第12話:暴力の黒翼と幻想の黒翼
八咫烏は、個人的に好きです。
ソーが、一歩前に出た。
その横顔は悪意に満ちた笑顔
「へぇ……お前らが八咫烏か。
思ったより口達者なクソガキだな」
「はぁ? 誰がクソガキだコラァ。
……お前、王子のくせに口悪すぎだろ」
「クソ殺す気満々の目してんじゃねぇよ。
そんな目で睨むとモテねぇぞ、八咫烏くん」
「あたりめぇだろ、殺すぞクソ王子ッ」
――あ、悪ソーが出てきた。
あの荒っぽい口調は完全にアイツだ。
ヴラーナが肩を揺らして笑う。
「レイヴィー、落ち着いて?」
「 その呼び方はやめろって言っただろババ……」
レイヴンの言葉は最後まで届かなかった。
ヴラーナの笑顔がにこりと深まり、表情は変わらないまま瞳だけが冷たく光った。
「えぇ? 今、なんて言おうとしたのかしら……レイヴィー?」
「……よ、よぉーし!こ、殺し合いだぁクソ王子ぃ!」
完全に尻に敷かれている。
ふざけた雰囲気だが、気配は最強。
この二人――間違いなく“各分野の最上位”だ。
◆
ソーが一歩前に進むと、レイヴンも立ち上がり、石柱から飛び降りて着地した。
砂埃一つ立たない。
それほど正確な着地。
「……よし。
クソ王子、名乗れ。殺し合う前の礼儀だ」
「ソー・ウルシア。
ウルシア王国第四王子――そして、聖剣ラナと魔剣オボロの適合者だ」
「いいねぇ、オレは八咫烏のレイヴン。あー、お前らを全滅させる適合者だ」
二人の間に、静かだが濃密な“殺気の線”が走った。
◆
そのとき、ヴラーナがひらりと手首を返し、ソーへ幻術を放つために指を鳴らす。
「では、まずはあなたから――王子さま♡」
「ヴラーナぁ!!!!」
レイヴンが怒鳴った。
怒鳴った、というより本気の叫びだ。
「そいつに幻術かけんな」
「……ええ? あなた死ぬわよ?」
「頼む」
レイヴンが子供のように言うと、ヴラーナは頬に手を当てて微笑んだ。
「しょうがないわねぇ……レイヴィーにそこまで言われたら」
「レイヴィーって言うなッ!!!」
そこまでが、戦闘前の“ほんの数秒”で起きた出来事。
だが、その会話の裏で、カリナと俺はすでに戦闘態勢に入っていた。
◆
「――来ます」
カリナの声は落ち着いていた。
剣を構えていなくても、流石は聖騎士、オーラがある。
ヴラーナの視線がこちらに移った。
「またお会いしましたね、聖騎士カリナ。あなたの噂はどこにいても耳にするわ」
「噂より強いですよ、私は」
剣を抜き構える。
「楽しみ……♡」
カリナとヴラーナの掛け合い中に俺はセイレーンのピアスを眼鏡とマスクに変え、黒龍のピアスをジェット付きの羽根に変える、それらをラナを発動し性能を上げる。
「力を借りるぞ、ラナ」
『うん!』
ヴラーナの指がまた動く。
――幻術。
俺には見えた。
セイレーンの眼鏡を持つ俺だけが。
「おらぁ!!」
俺はセイレーンのマスクに触れ叫ぶ、言霊の術式を発動。
青い波動が広がり、ヴラーナの幻術を“視覚の根本”から断ち切った。
カリナはその一瞬の隙で、確実に前へ踏み込む。
聖騎士の踏み込みは鋭く、美しかった。
ヴラーナが微笑む。
「……へぇ。面白い子がいるじゃない」
◆
一方。
ソーとレイヴンの戦い。
岩盤が砕けるほどの衝突音が響く。
二人とも、もう視界から消えていた。
音だけがぶつかり合う。
拳と剣、脚と刃、力と魔力。
レイヴンが笑いながら怒鳴る。
「どうしたクソ王子ィ! そんなもんかァッ!」
「てめぇこそ、口だけじゃオレを殺せねぇぞォォ!」
「言うねぇクソ王子!!」
ソーは聖剣ラナを使う。
刃は蒼光を帯び、空気が震える。
「《神獣召喚・部分顕現》――虎爪!」
蒼い霊的な“爪”が実体化する。
レイヴンが受ける。
完全に肉体強化だけで。
「ハッ!! そんな爪、オレの拳で折れるわッ!!!」
粉々に砕けた霊爪が散った。
ソーは一瞬後退し、魔剣オボロを逆手に持つ。
「これならどうだ――《朧纏い》ッ!」
視界から消えた。
「!! 消え――」
レイヴンは反応した。
勘と経験のみで、紙一重の回避。
刃が空を裂き、岩盤が切断される。
「おっそろしい剣だな……!
