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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
69/83

聖座機密文書庫より:信仰の危機に関する、枢機卿[編集済]から教理省長官への私的書簡

 文書ID: ARCHIVUM SECRETUM APOSTOLICUM VATICANUM - Prot. N. [編集済]

 日付: 大沈黙の3年1ヶ月前

 言語: ラテン語(抜粋および旧・日本語訳)


 Eminentissime Domine,(いと敬愛すべき猊下へ)


 主にありて。

 私がこの筆を執りますのは、単なる管理上の問題ではなく、私の60年にわたる神への奉仕の中で、かつて経験したことのない、最も深刻な霊的危機についてご報告するためです。


 異変は、若い司祭や神学生たちの間から静かに始まりました。

 彼らは、突然、不可解な形で「祈ることができなくなった」と、告白するのです。

 何万回と、その唇で唱えてきたはずの「主の祈り」や「アヴェ・マリア」の言葉がある瞬間から、全く意味のない空虚な音の羅列にしか感じられなくなってしまった、と。神との、あの神聖な繋がりが断ち切られたようだ、と。


 さらに、憂慮すべきことに、ミサにおける聖書の朗読の最中、数名の司祭が言葉に詰まり、立ち往生する事態が複数回発生しています。

 ある優秀な若者は、創世記を読む最中に泣き崩れました。彼は、全ての創造の根源である、あの「In principio erat Verbum(はじめにことばありき)」という一節が、彼の目には意味のない、ただのインクの染みにしか見えなくなった、と訴えたのです。


 最も深刻な危機は、告解室で起きています。

 何人もの司祭が、信徒から告白された罪を「理解」できない、と。

 聞こえないのではありません。赦しを与えるための、悔悛の言葉が、その力を失ってしまった、と。赦しそのものの「意味」に、触れることができなくなった、と。


 猊下。当初、私はこれを、我らの敵による新たな陰湿な攻撃であると考えておりました。信仰心を内側から蝕む、一種の「霊的怠惰アケディア」ではないかと。

 我々は、断食と、さらなる祈りを、彼らに課しました。

 しかし、この霊的疾患は、悪化する一方です。沈黙は、彼らを神に近づけはしない。むしろ、その虚無を深めるだけのようです。


 そして今、私は、より恐ろしい疑念を抱いております。

 問題は、司祭たちの信仰心にあるのではなく…「言葉」そのものにあるのではないか、と。


 もし、万物を成した神の「ロゴス」が、この世界から、その力を引き上げつつあるとしたら?

 もし、我々の信仰の器そのものである「言語」が、ひび割れた杯となり、もはや、聖なるものを受け止めきれなくなっているのだとしたら?


 我々は魂ではなく、神へと至る言葉の梯子そのものを攻撃する、未知の敵とどう戦えばよいのか。

 猊下、なにとぞ、あなた様の深遠なるご指導をお示しください。

 この件は、最高度の機密として扱われねばなりません。もし、バチカンの心臓部で「ことば」そのものが力を失いつつあると知られれば、十億の魂の信仰が、一夜にして消え去ってしまうでしょう。


 主にありて、あなたのしもべ

 枢機卿 [編集済]


(この書簡に対する、教理省からの公式な返信は記録に残されていない)

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