文明復興庁 事後調査報告書:南海トラフ巨大地震による複合災害と、その長期的影響について
レポートID: 8C-RA-AAR-LEVIATHAN-01
作成者: 第4分隊長 [編集済]
発行日時: 大沈黙後 9.9年
対象事象発生日: 大沈黙後 8.9年
1. 事象概要
約一年前、南海トラフ全域を震源とするマグニチュード9.1の超巨大地震が発生した。それに伴い、旧日本列島の太平洋沿岸部は最大三十メートルを超える大津波に襲われた。
しかし、第二次バベル協定に準拠した静かで秩序ある我々の避難プロトコルは極めて有効に機能し、第七人類時代の同規模災害シミュレーションと比較して市民の人的被害は九十九・八パーセント減少した。物理的な災害対応において、我々の社会の優位性は証明されたと言える。
2. 主要災害:沈黙の氾濫
しかし、物理的な被害は本災害の序章に過ぎなかった。
真の脅威は、津波が陸地、特に沿岸部の都市遺跡から数百万点に及ぶ第七人類の情報生物ハザード(IBH)を根こそぎ引きずり出し、海洋に放出したことであった。我々はこの、第七人類の「言葉の亡霊」が海洋に拡散した事象を『沈黙の氾濫』と呼称する。
この一年間、水没した書籍、破損したハードディスク、腐食したサーバーといった汚染された瓦礫が世界の海流に乗り、各地の沿岸部に漂着し続けている。その結果、物理的な津波被害を免れた複数の沿岸コミュニティが、漂着物から微弱ながらも持続的にL-ウイルス・パターンに曝露され、新たに『サイレント・ゾーン』へと変貌した。
3. F.C.E.U.による対応と、新たな発見
我々、第一次接触調査部隊(F.C.E.U.)の任務は、この一年で大きな変容を遂げた。もはや我々は遺跡の探求者ではなく、汚染された海岸線を浄化する危険な清掃員に他ならない。
そしてその清掃作業の過程で、我々は最も憂慮すべき発見をした。
旧海洋研究開発機構の深海データ保管庫から流出した記録媒体の中に、第七人類がその末期においてL-ウイルスを海洋プランクトンに感染させるという、常軌を逸した実験を行っていたデータが含まれていたのだ。彼らはウイルスの「抗体」を海洋生物に生成させようとしたらしいが、結果は真逆だった。ウイルスはプランクトンを新たな宿主として適応、進化したのだ。
この微弱ながらも自己増殖能力を持つ『海洋性L-ウイルス』は、今も世界の海を静かに漂い続けている。
4. 長期的影響と結論
南海トラフ地震は物理的な災害に対する我々の社会の強さを示したが、同時に第七人類の「罪」がいかに深く我々の星の土や水にまで染み付いているかを思い知らせた。
海はもはや生命の源ではない。我々にとってそれは巨大な記憶のスープであり、いつ牙を剥くかわからない休眠状態の脅威と化したのだ。
我々は彼らの幽霊の上に生きている。そしてその幽霊は時折、こうして海の底から我々に手を伸ばしてくる。
(この報告書は、沿岸部における無期限のレベルII情報ハザード警報の発令と共に、全セクターに通達された)