でもいいねぇクソ王子! お前、最高だわ!!!」
レイヴンの目が、完全に“狩人の目”に変わる。
「――本気出すぜ」
レイヴンの肉体が一瞬で膨れ、圧縮される。
まるで巨大な獣の筋肉が内側から爆発したように、脚力と腕力が跳ね上がった。
次の瞬間レイヴンは――壁を蹴って空気を爆ぜさせ、ソーへ肉薄した。
◆
一方、ヴラーナVSカリナ。
俺とカリナは二人で協力していた。
ヴラーナは笑いながら、常に幻術かけてくる、かかった一瞬の隙に即死クラスの火力を撃ち込んでくる。
カリナは一瞬だけ囚われる。
その一瞬に――
「――死んで」
ヒナワの超高威力弾丸を撃ってくる。
高火力の火砕弾。
当たれば跡形もなく吹き飛ぶ。
俺は叫ぶ。
「おらおらぁ!!」
幻術の根を断ち、カリナの視界が戻る。
「助かります!」
「任せろっ!」
セイレーンのマスクと眼鏡――
幻術の天敵は、俺のこの二つだ。
カリナはすかさず反撃に転じる。
「はあッ!!」
剣閃がヴラーナの頬を掠める。
「……ふふっ。やるじゃない」
ヴラーナは微笑みながら後退した。
「でも幻術が消されるのはムカつくわねぇ」
「だったらなんだ?」
「邪魔よ♡」
ヴラーナの瞳が深紅に染まる。
空気が歪む。
十重二十重の幻術が重なる――
「っ……お、らぁッ!!」
俺はマスクに触れ、全力で術式を叩きつけた。
喉が焼けるように痛い。
視界が揺れる。
だが――幻術は破られた。
カリナはすかさず踏み込む!
◆
だが――戦場で最も激しいのは、やはりソーとレイヴンだ。
レイヴンの拳が唸るたび、空気が爆ぜ、山々や木々が粉砕される。
徐々に悪ソーの闘争本能が強くなり、笑っていた。
「お前……いいな。
初めてかもなぁ、こんなに楽しい戦いは!」
「はッ、奇遇だな。
俺も同じこと思ってたところだ……レイヴィー!」
「その名前、今だけは許すぜクソ王子!!!」
二人が真正面からぶつかる。
だが、ここでソーは一段階ギアを上げた。
聖剣ラナが蒼光を放つ。
「《神王獣顕現・腕部強化》!!」
両腕に白い獣の“王の腕”が宿る。
魂が震えるほどの威圧。
レイヴンの眉が跳ね上がる。
「はっ―マジかよ!! そんなもん隠してたのか!」
「使ったら死にかけるけどな。本気のお前と戦うためだ!!」
その瞬間。
ソーの姿が完全に消えた。
「!!?」
レイヴンの記憶から、ソーの存在が一瞬だけ消滅する。
オボロの第二能力《朧纏い》。
次に見えたのは――神王獣の腕による拳。
「おらァァァ!!!」
轟音。
レイヴンの頬に拳が触れた――その瞬間。
「……ッ!?
