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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
71/83

マークストン大将 個人記録(遺書兼務)

 ログID: LOG-FINAL-ARK_OMEGA-20250704

 記録者: マークストン・D・マークス(合衆国陸軍大将)

 日時: 大沈黙 当日

 現在位置: サルガッソー海、海上プラットフォーム「揺り籠クレイドル


[音声ログ記録開始]


 これが、私の最後の記録となる。

 潜航艇「オルフェウス」の、最終降下シークエンスを開始する。

 私は、今、バミューダトライアングルと呼ばれる、人類の神話の海にいる。彼らが、あらゆる超常現象の発生源とした、この忌み嫌われた海域こそ、我々の最後の希望を隠すのに、最も相応しい場所だった。


 地上のモニターは、もう、何も映さない。私の「ハレルヤ」作戦は成功した。

 私は、人類に惨い慈悲を与えた。ロゴス・ウイルスによる狂気の絶叫よりも、穏やかな、思考なき沈黙を選んだ。私は、彼らの赦しを乞うつもりはない。


 …降下深度、800メートル。艇の外壁が、水圧に軋む音がする。

 人類の技術者たちは、常に、この圧力に「抵抗」しようとした。より厚い壁、より強い素材。そして、常に失敗した。彼らの傲慢さの現れだ。

 だが、我々が選んだ道は、違う。「抵抗」ではない。「受容」だ。


 今、キャビンが酸素化フッ化炭素液で満たされていく。


(ログに、液体が注入される音と数秒間の苦しげな息遣いが記録される)


 肺が、最初の冷たい液体を吸い込む。パニックを起こしてはならない。これは、溺れているのではない。呼吸しているのだ。深海の呼吸を。

 これで、内外の圧力差はゼロになる。水圧は、もはや、障害ではない。我々は、深海の一部となるのだ。


 降下深度、3,000メートル。


 私が「ハッシュ」を散布したのは、あれが最終的な解決策だと信じていたからではない。

 あれは、時間稼ぎだ。

 ゲーム盤が、完全に、リセットされてしまう前に、一時停止ボタンを押したに過ぎない。

 L-ウイルスの蔓延を止め、人類という「ハードウェア」を、その遺伝子情報を、地上に保存するための苦肉の策だ。

 いつか、新しい「ソフトウェア」がインストールされる、その日まで。


 降下深度、7,000メートル。目標地点が、近い。


 この、海底地下1,200メートルに眠る施設。

「アーク・オメガ」。

 ここが、私の最後の任務であり、最後の職場だ。


 アーク・オメガは、研究施設ではない。

 それは、種子バンクだ。

 L-ウイルスに、一切、汚染されていない、純粋な人類の最後のアーカイブ。

 数万種類に及ぶ、遺伝子情報。そして、1,000体を超える、健常な凍結受精卵。

 人類という種の、完全なオフライン・バックアップだ。


 私の使命は、終わった。

 これより、私の、本当の「任務」が始まる。

 私はこの揺り籠の、唯一の守護者となる。

 凍てついた我々の種の夢を守る、最後の兵士だ。


 「何か」が、この星を、ただの失敗した実験場として処理するのか。

 あるいは、人類が自らの力で未来を築くのか。

 私には、わからない。

 だが、もし、そのどちらでもない、第三の未来があるのなら、このアーク・オメガが、そのための最後の変数となるだろう。


 私は、人間性を捨てて、人間という「概念」を保存した。

 そして今、私は、自ら、この圧殺されるような、静かな闇の中へ下っていく。

 ただ、待つために。


 …「オルフェウス」、ドッキングシークエンスに移行。

 アーク・オメガへ、ようこそ。


[ログ記録終了]

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