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フローラル王国物語

幾星霜も先ずは初めの一日から

作者: くろ

※注※ユルゆるふわフワ設定


【メガネを掛けた悪役令嬢】と同じ同年代同国フローラル王国設定。

【幾星霜も先ず~】の主人公アナベルだけが、年下で年齢が被らない。


 婚姻式から翌朝までの話。









婚姻式の日、夫と神に今世での愛を誓い、司祭様立ち合いの元で、婚姻誓約書に自分の名を綴り終えた時に、私は前世を思い出した。


 アナベル・ガトーと言う自分の名をサインし終わったその時に。


 そして思い出した。

 ここは恋愛小説《星霜を渡る恋船》略して(星恋)の世界に酷似していることを。



 星恋は、一途な男性の恋模様をヒーロー視点で、描かれた小説だった。



 主人公パトリック・ガトーは、学院時代に恋した女性と結ばれず、恋心を秘めた侭で別の女性と結婚した。だが運命の悪戯で結婚5年目に初恋の女性カミーユ・トルティ侯爵令嬢と運命の再会をする。 妻子への罪悪感に苦悩しつつも捨てきれない恋心。 軈て、戦争と言う運命の悪戯が起き、2人は互いの想いを確かめ合い付き合い始める。そして再会して12年目にして、互いに嫡子の重荷から解放され、やっと2人は結ばれるのだ。めでたしめでたし。



 ───その主人公パトリックの妻って、私じゃん。


 婚姻誓約書にサインを終えて、私は意識を失った。





 (こんなのって、あんまりだ!!)


 

 そんな私の内心での絶叫を知る人は居ない。











 婚姻式が終わった現在。

 私、アナベル・ガトー16歳。

 ガトー伯爵家へと嫁いだ。婚姻前は、アナベル・コルネ子爵令嬢だった。


 夫であるパトリック・ガトー様は20歳。

 1年間の婚約期間を経て、政略結婚をした。


 パトリック様の領地は、良質な葡萄畑を持ち、私の生家コロネ家は、祖父の代に神聖ロベリア教皇国からフローラル王国へと移り住み、ガラス細工で名を馳せ、国王陛下から父の代で子爵位を賜った新興貴族。(母は男爵家の6女の末娘だった。)

 新たな商品の共同開発で話し合う内に、気の合ったガトー伯爵とコルネ子爵(つまり私の父)は、互いの子供を結婚させることにしたのだ。

 (下位貴族令嬢が上位貴族である伯爵家嫡子との婚約で、面倒な婚約時期を過ごしたのは、また別の話になる。)


 我が家の後継は兄だし、2つ上の姉は他家へ嫁ぎ済み。

 4歳下の妹は、婚姻年齢に達してないので、選択の余地なく私がパトリック様と結婚することになった。から


 パトリック様は姉と妹に囲まれたガトー伯爵家の唯一の御子息。


 学院を卒業後、王立騎士団に所属し、王族を守る近衛騎士として王城に詰め、婚姻を機に退団し、父であるガトー伯爵領地運営を学ばれている。


 後継であるパトリック様が、何故近衛騎士をしていたのか。

 それはパトリック様が、見目麗しくフローラル王国では数少ない祝福持ちだった為、上から抜擢されたとのこと。

 (祝福持ち=魔力持ち)


 そしてバンエル公国から嫁いできた美貌の王太子妃殿下のお気に入りと言う噂だった。



 凛々しさの中に色気の在る切れ長な目に、森林を想わせる深い翠の瞳。

 艶やかな長い銀髪を後ろで1つに纏め、パトリック様は、緋色の騎士服を纏い、息を飲むその美しい容貌を惜しげもなく周囲に見せている。


 王城でも人気の近衛騎士だと言う噂だ。



 私と言えば、フローラル王国に多い茶髪に茶目の地味な容姿。


 オマケに4子で次女だった私は、パトリック様と違い王立ロイス貴族学院に通っても居ない田舎娘。


 下位貴族であるコルネ子爵家でも、長男である兄と長女の姉は、利益の3年分程度の学費が掛かる王立ロイス貴族学院へと入学させて貰えたが、次女の私と3女の妹は西洋海沿いの王領の一角に在る小さな領地で行儀見習いだ。


