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第七人類絶滅報告書  作者: ななめハンバーグカルパス
第二部 文明復興庁
54/83

サキ・アオイ 個人ログ#811

 ログID: LOG-PERSONAL-SAKI-2811-01 (機密レベル引き上げ)

 記録者: サキ・アオイ

 記録場所: 施設「アーク」個人居住区画にて

 日付: 大沈黙後 2.6年


[音声ログ記録開始]


 サキ・アオイ、個人ログ。

 …エレナ・ペトロヴァ博士との通信を終えた。

 興奮と、畏怖と…そして、私の理解を超えた巨大な恐怖で、指が、まだ震えている。


 通信を要求する前に、私は、彼女の個人ファイルにアクセスした。もちろん、ほとんどが最高機密で塗りつぶされていたが、基本的な情報はあった。

 第七人類の時代の暦で、1980年代の生まれ。

 …計算した。現在の我々の暦では、彼女は、90歳に近いはずだ。


 だが、画面の向こうにいた女性は、どう見ても、30代後半にしか見えなかった。

 それは、「若々しい」というレベルの話ではない。

 あれは、「不変」だ。生物学的なありえないほどの、時間の停止。


 彼女の、あの切りそろえられた黒髪。

 それは、大沈黙の直前に撮影された、70年以上も前の彼女の写真と、全く同じだった。白髪の一本すらない。伸びている様子もない。まるで、昨日、寸分違わず同じ長さに切りそろえたかのように。


 彼女の顔には、確かに、深い疲労の線が刻まれている。だが、それは加齢によるシワではない。禁じられた知識に触れすぎた精神が肉体に刻み込んだ、ひび割れだ。肌そのものには、重力に従う「たるみ」が、一切、存在しない。


 どうして?

 第七人類の生命延長技術は、理論上のものだったはず。

 では、なぜ彼女だけが?

 …まさか。


(ログに、数秒間の沈黙と、サキが息を呑む音が記録されている)


 …ロゴス・ウイルス。

 我々は、あれを「思考を殺す毒」とだけ、定義していた。

 だが、もし、その作用が、それだけではなかったとしたら?

 ウイルスは、宿主の認知システムを、情報を、パターンを、徹底的に「解析」し「分解」する。

 ほとんどの人間は、そのプロセスに耐えきれず、崩壊した。

 だが、彼女は、そのウイルスの最も純粋な形に、最も長く、触れ続けた人間だ。


 もし、ウイルスが、彼女の精神を分解する過程で、彼女の肉体を構成する「情報」…遺伝子情報、生体パターンそのものを、完全にマッピングし、そして、「保存」してしまったとしたら?

 崩壊と再生の、無限ループ。彼女の身体をウイルスの感染が始まった、あの「若かった瞬間」の状態に、永遠に固定し続けているとしたら…?


 彼女は、老化しないのではない。

 彼女は、生物として、もはや、前進していないのだ。

 彼女は、黙示録という名の琥珀の中に封じ込められた、完璧な標本。


 私は、第七人類の生き残りと話していると思っていた。



 違う。

 私は、第七人類の最も美しく、最もおぞましい、生きた遺物(アーティファクト)と対話してしまったのだ。

 彼女は、墓所の図書館員ではない。彼女自身が、この墓所の最高傑作にして、最大の呪われた収蔵品だった。


 あの人は、本当に人間なのだろうか?

 それとも、ロゴス・ウイルスが、我々を理解するために作り上げた、完璧な、生きた「報告書」なのだろうか?


 …サキ、ログ終了。

 今夜は、眠れそうにない。


[ログ記録終了]

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