デザートの弾は、“闘力と魔力を最大100倍まで引き上げる”弾丸だ。 さぁ、お前たち――」
コラキが、手を広げる。
「皆殺しだぁー!!」
次の瞬間。
レオンとシグルドが、殺意を燃やしてこちらに飛びかかってきた。
◇
「ミスト!」
「分かってる!」
ミストが一歩前に出る。 その背中に、ホワイトナイトと七つ星冒険者たちが並んだ。
「レオン! シグルド! お前たちの相手は私たちがする!」
カリナが叫ぶ。
「行こう! 前衛は――ソー、レイズ、キミ!」
「了解!」
「任せろ!」
「……うわ、名前呼ばれ方が雑だな俺!」
俺は苦笑しつつ、ラナのネックレスを握った。
《行こう。あの2羽は――今、ここで落とす》
(ああ)
レオンとシグルドが、ミストたちに斬りかかっていくのを背に、俺たちはコラキとクエルボへと駆けた。