 友人たちからは、玉の輿だと羨まれていた。


 婚約が決まって1年の間、月に一度は王都で顔合わせをしていた時、少し距離を感じたけど、パトリック様の紳士的で優しい言葉に不安も薄れ、私は彼との結婚に胸を躍らせていた。



 それが──────


 (知らなければ良かった)とパトリック様の屋敷で意識を取り戻した私は、客室のベットの上で臍を嚙む。


 政略結婚だから恋愛感情などは期待して居なかったけど、私って5年後に浮気されるのよ。

 肉体関係は無いとしても浮気は浮気よ。

 しかも17年後には、私は病死するし。

 それを待ってたかのように2人は再婚しちゃうとか、全くふざけているわ。



 都合の良い事にヒロインの夫である第二王子で或るフェリクス殿下は、再会した8年後プロメシア王国との戦争で戦死してしまう。

 その4年後に私が病死。


 私とパトリック様の間に出来た息子はクライマックス時に12歳。

 夫の想い人であるカミーユ・ロル・トルティ女侯爵とフェリクス殿下との嫡男が15歳と次男11歳。

 (王族の血が入るとロルの称号が家名に付く。)

 互いに後継が育ち、2人が結ばれる事に生涯がなくなったのだ。


 恋愛小説《星霜を渡る恋船》では。


 パトリック様とカミーユ様はハッピーエンドでけども。 私とフェリクス第二王子殿下って可哀想な話だよね?普通に。


 パトリック様視点で書かれた不倫男の苦悩など知ったこっちゃない!

 

 よくよく考えれば、13年後の29歳で夫にも看取られずに、心筋梗塞で私は死んでしまうのよ。


 王都に住みパーティー好きな妻だと書かれてたけど、社交シーズンに王都でパーティーに参加するのは当たり前でしょうに。



 私は、小説の粗筋を思い出して、ムカムカする気持ちを押えられずにいた。


 そんな不愉快な思いを抱えた侭、私は侍女のナンシーに着替えを手伝われ、午前の婚姻式後の両家親族とのガトー伯爵邸で行われる昼食会へと向かった。






 

 



 そして初夜───で、ある。


 伯爵家の使用人たちにピカピカに磨かれて、今、夫婦の寝室で、豪奢なソファーに座りパトリック様を待って居る。


 超逃げ出したい!


 だって夫は、カミーユ様のコトを未だに思っているのですよ。


 私との婚姻を素直に受けたのも、学院を卒業したカミーユ様がフェリクス第二王子殿下との婚約を発表し、2年経った18歳でご成婚為さったから。

 どうやらフェリクス第二王子殿下の側近だったジルベール・アーシュレイ侯爵令息が、学院時代に才女で美しいカミーユ様を婚約者にと後押しされたのだとか。

 フローラル王国の建国以前から或る歴史あるトルティ侯爵家の一人娘で会ったカミーユ様と第二王子殿下であればと、陛下も納得されたという話だ。




 当たり前だが、婚約中にパトリック様から、そんな話を伺ったことはない。

 まあ「初恋」の話などしないのが普通だろうけども。


《星恋》では妻の心情など描かれていない為、私は私の気持ちをどうしようかと未だにパニック状態だ。


 小説通りのパトリック様ならば、愛のない妻を抱くことに、只今絶賛苦悩中だろう。


 私は前世の記憶が戻るまで、パトリック様にときめいて、素敵な彼と結婚が出来ることに深い幸福感を感じていた。


 だがしかし───


 遣り切れない。

 前世の私も報われない恋ばかりで28歳で未婚。

 学生時代に好きになった人は、自分の友人を好きになり、付き合い始めて、私はヒッソリと失恋。

 そして社会人に成って好きになった同僚は、長年友人以上に進展せず、気が付いたら入社したばかりの若い子と結婚して、人知れず私は失恋していた。


 そして生まれ変わった今世で、夫に成った人は、他に好きな女性が居て恋心を拗らせている。


 私の恋心って、報われない星でも背負っているの?


