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海洋性ロゴス・ウイルス(L-Virus Type-M)に関する脅威分析レポート

 レポートID: 8C-RA-MEH-AAR-6-01

 作成部署: 文明復興庁 海洋環境・IBH対策室

 作成者: 海洋情報生物学者 [編集済]

 発行日時: 大沈黙後


 1. 発見経緯と概要

 L-ウイルス Type-M(Marine Type)の存在は、南海トラフ超巨大地震後の漂着物調査によって初めて公式に確認された。その起源は第七人類末期、旧海洋研究開発機構が極秘に進めていたある実験に遡る。彼らはL-ウイルスの「抗体」を、遺伝子操作した海洋プランクトンに生成させようと試みた。


 この実験は、壊滅的な形で失敗した。ウイルスは無力化されるどころか、プランクトンの単純な神経・遺伝子構造を新たな宿主として適応、変異を遂げたのだ。結果として、自己増殖能力を持つ安定した海洋性の感染経路が確立された。


 2. ウイルスの特性

 A) 感染媒体

 主な感染経路は、Type-Mに汚染された海洋生物との直接的な接触、あるいはその捕食である。高濃度汚染海域においては、波飛沫や大気中の水蒸気ですら感染媒体となりうる。


 B) 感染症状:「海の呼び声(サイレン・コール)

 オリジナルのL-ウイルスとは異なり、Type-Mの第八人類に対する直接的な致死性は低い。短期的な曝露で重度のGPAを発症する事例は稀である。しかし、長期的かつ低レベルの曝露は、特異な精神汚染を引き起こす。被験者は、海から微かだが美しい「歌」が聞こえると報告し、その歌に導かれるように海へ帰ろうとする強烈で非合理的な衝動に駆られる。我々はこの症状を「海の呼び声」と呼称する。


 C) 生態系への影響

 Type-Mは、この星の生態系そのものを書き換える環境形成エージェントである。それは宿主であるプランクトンを自己組織化させ、大陸規模で生物発光する準知性体、いわば「思考の海」を形成する。また、より高次の海洋生物の遺伝子に干渉し、「情報鹿(データ・スタッグ)」に見られるような情報と生物の新たな融合種を生み出す触媒となっている。


 3. 脅威評価と、今後の課題

 Type-Mの本質的な脅威は、我々という種の「絶滅」ではない。それは「同化(アシミレーション)」である。ウイルスは我々を殺そうとしているのではなく、自らが作り変えた新しい海の生態系へと「勧誘」しているのだ。


 そして、この脅威は封じ込めが不可能だ。この星の七割以上を覆う海に対して、我々は壁を築くことができない。全ての海岸線が、今や最前線の汚染地帯と化した。


 特筆すべきは、陸上で変容したH-住民たちが発する「ハミング」と、Type-Mに汚染された海洋生物たちが発する光や音のパターンに、強い構造的類似性が見られることだ。全く異なる二つの「進化」が、なぜか同じ一つの「歌」へと収斂(しゅうれん)し始めている。この理由は現在、不明である。


 4. 結論

 L-ウイルス Type-Mは、我々の大沈黙に対する戦いが新たな段階に入ったことを示している。敵はもはや過去の幽霊だけではない。それは生きて、呼吸し、そして進化し続ける惑星規模の知性だ。


 それは悲鳴を上げない。歌を歌う。そして我々を故郷へ帰ってこいと呼んでいる。我々はその歌に抗う術を見つけなければならない。さもなくば、我々の文明は、静かな最後の引き潮に全て洗い流されていくだろう。


(この報告を受け、復興庁は、全ての沿岸地域に対し、無期限のレベルII情報ハザード警報を継続している)

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