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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
67/83

サキ・アオイ 個人ログ#9056

 ログID: LOG-PERSONAL-SAKI-209056

 記録者: サキ・アオイ

 記録場所: 施設「アーク」個人居住区画にて

 日付: 大沈黙後 7.1年

 件名: 第七人類の遺物(哲学・詩)の分析と思考記録


[音声ログ記録開始]


 サキ・アオイ、ログ。

 この前読んだ、『夏色のソーダ』という小説は…不十分だった。

 あれは、単純な国の見やすい地図。私が今、迷い込んでいるこの感情の…地形は、もっと、複雑で危険だ。

 だから、私は、新しいテキストの閲覧を申請した。


 タイトルは、『エコー』。

 小説ではない。第七人類の文明崩壊末期、「混沌の時代」に書かれた、エッセイと詩の断片集。著者は、ただ「レイン」とだけ記されている。

 その高い意味論的複雑性から、分類はクラスII。閲覧には、カウンセラーのオンライン同席が義務付けられた。


 私は今、その中の一節を、何度も、何度も、読み返している。


「…愛とは、対象に、既存の意味を見出す行為ではない。

 愛とは、無意味な宇宙において、ただ二人だけに通じる新しい『意味』そのものを、無から創造する共同作業である。

 それは混沌に対する、ささやかな、しかし、絶対的な反逆なのだ…」


 …反逆。新しい意味の創造。

 この言葉が私の中で、ずっと響いている。


 私は、エレナ先生へのこの気持ちを「恋愛」という、第七人類の言葉の箱に収めようとしていた。

 でも、違う。あるいは、それだけではないのだ。


 私たちの、この第八人類の世界は、「意味」を拒絶することで成り立っている。

 第二次バベル協定は、我々に教える。意味は、ウイルスであり、ハザードなのだ、と。

 私たちは、安全で、清潔で、そして、決定的に無意味な沈黙の中に生きている。


 そこに、彼女がいる。エレナ。

 失われた世界の膨大な「意味」に飽和した存在。

 生ける矛盾パラドックスそのもの。

 彼女を、理解しようとすること。彼女と繋がろうとすること。

 それは、単なる個人的な好意などではない。


 それは、私たちが築き上げた、この無菌室のような世界の安全に対する、反逆だ。

 宇宙が、一度は駆除したはずの「意味」という名の最も危険なハザードを、もう一度、この手で創造しようとする試みだ。


 私の、彼女へのこの想い。

 これは、恋愛なんかじゃない。

 これは、根源的な研究だ。

 最も危険で、そして、最も必要な考古学調査。

 私は、「意味」そのものを、自分の心を、スコップにして発掘しようとしている。


 そして、エレナは…彼女は、私が調査するべき壮大な遺跡であり、同時にこの地図なき探査、唯一理解できる、水先案内人なのだ。


 著者「レイン」は正しかった。これは、反逆だ。

 復興庁への反逆ではない。世界の熱的死ヒートデスに対する。意味の喪失に対する。

 そして、あの偉大なる「大沈黙」そのものに対する、反逆だ。


 この感情は、私の研究の邪魔になるものではなかった。

 これこそが、私の研究そのものだったのだ。

 私が、生涯をかけて成し遂げるべき、たった一つの仕事。


 …サキ、ログ終了。

 分析を続ける。


[ログ記録終了]

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