 玉の輿と呼ばれた私は、予定通り1年でパトリック様へ仄かな恋心を抱ている。

 しかしパトリック様は、小説《星恋》通りなら、今頃自室で初恋のカミーユ様を想い、悶々と私との初夜を過ごすことに悩んでいる。


 彼だって理解しているのだ。


 ガトー伯爵家の後継である自分とトルティ侯爵家1人娘であるカミーユ様とは、今世で結ばれない相手であることを。

 そして、小説で彼は、事情を知らない私を憐れんでいるのだ。



 勝手に憐れまれても腹が立ちますけどね。


 

 パトリック様の想いを知らなければ、私は勘違いして侭で彼をより深く愛したでしょう。

 元々がドストライクな容姿で、礼儀正しく優しい気遣いをして下さっていたパトリック様を婚約時代、会う度(好き)になっていましたから。


 そう。

 此れ程《星恋》の記憶が戻って、私の感情が激しく揺らされているのは、結局、パトリック様のことを好きになっていたから。

 認めたくは無かったけど。


 それに誰かを恋慕う気持ちは罪ではない。


 国教であるユリウス教の婚姻式では、魂の伴侶として相手を敬い、慈しみ、愛を持って支え合うと、主神に誓うけど実質、妻の不貞以外は、咎が無い。

 人の心だけは、信仰も俗世も関係なく、自由なのだから。




 心の中は、相変わらず感情の嵐が、吹き乱れている。

 私は溜息を落として、広い主寝室に飾られた大理石の装飾時計を見る。

 23時‥‥。


 風呂上りにガトー伯爵家の使用人から案内されて、明かりを灯された寝室に入り、豪奢なソファーへ腰を落ち着けたのは、20時過ぎ。


 夏至祭が終わったばかりだから、初夜用の心許ない薄手のナイトウェアーで居ても寒くはない。


 寒いのは、死ぬまでパトリック様から、愛さることがないことを知った私の心。


 こんなことなら下手に一年も婚約期間を過ごすのでは無かった。

 

 1~2度、顔を会わせただけなら、自分の想いを重ねなかったのに。 私は、此の世界の神を恨んだ。

婚姻式当日に、前世を思い出させるなんて、大概だ。私に如何しろと言うのだろう。

 ヒロインであるカミーユ様と第二王子殿下なら、戦争回避に動ける余地があるけど、一介の子爵令嬢で或る私には、何の力もないのに。



 考えが整理されない侭、私は室内を照らすオレンジ色の魔石ランプを眺めていると、「ガチャリ」とノブが回せらる音がして、左の重厚な扉が開き、夫のパトリック様が藍色の夜着を纏って入って来た。



 「遅くなった。済まない。未だアナベルは横になっていなかったのか?」


 掠れ気味な声でパトリック様は、ソファーと対になった猫脚のテーブルの近くまで、室内履きで歩いて来た。



 「あ、あの。パトリック様‥‥。」

 「うん?」


 突然のパトリック様の登場と言葉に気が動転して、思わず私は彼の名を呼び、続ける言葉を失って、ハクハクと唇を開いたり閉じたりしてしまった。

 口の中が渇いて、息が苦しい。


 「アナベルは緊張しているかい?」

 「‥‥は、ハイ。」

 「実は、私も緊張しているのだよ。調度いい。 ワインを持って来させよう。 ウチの領で作っている白ワインなんだ。ワイングラスは、勿論アナベルの所で造られた物だよ。 」


 そう言うとパトリック様は、飾り棚に置かれた呼び鈴を鳴らし、寝室の控室に居た使用人を呼んだ。



 暫くすると左隣のパトリックの部屋から、彼の従者が使用人と共に、白ワインの入ったディキャンターと我が家特製の薄く硬質なワイングラスをカートで運び、香りの立ったワインをグラスへと注いだ。