こいつ……!! ……思い出したァァァ!!!」
レイヴンは――拳が触れる刹那の一瞬で、ソーの存在を“思い出し”、紙一重で回避した。
その動きはもはや、常人では目視すら不可能。
「ははッ!! こんな戦い、初めてだクソ王子!!」
「俺もだ、レイヴィー!!!」
レイヴンの赤い瞳が、じり……と細められた。
ソーの肩から流れる血、激闘の余韻、そのすべてが狂気を誘うように彼の笑みを深くする。
「……さて。そろそろ 本気 で殺し合おうぜ、クソ王子」
「望むところだよ。クソレイヴィー」
互いに笑う。
ほぼ同時に、二人の靴底が地面を削った。
音が消え、世界が爆ぜる。
◆
レイヴンの拳と脚は、もはや“拳”でも“脚”でもなかった。
強化された筋繊維の束が空気を破り、地形を抉り、爆音が遅れて耳を打つ。
ソーはそれを――
聖剣ラナと融合した腕で受ける。さらに
魔剣オボロの 朧纏い を足元へ展開、影のように揺らめいて回避し続けた。
赤と金と黒。
三つの光が絡み合うたび、大地が割れた。
「私に幻術使わせないとか、本当にあなたたちは勝手ねぇ」
背後ではヴラーナがカリナの聖光を捌きながら艶やかな笑みを浮かべる。
その幻術が発動するたび、俺は
セイレーンの眼鏡で術式の“ゆらぎ”を見抜き、
セイレーン・マスクの《呪言》で破壊する。
「――ッおらぁ!」
「解除した! カリナ!」
「感謝する!」
カリナの聖剣が光を裂く。
しかしヴラーナのステップは蛇のように妖艶で、寸前でかわす。
◆
だが――決着は突然訪れた。
レイヴンの膝が沈む。
ソーの魔剣オボロが、レイヴンの腹に深々と突き刺さっている。
「……はっ。クソ油断したなぁ、俺」
レイヴンは笑った。
血を吐きながらも、笑う。
ソーが息を整えながら呟く。
「これで……終わりだ」
だが次の瞬間。
聖剣ラナを構えるソーの“動き”を、レイヴンは読んでいた。
「――読めるんだよ、そういうの」
レイヴンは、突き刺さったままのオボロをものともせず、体を捻り聖剣ラナもろとも破壊する勢いで渾身の一撃を放つ。
聖剣ラナでの斬撃は、赤黒い腕で弾かれた。
だが、それもソーの――おとり だった。
「本命は……こっちだ」
突き刺さったオボロの柄を、ソーが強く握る。
一気に回転しながら引き抜く――。
赤黒い血が、派手に散った。
レイヴンの身体が――
上下に、完全に二つに割れた。
「…………やっぱお前最高だぜ、クソ王子……」
皮肉でも、悪意でもなく。
戦士としての、純粋な歓喜の声だった。
◆
その瞬間を、ヴラーナは“見て”しまった。
美しい赤目が、大きく見開かれる。
「……レイヴィー……?」
その声が震えた一瞬。
その一瞬だけ――彼女の幻術の膜がほんのわずかだけ薄れた。
俺の呪言がそれを削り取る。
「今だ!」
「……っ!」
カリナが迷わず踏み込む。
聖光を纏った一閃。
また幻術を発動して逃げようとするが、
俺が打ち消した、ヴラーナは諦めたように足を止め、立ち尽くす。
「はぁ…二対一なんてズルいじゃないの……」
その文句が言い切られる前に――
聖騎士カリナの剣は、迷いなく振り下ろされていた。
美しすぎる一閃。
ヴラーナの身体が二つに割れて、静かに崩れた。
「……レイヴィー…………」
最後だけ、優しい声だった。
◆
戦いが終わった。
大地には血と焦げ跡と、砕けた岩の破片。
ヒナワ封印の遺跡だけが静かにそびえる。
ソーは深く息を吐き、腰に差した 聖剣ラナと魔剣オボロ をかすかに撫でる。
「……帰ろうか」
「えぇ、帰りましょうか。」
カリナが微笑む。
俺は落ちていたアーティファクト《ヒナワ》を拾い上げる。
こうして――
俺たち三人は、血煙の中からヒナワを回収し、
ウルシア王国への長い帰路へと、静かに歩き出した。
──────────────────
また2ヶ月の旅、、、




