第三章1 よるの祈り
夜の祈りを終えると、リョンインは、寝支度を整えながらも、すぐには灯を落とさなかった。
リョンインは布団の中に身を沈めることもせず、ただベッドの上に仰向けになり、白い天井をぼんやりと見つめていた。
あのソウルの旅以来、ソジュンからのメールや電話が増えた。
彼の声音や文面には、もはや遠慮というものがなく、明らかに恋人としてのそれであった。
結局、元に戻ってしまった。
――これでは、7年前の繰り返しだ
今は、僕が許したがらないその先も、いつしか彼は焦れるだろう。
きっと、ソジュンは今まで望んだものは全て手に入れてきていた。彼にはその自分勝手さと強さがあった。
こんなことを、今さら心配している自分が滑稽に思える。再会して“友達でいいから”と言われたときに、すでにこうなる未来は始まっていたのに。
その自分にとって優しいだけのうわべの言葉に、わざと酔っていたのだ。
ソジュンという男は、常に僕の世界をゆっくりと侵していた。
彼はいろんなものを巻き込んで、壊して、自分のエネルギーの一部にしてしまう。そういう人だと思う。
普段は、気安く、こちらに気負いさせない居場所を作ってくれる。
それにつられて、決定的な一歩を与えたのは自分だった。
でも、きっと彼がいざ決意すれば、全て望む通りに強引に思い通りにする。
僕はまた、選択をしなくてはいけない。
7年前、僕は本当に選んだのだろうか。あれはただ、逃げただけだったのではないか。
先週、2か月ぶりにソジュンが訪ねてきた。
その時は、海へ向かう道を少し遠回りして、海沿いの廃墟化したマンションの前を通った。
入口の門にかけられたさび付いたチェーンを乗り越え、中に入ろうとするソジュン。
「駄目だよ。人いるから」
「空き家だろ?」
「危ないよ。勝手に住んでる人がいるんだ」
「少しだけ」
言うが早いか、ソジュンは足を踏み入れていった。
仕方なく後を追う。
入った中の一室は、ベランダのガラスが外されて、土や草が風に揺れていた。
そのベランダから海を覗くと、いつか見たように、海の向こうの高層ビルがやっぱりキラキラと光っていた。
「リョンイン」
後ろから抱きしめるソジュンが耳元に熱い息を吹きかける。
「だめだって」
拒むと、ソジュンは「わかってる」と言いながらも、服の下に手を差し入れて腹を撫でた。
その手のひらは熱を持ち、触れた部分にわざわざそれを伝えてくるようだった。
その感触を、何度も思い出してしまう。
ソジュンからの触れ合いを拒みながらも、部屋の中でひとりになると、それを思い出しうずく後ろの感覚を慰めていた。
既に罪悪感と恥にまみれているのに、いつまでも拒んでいる自分など意味のないもののように思えた。




