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第13話:第二王子ギリーエ

レイヴン…


では13話どうぞ!

 ヒナワの遺跡からウルシア王都に戻ってきたとき、季節がひとつ変わっていた。


 聖剣ラナ。  魔剣オボロ。  アーティファクト・ヒナワ。


 封魔戦争の“切り札”とされた三つが、すべて今、この国の手の中にある。


 王都の空気は浮き立っているようで、その実どこか張りつめていた。  酒場では英雄譚が歌われ、裏通りでは不穏な噂が囁かれ、城の塔には昼夜問わず光が灯り続ける。


(なんかぁ、やばいところまで来ちゃったな……)


 俺は王城の廊下を歩きながら、無意識に胸元のペンダントを握った。


『んね、ただの雑用係だったのにね――』


 耳元で、少女の笑い声が弾む。


『“世界の運命が、じわじわと近づいてきている”ってやつだよ。カッコいいよ!』


「どこがだよ」


 小声で突っ込むと、ペンダントの中――ラナの“心”が、くすくすと笑った。


 あの日。  オボロを握ったカシアンを斬り伏せ、ラナの亡骸に触れた瞬間。  俺は“神王獣ラナ”を武装化し、その心だけをペンダントに変えた。


 それ以来、彼女の声は、俺にだけ聞こえるようになっている。


 慰めたり、からかったり、時々妙に真面目だったり。  ……今のところ、わりとお世話になってる。


『ほら、そろそろだよ。背筋、伸ばして』


「はいはい」


 ちょうどタイミングよく、謁見の間の扉が開いた。



 王城大広間。


 前に出るのは、もう何度目だろう。


 聖騎士カリナ。  第四王子ソー。  第二王子ギリーエ。  それに俺と、二名のパラディン――バルドとメルダ。


 聖剣ラナと魔剣オボロは、ソーの腰に収まっていた。  聖と魔。  相反する二つの力が、まるで当然のように彼の両腰に並んでいる。


 ソーはいつもの穏やかな表情――善の人格のほうだ。  静かで、落ち着いていて、礼儀正しい。


 その奥で、もう一つの鋭い瞳――悪いソーが、ひそかに笑っている気配もする。  が、今は表には出ていない。


 玉座から、ウルシア王が俺たちを見下ろしていた。


「ヒナワ回収の任、ご苦労であった」


 重い声が響く。  ギリーエが一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。


「陛下のご威光と、ソーとカリナ殿、そして……」


 ちらりと俺を見る。


「彼の異能あってこその結果かと存じます」


「お、おれ?」


 思わず変な声が出そうになったのを、必死で飲み込む。


 王はわずかに口元を緩めた。


「謙遜は要らぬ。ヒナワ回収の報告はすでに受けている。  八咫烏との交戦、レイヴン、ヴラーナという二人の強敵との死闘。  三人とも、よく生きて戻った」


 あの遺跡での戦いが、脳裏にフラッシュバックする。  レイヴンの肉弾戦。  ヴラーナの幻術とヒナワの弾丸。  ソーと聖剣・魔剣のコンビネーション。  カリナの光の剣筋。  俺のセイレーン武装。


 全部まとめて、悪夢みたいで、最高にぶっ飛んだ現実だった。


『でも、勝ったよね』


 ペンダントのラナが、そっと囁く。


『あたしも、ちゃんと役に立てた。……たぶん』


(たぶん、じゃねぇよ)


 心の中で笑うと、ラナも小さく笑い返した。


 王の視線が、ゆっくりと会場全体を掃く。


「聖剣ラナ。  魔剣オボロ。  アーティファクト・ヒナワ」


 ひとつひとつ、名前を噛みしめるように口にする。


「三つの“封魔戦争の遺産”を、ウルシア王国は手にした。  だがそれは、同時に――世界中から標的にされるということでもある」


 ざわ、と重臣たちの間に波が立つ。


「軍事国家カエサルにも、この報は届いている。  国土は我が国の一・六倍。  軍事力、冒険者戦力は倍。  竜騎士と呼ばれる、ドラゴンの力を宿す戦士が三名。  ホワイトナイト五十。  七つ星冒険者三十」


