第18話:最強の聖騎士
大柄。 茶色の髪は雑に後ろへ流され、顎には無精髭。 肩幅も胸板も分厚く、だがその目は笑っている。
ガッハッハッ、と、部屋の重さをぶち壊すような豪快な笑い声。
コイツが誰なのかすぐに察した。
「ローディオ殿……!」
カリナが思わず立ち上がり、驚きと緊張、安堵が入り混じった声を上げる。
ウォールの目が細められた。
「どうやって…」
とりあえず驚きが勝り、その後何かを察したように落ち着きを取り戻していた。
「おー、ウォール!久しぶりだなぁ」
ローディオは肩を鳴らしながら、円卓の端へ歩み寄る。 どこかの村の酒場に顔を出した常連のオジサン、くらいの気楽さで。
だが、その場にいる全員――ホワイトナイトも七つ星冒険者も、竜騎士も―― 例外なく背筋を伸ばしていた。
理由は単純。 ローディオの“気配”が、えげつないからだ。
レイヴンを思い出す。 あの、肉体強化を極限まで高めた、八咫烏の狂戦士。 彼が放っていた“牙を剥いた猛獣”みたいな圧を、さらに上から踏み潰したような存在感。
魔力の質も量も、桁違いだった。 その場にいるだけで、空気がビリビリと震えている。
(……これ、化け物だ)
(うん、これはね、神獣クラスが怯えるレベルだね)
ラナも珍しく真面目な声を出した。
カエサル王が、興味深そうにローディオを見つめる。
「聖騎士ローディオか。わざわざこの地まで… 貴殿は、魔族復活よりも大事な案件がいくつもある、と聞いていたが」
カエサル王は何か勘ぐったように言葉を選ぶ。
「ガッハッハッ、陛下よ。今そっちは落ち着いてるからな」
ローディオの登場で皆例外なく安堵したはずだ。
「確かにこっちの案件も山積みだがな。 八咫烏がアーティファクトを握って暴れてるって知っちまったら、黙ってられねぇさ」
ギリーエがニコリと笑う。
「つまり、“数ある世界の危機”の中でも、こちらが一番面白そうだから来た、と」
「そういうこと!、ん?お前ギリ坊か!?でっかくなったなぁ!」
「ご無沙汰しております、ローディオ殿」
ギリーエのこんな笑顔は初めて見た。
ローディオは「昔みたいにおいたんって呼べよ!ガッハッハ」と円卓の空いている椅子を勝手に引いてドカッと座り、真顔になった。
「このマイペースなとっつぁんが最強なのか?」
『うん、おそらくカリナさんよりも強い』
マジかよ。
「なぁ、早く本題に入ろうぜ?」
誰が言うとんねん!と言いそうになったのを咄嗟にこらえる。
「 いいか――十中八九、お前らが考えてる作戦は全部、八咫烏に読まれてると思っていい」
部屋の温度が一段下がった気がした。
ローディオは指を一本ずつ立てる。
「やつらは、アーティファクトを奪い、そのまま逃走すればいいものを、わざわざ大勢の前に現れ、名乗り、奪ったアーティファクトを派手に使った。
それはなぜだ?カリナ」
「……我々は危機意識が高まり、両国団結し、戦力を集めやすくなったーーーだがなぜそんなことを…」
「わざと追跡させるよう仕向けていた…?」
思わず口を挟むと、ローディオは満面の笑みでこちらを向いた。怖すぎる。
「おー!お前が最近大活躍の転移者くんか。カリナとお前合わせて8割正解ってとこだな!」
俺のことを知っているのか。
ローディオは話を続ける。
「やつらは自分たちの名前、力、姿を、あえて見せた。 炎と氷の魔法、記憶をいじる銃、闘力と魔力のバフ&デバフ。 追跡魔法持ちの魔術師なら、それらの条件でアジトまで追跡可能だろうな」
どっで見ていたかのように言っていることを不思議に思ったが、周りはそんな様子はなかった。
ウォールが眉をひそめる。
「つまり、わざと危機意識を煽り、両国を団結させ、アジトまで追跡させて、我々が全軍を挙げてそこへ向かうと読んでいる、と?」
「そういうことだ。 両国とも“ここで決着をつけるしかない”と思い込む。 だからこそ――八咫烏側は、その瞬間の“本国の手薄さ”を狙ってくる」
ローディオの声が低くなる。
「仮にお前たちが八咫烏のアジトだと思わしき場所に全軍を挙げ、叩きに行けば、代わりにコラキとクエルボ以外の八咫烏が、ウルシアとカエサルのどちらか、または両国同時に襲う。」