 ローテーブルの上へカートに残っていた違う種類のワインボトルを静かに置く。



 「注いだワインは婚約した年に作られた物でございます。」

 「僕も試飲した。若過ぎるけど飲み易かったよ。」

 「い、いただきます。」



 緊張で口の中がカラカラに乾いていた私はステイを持ち、薄いワイングラスの縁へ口を付け、コクリと透明な緑がかった淡い黄色の液体を口に含み、味わうのも忘れて嚥下した。


 パトリック様は、1つに結んでいた銀色の長い髪を解き、風呂上がりで乱れた前髪を手櫛で整え、胸元が開いたローブに身を包み、何とも言えない大人の色気を漂わせ、向かい合ったソファーに座っていた。

 水は滴っていないが、イイ男過ぎる。


 さっきまで軽いパニック状態だった筈なのに、余りにも美麗なパトリック様を間近にして、違う意味でドキドキとする鼓動に驚き、飲み干したワイングラスをテーブルに置き、反射的に私は顔を伏せた。



 

 「葡萄の出来を味わうヌーボーはフレッシュで飲み安いね。アナベルも気に入って呉れたみたいで嬉しいよ。」


 

 柔らかな低い声で、そう話すとパトリック様は、デキャンタ―を持ち、私と自分のワイングラスに丁寧に二杯目の白ワインを注いだ。


 

 「今日は疲れただろう。アナベルは緊張で気を失った後に、両親たちや姉夫婦と妹たちとの昼食会もあったからね。」

 「い、いえ。教会ではご迷惑をお掛けしました。も、もう大丈夫です。」



 私は慌てて気遣う優しいパトリック様に詫び、伏せていた顔を上げ、小さなテーブルに向かい合って座る彼を改めて見る。


 月に一度の交流会やパーティーで婚約者としてのエスコートは、パトリック様にしていただいたけど、2人きりでこんな間近で向かい合うのは初めての経験で、しかも礼装では無く、薄いローブが開いた首筋や胸元の肌が露わに見えて、余りの色気に私の息が苦しくなり、呼吸が荒くなる。


 お、落ち着かねば。

 パトリック様との関係をどうするのか考える筈だったのに、素を見せても美しいパトリック様に私の脳は混乱し、気が付けば注いでくれた3杯目のワインをゴクゴクと飲み干していた。


 いえ、ワインを飲んでいる意識など無かったと思う。



 どうしようどうしようと言う言葉だけが脳内を駆け巡り──────





 ──────目覚めたら、朝に成って居た。


 うっぷ、、、気持ち悪い。

 頭が痛い。



 だだっ広いキングサイズのベットの上で、肌触りの良い掛布に包まれて、瞼に眩しさを感じ、私は躰の不調を抑えて、完全に目を覚ました。



 ‥‥‥やっちまいました。

 パトリック様は、酔っぱらった私のバージンは奪わなかったようだ。

 下着は昨夜の侭だし、下半身に違和感はない。


 私はムクリと上半身を起こし、昨夜2人で飲んだワインテーブルを見ると、綺麗にワインやグラスなどが片付けられ、小さなテーブルは部屋の片隅の壁際に移されていた。


 ベット近くのサイドテーブルには、水差しとグラスが用意されている。



 新婦が飲み過ぎて初夜をキャンセル!!

 有り得ないでしょう!わ・た・し!


 小説でも無かったシチュエーションだわ。

 《星恋》では、主人公であるパトリック様が、ヒロインであるカミーユ様と今生で結ばれない事を覚悟して、哀れな怯えた小娘の新妻を淡々と貴族の責務として抱くのだ。


 先ず、初夜に夫婦二人が寝室で、ワインを飲むと言うシチュエーションなどなかったし。

 私はロストバージンを免れた。

 前世は享年28歳で処女だったし、今世は16歳で、未だ処女だし。

 この侭、私は片思い癖と処女が、熟成されていく気が。でもまあ処女ってワインと同じで腐らないのよね。男の童貞は聖職者になるけども。今世では、ホントに魔法使いに成れる。


 もしかして小説と違って、此の侭白い結婚が続き、私はお飾り妻になるのかしら?


