婚約破棄された貴族令嬢、波動砲で物理的にざまぁ
「おほほほほほほほ――! だれが婚約破棄された哀れな令嬢ですって? 貴方たち、今に見てなさい!」
今日も麗しき令嬢――だったはずの私、カミラ・エインズワースは、無人島の波打ち際で高笑いしていた。背中には泥だらけのドレス、足元は裸足、手には謎の金属片。その目はどこか狂気じみて光っている。
「貴族社会から“不要”だなんて言われたって、私は負けませんわ! 無人島追放? 絶望? 笑わせてくれる!」
初日は泣いた。二日目は怒った。三日目、海岸で転がる巨大な金属の塊を見つけて――運命が、回り始めた。
「な、なにこれ……戦艦……?」
島の洞窟に隠されていたのは、常識では考えられない巨大な宇宙戦艦。なんとAI搭載、自己修復機能つき。しかも、主砲の設計図らしきものまで!
「よろしい、ならば開発よ!」
ここから――淑女の本気が始まった。
手始めに、洞窟内の戦艦構造を徹底的にスケッチ。異星金属の材質をルーペで観察、硬度を即席で拾った石英片と摩擦して計測。
「比重……電磁反応……結晶格子が鉄と違いますわね。これはおそらく単結晶チタン合金。しかも超高密度、これが外殻装甲……!」
自己修復システムのコアを分解。
「なるほど、自己組織化ナノロボット。分子レベルで配線の再構築まで……ああ、見惚れてしまいますわ!」
回路解析には指輪のルビーを外して即席のルーペとして使用。エネルギー供給系統は“ゼロ・ポイント・モジュール”なるものが中心に据えられていた。
「ええと、プラズマ冷却回路……これ、どう見ても陽電子流。出力制御はベリリウム銅素子、しかも全自動相転移式!まるで夢のような設計ですこと!」
次はインターフェース。
「OSは……古代文字? でも論理構造は標準的な機械学習型ニューラルネットワーク。コマンドラインで直接叩いて……よし、起動!」
画面にずらりと並ぶプロンプトから波動砲の設計図にアクセス。
「高密度エネルギー収束砲……波動粒子の加速率、10の8乗倍……! 圧縮フィールド安定化、発射シーケンスは三重冗長。安全装置は……外せるね!」
三日三晩、寝る間も惜しんで改修・整備・調整。髪はボサボサ、でも瞳はメラメラ。
気づけば艦橋、エンジン、重力制御装置……全て蘇る。貴族淑女の指先は、今や超文明の艦長のそれ。
「ふふ、いよいよ最終段階……!」
カミラは艦橋の司令席にどっかり腰かけると、端末に命じた。
「全世界通信――オープンチャンネルで!」
人口音声が響き渡る
「全世界へ向けて、超高出力ブロードキャスト回線、開放します」
全地球規模で、空の彼方の戦艦から通信波が放たれる。王都、世界各国の議事堂、すべての情報端末、街頭モニター――どこも彼女の顔が映し出された。
「全世界の諸君、そして特に“私を追放した貴族諸侯”の皆さま。
これより、あなた方に最後の機会を与えますわ。
私、カミラ・エインズワースは、いまより3時間後、波動砲による“粛清”を開始します」
令嬢スマイルで、余裕の高笑い。
「今すぐ降伏を宣言し、全財産と支配権を私に明け渡すのであれば、
直ちに発射を停止してあげてもよろしくてよ!
猶予は3時間――。降伏の意志ある者は、即座に全世界通信で意思表示をなさい!」
「それでは、楽しい“決断の時”をお過ごしくださいませ。
おほほほほほほ!」
沈黙する世界。あらゆる都市で通信が一時停止し、王宮でも会議室でも、貴族たちが顔面蒼白でスクリーンを見上げていた。
「ま、まさか、冗談だろう……」
「新手の魔導兵器か? この令嬢、何者だ!?」
「やつが無人島に捨てられた娘だと……そんな馬鹿な!」
重鎮たちが動揺と焦燥にざわめく――。
*
カミラは時計をちらりと見て、小さくため息をついた。
「正直、待つのも退屈ですわね……。どうせあの方たち、すぐに決断できるはずもありませんもの」
細く微笑み、指をぽきぽきと鳴らす。
「それなら……そうですわね、とりあえず――」
「さて、ここで一発、現実を見せて差し上げますわ」
カミラが艦橋の窓から、貴族都市リーベルブルクを指さす。
「波動砲、試射!」
「エネルギー充填完了。目標、地方都市リーベルブルク。ロックオン」
「さあ、よくご覧なさい! これが新しい秩序の幕開けですわ!」
「発射――ッ!」
波動砲が唸りを上げ、蒼白い光が一直線に都市を貫いた。その瞬間、リーベルブルクの街並みは眩い閃光とともに大地から抹消された。
「う、嘘だろ……」「街が、一瞬で消えた!?」
「な、なにが起きているんだ!?」
「誰か! この怪物を止めろ、何でもいい! すぐに停戦を――!」
「降伏だ、降伏だ! 全面降伏だ! すぐに連絡を回せ!」
「王都はもう終わりだ……!」
人々はパニックに陥り、王族や貴族は互いに責任を擦り付け、通信回線は各地からの緊急連絡であふれかえる。
だが。
カミラはもう一度時計をチラリと見て、肩をすくめる。
「うーん、まだ十分も経っていませんの? 本当にみなさんのろまですこと!」
小さく溜め息をつき、唇を尖らせる。
「退屈ですわね……待ってるだけなんて性に合いませんもの」
「やっぱり、やるなら一気に派手にいきたいですわ!」
ぱっと艦橋の正面に手を伸ばし、宣言する。
「艦載AI、全目標のロックオン、波動砲エネルギー最大出力でお願い!」
艦載AI「全世界主要都市、元・婚約者領地、各貴族拠点――すべてロックオン。波動エネルギー充填、120%」
島を包む嵐が止み、空が割れる。宇宙戦艦グローリアス・レディ号、その艦首が光を集める。
カミラは笑顔でくるりと椅子を回す。
「さあ、皆さまごきげんよう! お返事は――けっこう! もう待ちきれませんので、全部まとめて――なぎ払いますわぁぁぁ!!」
世界中の通信回線が、阿鼻叫喚で溢れかえる。
「ちょ、待て! まだ猶予が……!」
「やめろ、こちらは降伏の準備を……!」
「通信回線が! 間に合わない! 救援を――!」
「王宮から緊急通達、いま……!」
「な、なぜだ、まだ時間が……!!」
カミラはそんな混乱も意に介さず、にこやかに指を振り上げる。
「波動砲、全砲門――発射ァッ!!」
青白い光線が大気を裂き、王都を、貴族たちの屋敷を、地方都市を、大地ごと、全て――なぎ払う。
「ざまぁみなさい!!! おほほほほほほほ!!!」
令嬢の勝利宣言は、世界中に轟き渡った。
「全目標、消滅を確認。おめでとうございます、カミラ様」
「見た? これが“不要”な女の底力ですわ!」
――こうして、世界地図から消えた元王都の跡地で、カミラは新たな支配者として女王の椅子に座る。
なお、彼女を裏切った婚約者はきっちり跡形もなくなったという。
脳みそをからっぽにして読んでください。