ギリーエがハッとしたように呟く。
「主力が削がれたウルシアとカエサルは制圧され、王や民を人質にされたうえ、聖剣、魔剣、アーティファクトを奪われる」
ソーがテーブルを強く叩いた。
「……そうなれば、どう転んでも僕たちの負け。文字通り終わり。 両国とも、立ち直れなくなりますね」
「だから俺が来た」
ローディオはニヤリと笑った。
「奴らが“本国が手薄になるだろう”と読んでいるなら、 逆に――本国の防衛を、今まで以上に分厚くすりゃいい」
ウォールが腕を組み直す。
「どの程度、だ?」
「カエサルは、俺が見る」
さらっと、とんでもないことを言った。
「……一人で、ですか?」
ミストでさえ驚愕を隠せない。
「ガッハッハッ、そこまで驚くことか? 一箇所に全軍で来る可能性は極めて低い。 八咫烏は少数精鋭だ。ならこっちは少数超精鋭で迎え撃てばいい」
ローディオは拳を軽く握り、空を殴るようにひと振りした。
「俺が使う魔法は転移。 一度見た場所なら、城壁でも王都の外れでも、一瞬で飛べる。だから一度行った場所に高い魔力を感じれば大体見に行ってる 」
「転移……」
思わず漏らした俺の声に、ローディオはニカッと笑った。
「ま!要するに、“俺の国でわりー事したらすぐ殴りに行くぞ”ってことだ!」
ラナが感心したように呟く。
(便利!私も欲しい!)
(お前、欲しがりすぎだろ)
ウォールはローディオをじっと見据える。
「ではウルシアは?」
「ウルシアは――ウォール!お前に託したい!」
「なぜだ?逆ではダメなのか?」
「ああ、奴らの中にも頭のキレる連中が何人かいる。
俺たちが、『手薄になった本国が狙われると気づき、本国の守りを固めた』とやつらに読まれていた場合、オレやウォールの対策を立てたうえで部隊を送り込んでくるはずだ」
「そこで、ウルシアには竜王ウォールがいて、カエサルには聖騎士ローディオがいる。って知った時のあいつら、面白い顔するだろうな!ガッハッハッ」
ギリーエが頷く。
「つまり、“あのローディオが想定外の場所にいる”という一点が、敵を乱すわけですね」
「そうそう。さすがギリ坊だ。話が早くて助かる」
ローディオは手を打ち鳴らした。
「その上で――」
彼は俺の方を指さした。
「八咫烏のアジトには、お前のセイレーンの追跡で、コラキとクエルボが長く留まっている場所を確定する。 それから、回復したレイズ、ミスト、ソー、カリナ、君、バルド、メルダ。 それにカエサルのホワイトナイトと七つ星冒険者から、精鋭を数名。 この少数精鋭で突き立てる」
「……大軍ではなく、少数精鋭で、ですか」
カリナが静かに問い返す。
「アーティファクトに対抗するには、“数”はむしろ危険だ。 混戦になればなるほど、デザート&イーグルとコルトの餌食になる。 だから、“能力を理解している少数だけ”で挑むべきだ」
ソーが小さく笑った。
「その方が、クソ燃えるな」
その声には、善と悪、両方のソーが混ざっていた。
ウォールはしばし黙ってから、ゆっくりと頷いた。
「……分かった。竜騎士の代表としても、その提案に乗ろう」
カエサル王も微笑を浮かべる。
「ウルシアの聖騎士ローディオと竜王ウォール。 この二人が“守り”を請け負ってくれるなら、我が民は安心して避難できよう」
ギリーエが、円卓を見渡しながらまとめに入った。
「では、作戦はこうですね。
・両国民の大規模避難。 ・カエサルはローディオ殿が単独防衛。 ・ウルシアは竜王ウォール殿、選抜された騎士と冒険者で防衛。 ・八咫烏本拠には、少数精鋭で奇襲。
これでよろしいでしょうか?」
誰も異議を唱えなかった。
ローディオが最後に言う。
「細けぇことはこれから詰めりゃいい。 まずは――民を動かすことだ。数日後、イーリス大陸の空気は一変するぞ」
(……いよいよ、戦争の直前って感じだね)
ラナの声は、いつになく静かだった。
(怖いか?)
(んー、正直怖いよ、相棒が死ぬのは嫌だな)
(え、オレ死ぬの?……)
(死んでほしくないって思ってるってこと!)
――世界が、本格的に“戦争モード”へ切り替わっていく。