 それはそれで悲しい。

 

 昨夜のドクリドクリと、胸を脈打ち息苦しくなる程、魅力的だったパトリック様の姿が、私の脳裏を過る。


  (もうパトリック様から求められることが、無いのだろうか。)



 二日酔いで痛む頭に右手を当てながら、天蓋のカーテンが開かれ、窓から眩い午前の光が差し込む、寝室に置かれた大理石の飾り時計を見る。


 既に朝の8時を過ぎていた。


 実家のコルネ―家なら、朝の支度を終え、家族で祈りを朝の捧げ、朝食を終えている時間だ。


 新婚初日に、二日酔いで寝込んでいる場合ではない。

 私はベッドサイドに在る呼び鈴に手を伸ばそうとした時、パトリック様の部屋が或る左の続き扉が開き、従者たちと一緒にミルクやチーズの薫りをさせて、彼が入ってきた。



 「おはよう。アナベル。朝食は食べれそうかい?」


 心配げな様子で体調を気遣いパトリック様は、朝の挨拶をしてきた。


 左隣のパトリック様の部屋から持ち運んだテーブルを従者の指示を受け、メイドたちが窓際で組み立て、白いテーブルクロスを掛け、銀蓋(クローシュ)の掛った朝食とティーポットをカートからテーブルに移して居た。


 水を飲んで吐き気は大分収まったけど、未だ食べ物を口に出来る気がしない。

 それに寝室で食事を摂るなんて。



 「おはようございます、パトリック様。昨日の婚姻式と言い、昨夜の‥ゴニョゴニョ‥‥‥申し訳ありません。次期当主のパトリック様に何て詫びれば良いのか。」

 「体のことはどうしようもない。気にしないで。夜は───まあ、調子に乗って飲ませ過ぎたのは僕だからね。アナベルは本当に気に病まないでくれ。」

 「あ、お気遣いありがとうございます。あのパトリック様?朝食を寝室で摂られるのですか?」


 「ああ、あれか。ここガトー伯爵領のあるレザン地方では、初夜の翌日の朝食は夫が用意する風習があるんだ。これをしないと円満な夫婦生活が送れないらしいよ。父も母に朝食を用意したし、祖父母たちもそうしたと話していた。縁起を担ぐつもりで僕も運ぶのを手伝った。一応シェフに昨夜、僕が考えた朝食のメニューは伝えて置いた。アナベルとは仲の良い夫婦でありたいからね。」


 「仲の良い夫婦をパトリック様は、私に望んで下さるのですか?」

 「えっ!?」

 「あっ!!」



 私はポロリと零れ出た言葉に気付き両手で口元を抑えた。

 

