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釜山の司祭  作者: 花火
檸檬色の壁、海風、笑い声。
20/21

第四章5 信仰

日曜日。

一緒にミサをしようと言ったセバンに従い、信徒たちの前に立つことに決めた。


聖堂に入ると、信徒たちのざわめきがリョンインを迎えた。いつもより人が多い。彼の復帰を知り、興味本位や怒りを抱えて集まった信徒たちだ。


リョンインは、祭壇の前で静かに十字を切った。その隣に立つセバンは、いつものように穏やかで、しかしどこか挑戦的な微笑みを浮かべている。ミサが始まった。


静寂が訪れるたびに、後ろから小さな囁きや笑い声が届く。

「…よくも戻って来られる」「ホモ野郎」 「司祭を辞めるべきだ。馬鹿にしている」

リョンインは、微動だにせず、聖書を読み上げた。

言葉の一つ一つが震えながらも、確かに響いた。


説教の時間。

リョンインは顔を上げる。集まった信徒たちをまっすぐに見つめた。


「…私は、罪を犯しました」

ざわめきが止む。

信徒たちの視線が、一斉に彼に突き刺さる。


「一人の男性を愛し、その関係を神の前で隠し立てし、ずっと告白できませんでした」

その瞬間、教会全体が息を呑む音がした。

やがて小さなざわめきが膨らみ、

それは怒りと嫌悪のうねりへと変わった。




「非常識だ!」

一人の年配の信徒が立ち上がり、激しい剣幕で叫んだ。

「狂ってる! 何を教会の場で――」

セバンが、ゆっくりと口を開く。

「なぜですか?」

「なぜだと?」

男の声が裏返る。


「なぜ私がそんな奴から説教を受けなきゃならん!あいつは病気だ!」

隣の娘が「お父さん、やめて」と袖を掴むが、男は振り払って出て行こうとする。


教会を出ていく信徒にセバンは叫ぶ。

「彼は確かに罪を犯した。でも、愛することは罪じゃない」


その言葉に別の男が立ち上がり、怒号を上げた。

彼は祭壇へ駆け寄り、リョンインの胸倉を掴んだ。


「変態め。聖書に書いてあるだろ!汝、女と寝るごとくに男と寝るなかれ」


叫ぶ信徒を前に、顔をそらして目を瞑ってしまうリョンイン。

「目をそらすな!クソ野郎!」


会衆席に座っていたマリアが駆け寄ろうとする前に、セバンが二人を引き離す。

「主は姦淫を罪とされただけだ。

そして、罪を犯さない人間など居ない。では、貴方は愛する人と悦楽のためにセックスをしたことがないと?愛するものを守るために、蓄財をしていないと?」


強く静かに言うセバンを前にしても男の怒りは止まらない。男は顔を真っ赤にして叫んだ。

「わたしの信仰を馬鹿にするな!」


セバンは一歩前に出た。

「戒律は、人の罪を裁くために或る訳ではない。

自らの心に向き合い、毎日の奇跡を一つ一つ拾い上げ、感謝をし、後悔をし、より良くあろうとする自分のためにある。


――わたしたちは神を信じているのか?

それとも、バチカンの言葉を信じているのか?」


セバンの言葉は、重くて強かった。矛盾する信念を許容できる彼はだからきっと人に優しくあれるんだ。


「わたしたちは考え生きているから悩み、罪を自覚することができる。ただ決められた規則に従うだけなら本能に流される獣となにが違う」



「詭弁だ! そんなに自分でものを考えたいなら、司祭を辞めて、カトリックを辞めて、好きに地獄に落ちればいい!」

理解し合えないとばかりに、男は首を振り、怒りを露わに教会から出ていく。

続くように、次々と出ていく信徒たちに向かってセバンは問いかける。


「主は人を従わせるためにあるのではありません。自らに向き合い、より良くあろうとする私たちの為に居てくださるのです。」


沈黙。

残った人々は、リョンインを受け入れているわけではないだろう。

だが、拒絶しきれずに立ち尽くしている。

それでも、セバンは問いかける。


「彼は、自らの過ちを偽らず、ここで皆に告白する誠実さを選んだ。そんな彼を、神の子に近づけないと誰が思うという」


そして、セバンはリョンインに聖体の儀式を続けるよう、ゆっくりと頷いた。


リョンインは聖体を掲げる。

蝋燭の炎が、その白いホスチアを照らす。

まるで、小さな光が闇の中に上るようだった。






次のエピローグで最後です。

投稿してる中で、10人くらいの方が毎話読んでくれているのが分かって励みになりました。うれしいです。

序盤がのんびりしてたと思うのですが、(あと、ちょこちょこ間違いとかもあったり、後から直したり、後書きと前書き間違えていたり)脱落せずにここまでお付き合いありがとうございました!

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