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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
58/83

サキ・アオイ 個人ログ#4299

挿絵(By みてみん)



 ログID: LOG-PERSONAL-SAKI-204299

 記録者: サキ・アオイ

 記録場所: 施設「アーク」個人居住区画にて

 日付: 大沈黙後 6.2年


[音声ログ記録開始]


 サキ・アオイ、個人ログ。

 …今日は、セクターC「解剖室」の、分厚い遮蔽ガラスの向こう側で、彼らを見た。

 エレナ博士とリアムが、二人きりで作業をしていた。


 対象は、クラスIIIの重度に汚染された第七人類のデータコア。

 彼らは、テキストも、ハンドサインも、ほとんど使っていなかった。

 リアムが、汚染されたデータの奔流の中から、指先で、安全なパスを引き抜いていく。すると、エレナが、彼が次に何をすべきか、まるで予知していたかのように、コンソールに、次の指示系統図を、黙って表示させる。

 彼らの思考が、私には見えない、もっと深い、もっと直接的な層で、繋がっているように見えた。


 そして、私は感じてしまった。

 胸の奥を、ちくりと刺す、醜い、小さな痛み。

 第七人類の言葉に、これにぴったりの単語があった。確か…嫉妬、という。


 馬鹿げている。リアムは、ただの同僚だ。彼らの間に、私が求めるような「感情」のやり取りなど、あるはずがない。

 私の、この醜い感情は、もっと、専門的で、そして、もっと、根本的なものだ。


 リアムは、彼女の「言葉」を、理解できるのだ。

 英語でも、ロシア語でもない。データの言葉。破損した論理の言葉。パターン・ゼロの文法。

 彼は、彼女が今、その大半を生きている、デジタルの廃墟を共に歩くことができる。彼女が、ウイルスの断片を解剖する時、その思考の速度についていくことができる。

 彼は、深淵の同業者なのだ。彼女の中の「機械」の部分と対話ができる。


 では、私は?

 私は、考古学者だ。遺されたものを扱う。陶器のかけら、骨、色褪せたテキスト。

 私は、データの奥にある「悲しみ」や「人の営み」は理解できる。彼女の中の「魂」に、触れることはできるかもしれない。

 でも、私は、「コード」に触れることができない。


 私は、彼女が失った人間らしい過去への慰めにはなれるかもしれない。

 でも、リアムは、彼女が今、対峙している、非人間的な現実への「理解」を与えることができる。

 彼女のような精神にとって、本当に価値があるのは一体、どちらなのだろう。


 彼女は、私との繋がりを、「美しく危険なパターン」と呼んでくれた。

 でも、今日、私は、別のパターンを見てしまった。

 もっと、効率的で、もっと「互換性」のあるパターンを。


 これは、もう感傷に浸っている場合ではない。

 彼女の隣に、本当に、立ちたいと願うのなら。

 私は、ただ、死者を理解する者であるだけでは、ダメなのだ。

 彼女が、日々、共に生きている、あの「幽霊」を、私も理解しなければならない。


 リアムが話す、あの、ウイルスの言葉を。

 私も、学ばなければ。

 たとえ、その先に、私の精神の崩壊が待っていたとしても。

 私だけが、この沈黙の中に取り残されるのは、もう、嫌だ。


 …サキ、ログ終了。


[ログ記録終了]

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