 数字として聞かされると、その差がやたら生々しい。


「ゆえに――」


 王はゆっくりと姿勢を正した。


「彼らと、正式に“同盟”を結ぶ必要があると考える」


 その一言に、場の空気が変わった。


 驚き。  賛同。  反発。  さまざまな感情が入り混じり、目に見えない渦を巻く。


「カエサルは強国だ。だが愚かではない。  魔族復活の兆しを前に、伝説の武具を独占しようとするほど視野は狭くないはずだ。  ……こちらも同様にな」


 王は、ギリーエを見た。


「第二王子ギリーエ。外交の任、そなたに委ねる」


「謹んでお受けいたします、父上」


 ギリーエは静かに頭を下げる。


 細い体つき。  鋭い目。  口元にはいつも柔らかな笑みが浮かんでいるが、その奥に常に何かを計算している気配がある。


 “外交の天才”と呼ばれる男。


 噂では、隣国との小競り合いを、酒席の雑談だけで丸く収めたこともあるらしい。  嘘か本当かは知らないが、そう信じたくなる雰囲気がある。


 王は続ける。


「護衛には、聖騎士カリナ。  第四王子ソー。  パラディン二名――バルド、メルダ。  そして……」


 一拍置いて、俺を見る。


「ヒナワ回収の功労者。いい加減名乗らんか?」


 あ、そういえば、と今さら気づく。  ずっと“雑用”“糧食係”“ミリアの生き残り”としか呼ばれていなかった気がする。


 俺はこの世界で名乗ってしまったら何かしらが刻まれて元の世界に帰れないのではないかと、謎の恐怖から今まで誰にも名乗らなかった。


「……名乗るほどの人間じゃないで。。」


 王はそれを聞き、ゆっくりと頷いた。


「よかろう。  ではその存在を、ウルシア代表の一人として、カエサルにも刻ませてこい」


 隣で、カリナとソーとギリーエが、同時に小さく笑った。



 謁見が終わったあと。


 出発まで数日。


 俺たちは、報告書作成だの準備だの、細々した作業に追われていた。


 ヒナワ回収の詳細な報告。  八咫烏レイヴン&ヴラーナとの交戦記録。  使用した武装化の内容。  


 さすがに全部は書けないので、“バレても問題ない範囲”だけを、ギリーエと相談しながらまとめていく。


「いやぁ、助かるよ。君の説明は素直で、誇張がない」


 ギリーエは書類を捌きながら、眼鏡の位置を指で直した。


「外交の場では、事実が一番の武器になる。  噂や虚勢より、“何ができて、何ができないか”がはっきりしていたほうが、相手も判断しやすいからね」


「それで騙されたりしないのか?」


「騙そうとする相手には、最初から何を言っても無駄だよ」


 軽く笑っているが、その目は笑っていない。


「カエサルは賢い。  なら、こちらも“本当に使えるカード”を見せた上で、交渉したほうがいい」


「……全部見せちまって、裏技がなくなったりしない?」


「裏技は、君が勝手に増やしてくれるんだろう?」


「人を便利な何かみたいに言うな」


『まぁまぁ。期待されるの、悪くないでしょ?』


 ラナが肩のあたりで笑う。 ラナは俺のことをわかってきたなと思った。


 そうやって紙の上で戦っている一方――


 城の中庭では、ソーとカリナが、模擬戦を繰り返していた。


 カリナの光の剣。  ソーの聖剣ラナと魔剣オボロ。


 まるで、封魔戦争の一場面を切り取ったような光景だ。


『ねぇ相棒、見てるだけでいいの?』


 ラナの声が、少しだけ真面目になる。


『私たち、もう“傍観者”ではいられないよ』


「分かってるって」


 思わず、掌を握りしめた。


次回はこの世界の強さの秘訣について説明します。

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