第17話:まさかの展開
会議室の空気は、やたらと重かった。
カエサル王城、戦略会議用の円卓室。 分厚い石壁に囲まれたその部屋には、両国の要人がずらりと並んでいた。
カエサル王、その右隣に竜王ウォールと竜騎士ミスト。 ホワイトナイトたちと、七つ星冒険者の代表格。 対するウルシア側は、聖騎士カリナ、第4王子ソー、第2王子ギリーエ、パラディンのバルドとメルダ。 そして場違い感凄まじい俺。
円卓の中央には、粗い地図。 イーリス大陸の二大国――ウルシアとカエサル。 その間に点々と印が打たれ、最後に×印で囲われた一点が赤く印されている。
そこが、俺のセイレーンの眼鏡が捉えた“八咫烏の巣”だ。
「……位置は確かなんだな?」
竜王ウォールが低く問う。 短く刈られた髪、分厚い首、岩みたいな肩。 ただそこで腕を組んで座っているだけで、部屋の空気が一段重くなるような男だ。
「ああ、確かだ」
俺はセイレーンの眼鏡を指先で軽く押し上げた。
「一度視界に入った相手は、魔力の“癖”ごと記憶してくれる。 コラキとクエルボは、今もそこにとどまってる。 少なくとも、さっきまでの時点ではな」
ラナの声が胸元から小さく響く。
(すごいよねー、その眼鏡。私も欲しいんだけど?)
(ペンダントがどうやって眼鏡かけるんだ)
喋るペンダントは今日も元気だ。
カエサル王が、指先で地図をとん、と叩いた。
「ここは両国のちょうど中間、かつ、いずれの軍も展開しにくい峡谷地帯…… 八咫烏め、我らが動きにくい場所を、よくも選んだものだ」
ギリーエが柔らかな声で続いた。 外交の天才と呼ばれる第2王子――人懐っこい笑みを浮かべながらも、目だけは鋭い男だ。
「つまり、我々が大軍を動かせば、補給が続かず持久戦で詰む。 かといって大人数で行けば、狭いため連携もままならず、アーティファクトを握った八咫烏に一掃される。 ……こちらが動けば動くほど、相手の思惑にはまりやすい」
「しかしだ」
ミストが静かに言葉を継ぐ。 ウォールと同じ竜騎士でありながら、彼女は細身で涼しげな面差しをしていた。
「八咫烏は、我々が全勢力で襲撃をかけることを知らない、そこが勝ち筋になるのは明白だ」
円卓を囲む視線が、じわじわと重くなる。
だが、コラキとクエルボに至ってはアーティファクト《デザート&イーグル》《コルト》を使用する、炎と氷の極致に到達した魔術師コンビ。
その他八咫烏メンバーもレイヴン並みの強さと考えるのが妥当。
――いくら不意をつけたとして正面突破は、普通に考えて無理ゲーだ。
そんな空気が、全員の顔にうっすらと浮かび始めたその時だった。
部屋の空気が、ぐにゃり、と歪んだ。
視界が一瞬だけぶれる。 床に魔法陣が描かれたわけでもなければ、扉が開いたわけでもない。
それなのに――
「おー、まだ話してたか。間に合って良かった良かったぁ!ガッハッハ!」
バカみたいに大音量だが安心するようなどこか心地よい音だった。
円卓の、ど真ん中。 そこに、いつの間にか男が立っていた。




