表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
60/83

F.C.E.U. 市街地パトロール部隊 交戦記録

 事案ID: INC-SZ-KYOTO_S5-201109

 記録者: [編集済](第4分隊 観測手)

 日時: 大沈黙後 6.8年

 場所: 旧京都市 第5セクター内「サイレント・ゾーン」


[状況記録開始]


【16:22 JST】

 定時監視任務中、ゾーン内で、H-住民(ハッシュ影響下、あるいはそれに準ずる末期GPAの住民)とは異なる、2名の活動的な人間(男女、共に「耐性者」と推定)を確認。


【16:25 JST】

 対象の男が、ゾーン内を一人で遊行していたH-住民の女性に接近。腕を掴み、近くの廃墟ビルへと、無理やり引きずり込もうとしている。

 H-住民の女性は、一切の抵抗や、恐怖の情動を示さず。

 対象の男の意図は、明白な敵対的・捕食的行為と判断。我々の部隊が、介入プロトコルに移行しようとした、その瞬間。


【16:26 JST】

 第三者が、現場に介入。

 個人識別コード:未登録。外見的特徴から、最重要人物ファイルに登録されている、コードネーム「女教師」と断定。


「女教師」は、警告を発することなく、被疑者男性に接近。

 被疑者は、彼女の存在に気づき、威嚇行動を取る。

 以下、収音マイクが拾った、被疑者の発話内容。


「(音声解析より)なんだ、てめえ。こいつは、もう人間じゃねえんだよ。ただの人形だ。お前も、欲しいのか?」


【16:27 JST】 - 交戦発生

「女教師」は、被疑者の言葉に一切反応せず、懐から第七人類時代の小型拳銃(ワルサーPPKと推定)を引き抜き、0.5秒以内に、2発、発砲。

 1発目は、被疑者の右膝。2発目は、眉間。

 完璧な「モザンビーク・ドリル」である。対象は即死。

 銃声に対し、周囲のH-住民たちは、一切の反応を示さず、自らの遊行を続けている。


【16:28 JST】

「女教師」は、逃走したもう一人の耐性者(女)を追うことなく、武器を懐に収める。

 そして、その場に立ち尽くしていた被害者の女性に、静かに歩み寄る。

 彼女は、乱れた被害者の衣服を、静かに、そして、どこか優しい手つきで整えた。

 その後、まだ放心状態の被害者の手を引き、近くの建物の軒下まで雨に濡れないように連れて行った。


【16:30 JST】

 我々の部隊が、現場に到着する直前、彼女は路地裏へと姿を消した。

 追跡は、不可能だった。


 観測官による所見:

 本件により、コードネーム「女教師」に関する、以下の2点が確定した。


 彼女は、エリートレベルの戦闘技術を有し、「無垢な者」と彼女が判断した対象を守るためなら、寸分の躊躇もなく、致死的な暴力を行使する。


 彼女の行動原理は、単なる自警主義ではない。極めて厳格な、個人的な道徳律に基づいている。彼女は、捕食者に対する、捕食者である。そして、H-住民たちに対する、守護者である。


 彼女の存在は、文明復興庁の治安維持能力と、その権威に対する根本的な挑戦である。

 対象の脅威・有用性レベルを、最高位の「オメガ」に引き上げることを具申する。


【記録者による追記】


 本報告書の提出後、改めて最重要人物ファイルを照会した。私の記憶に誤りがなかったか、確認するためだ。

 ファイルによれば、コードネーム「女教師」の活動が最初に記録されたのは、「大沈黙」直後まで遡る。そこから逆算される彼女の推定年齢は、現在80歳から90歳に達しているはずなのだ。


 だが、私が今日、この目で観測した彼女は、どう見ても壮齢期ですらなかった。精緻な動き、一切の衰えを見せない身体能力は、20代、あるいは30代のものにしか見えなかった。

  これは一体どういうことだ。観測機器の故障か? それとも、私の目が、あの瞬間の緊張で錯覚を起こしたというのか?


 いや、違う。あの完璧な「モザンビーク・ドリル」を執行した、揺るぎない存在感。あれが見間違いであるはずがない。

  もし、記録も、そして今日の観測も、どちらもが真実であるならば。我々が「女教師」と呼ぶ存在は、我々の知る生命の理から、逸脱していることになる。

  彼女は、なぜ老いない? 彼女こそが、我々とは異なる何かだというのか。


 銃弾よりも冷たい、静かな恐怖が背筋を伝う。彼女は、本当に「人間」なのだろうか。


(報告書は、ここで終わっている)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