 パトリック様は私の言葉に驚き、怪訝な顔をして深い翠色の瞳を向けた。

 そして従者やメイドたちを立ち去らせ、ベットの端へと腰を掛け、私を見つめ、ゆっくりと口を開いた。



 「それは、どういう意味だろうか?アナベル。」

 「い、いえ申し訳ありません。失言を‥‥。」


 「そう?当然僕は、妻である君と仲の良い夫婦に成りたいと思っているよ?何か不安にさせる言動を僕はアナベルにしたのだろうか?もしかして婚姻式で君が気絶したのも?」


 「いえ、いえ。パトリック様の所為では。」

 「僕とアナベルは昨日夫婦になったよね。」

 「えっと、はい。」

 「僕は20年の人生。アナベル、君は16年の人生。それぞれが別々の人生を歩んで来た。」

 「は、はい。」

 「それが神の導きで、昨日僕たちは夫婦に成った。まっ、昨夜は事情があって、一つには成れなかったが。コホッ。2人で夫婦として生きる誓いを立てたよね。」


 「は、はい。えと、申し訳ありません。その飲み過ぎてしまい失態を。」



 失言に慌てふためき、私はパトリック様の言葉に混乱した答えを返した。



 「いや、アレは僕の責任だ。んー、そうじゃなくて。僕は、アナベルの気持ちを話して欲しい。何が不安なのかがね。夫である僕は、妻の不安を取り除きたいんだ。」


 ベットで座っている私に近付き、パトリック様は凛々しい深緑の瞳で、わたしを覗き込む。



 「互いに言葉を交えて信頼し合える夫婦になっていこう。アナベルの想いを僕に教えて欲しい。」




 とんでもない失言に焦っていた私に、低いけど甘く優しい声で、パトリック様は私の不安を知ろうとして下さっている。


 尋ねても良いのかしら?

 パトリック様に──────










◇◇◆





 酔っぱらったアナベルが、僕の心臓を貫く、管を撒く。


「どうせ妻の私じゃなくて、初恋のカミーユ様を愛している癖に!」

「私なんて2人の恋愛のスパイスですよーだ!!」

「夫婦に成ってもカミーユ様と再会いたら私なんて放置妻にする癖に。アンポンタン!馬鹿!嫌い、、、に成れない。うわーーーん。何で素のパトリック様も格好良いのよ!素敵だし。優しいし。私を愛せない以外は全部最高なの。嫌いになんてなれないよー。わーん、私の馬鹿!!」



 寝室に入るまでカミーユへの想いで、悩んでいた僕を知っていたかのようなアナベルの言葉に、衝撃を受けた。


 僕を責めるようで、結局はアナベル自身「私の馬鹿」と悔いる言葉を呟き、軈てソファーに凭れ、セリフが寝息へと変わり、小さな彼女を抱えてベットに横たえてた。


 「好きになったもん。」



 そう呟いたアナベルが可愛らしく思えて彼女の隣で添い寝をした。



 第二王子と婚姻して昨年男児を出産したカミーユを未だにグダグダ思い続けていた僕に、ぶっ飛んだパンチを繰り出して来たアナベルのお陰で、僕はしっかりと自覚した。


 僕は、アナベル、君と夫婦になったのだと。


 カミーユへの想いは、未だ消すことは出来ないけど、君の言うようなことは起きなよ。恐らくね。


 再会しても、学院での後輩として接すると思う。


 今は、君が酔っぱらって話した未来の僕たちのことに興味が尽きない。


 流石に、こんな状況で君を抱けないから、明日はそのことについて如何聞くか今夜は考えよう。


 ああ、そうだ。

 両親や祖父母たちが行った慣習、初夜の翌日の朝食を僕たちも用意して貰おう。

 僕は側近のジュストを呼び、シェフにパンがゆとミルクスープ、ハチミツとチーズのクリームプリュレなどの朝食を頼む。



 レザン地方のこんな風習を妻に成ったアナベルと共にするつもりは無かったのに。


 あどけないアナベルの寝顔を見つつ、僕はすっきりとした思いで、この興味の尽きなくなったアナベルと摂る朝食に想いを馳せて、口元が緩むのを感じた。



 そして僕は、僅かに左頬へ掛っていたアナベルの柔らかなライトブラウンの横髪を、そっと小さな左の耳朶へと整え直した。



 さて、目覚めたら先ずは夫婦で朝食を食べよう。

 これから2人で生きて行く為に。






【完】


 

西方ユリウス教会での第一身分の聖職者 (教会は司祭以上、神殿は神官と聖女)



祝福持ち=5つの属性魔力持ち〔火・水・土・風・光〕

聖職者になるには13歳で俗世と縁を切る誓約が必要(但し、男性で4属性の祝福持ちに限る)

 4属性魔力〔火・水・土・風〕⇒教会所属

 光属性魔力⇒(光)神殿所属  ※婚姻可、男女可

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